総帥、門脇でパンをくわえたバグと衝突する~悪役令嬢(中身:弟)の咆哮~
やはり平民のドジっ子(死語)ヒロインは必要なのかなって・・・
国立聖エルゼ学園、正門。
そこは、身分という名の鎧を競い合う社交の最前線だった。
佐伯悠馬は、ショップスキルで買った『Tescoのミントタブレット』を噛み砕いた。
「……お母さん。馬の排泄物による異臭。学園のQOLが著しく低いです。帰りたい」
「兄さん! 見てください、門の陰! テンプレの伏兵ですよ!」
銀髪を翻した美少女――中身は野太い声の弟、ノア――が、豪華な扇子を「バシッ!」と閉じ、特定の一点を指し示す。
そこには、平民特待生の制服を纏った少女が、食パンをくわえて全力疾走していた。
「……計算上、私との衝突確率は98%。……ノア、回避機動を。私はセクハラ冤罪のリスクを最小化します」
悠馬は完璧なサイドステップを踏もうとした。だが。
『ぴこーん☆ 物理法則、一時改変! 「衝突の引力」発動だよん♡』
不可視の力に引き寄せられ、悠馬の体は少女へと吸い込まれた。
「きゃああっ!?」
「……ぐっ」
ドサリ。
少女がくわえていた食パンが宙を舞い、泥の中に落ちた。
「……あ、あの、ごめんなさい……! 私、遅刻しそうで……」
涙目で見上げる少女。
悠馬は、泥まみれのパンを冷徹に見下ろした。
「……貴女。歩行中の摂食は、前方不注意による交通事故を誘発します。それと、そのパン。……ノア、ショップから『ハミルトン・ハイパー・クロワッサン』を。代替品供与による示談です」
「うっす! 兄さん! ほらよ、これ食って脳みそハッピーにしな(野太い声)」
ノアが、ドレスの袖を豪快にまくり上げ、瑞々しい二の腕を晒しながら、黄金のクロワッサンをヒロインに投げつけた。
ヒロインが一口齧った瞬間、背後に花が咲き乱れる。
「……な、なにこれぇぇ! 幸せすぎて、王子様に一生ついていきたくなっちゃうぅぅ!」
「……やめてください」
そこに、門脇で待ち構えていた「ざまぁ対象」が現れる。
無駄に縦ロールを巻いた取り巻き令嬢と、成金趣味の中堅貴族の男子。
「――待ちなさい! 貴様のような亡命王子(笑)が、神聖な門の前で平民と戯れるなど、学園の品位を汚す行為ですわ!」
悠馬は、ゆっくりと彼らに向き直った。
「……学園の品位、ですか。貴殿のその過剰な装飾、それこそが、この教育機関のブランド価値を棄損しているとは考えないのですか?」
「……な、なんですってぇ!?」
「……ノア。彼らの実家の主要取引先を特定。同等商品の90%OFFセールを仕掛けなさい。ハミルトン流の価格競争です」
「了解です兄さん! でも、その前に――」
ノアが一歩、前に出る。
銀髪が風に舞い、光を受けて輝く。その姿は、まさに降臨した女神のようだった。
「――おい、コラァ!!」
正門前に、地鳴りのような咆哮が響き渡る。
ノアは、豪華なドレスの裾をガバッとまくり上げ、ガニ股で踏み込み、男子貴族の胸ぐらを掴み上げた。
「……っ、な、なんだ、この令嬢……! 力が、強すぎ……!」
「あぁ? 学園の品位だぁ? 兄さんが正論パンチくれてやってんのに、ガタガタ抜かしてんじゃねぇぞ(野太い声)」
男子貴族を軽々と持ち上げ、そのまま石柱へ叩きつける。
「ドン!」
石柱にヒビが入る。
「兄さんの『価格競争』はお前らの実家を潰すけど、僕の『フィジカルざまぁ』は、今ここでお前らの尊厳を粉砕する(野太い声)」
白く美しい拳が、顔の横に叩き込まれる(寸止め)。
轟音。
「……ヒィィィッ! 助けて、悪魔だぁぁ!」
「うっふふ☆ お姉様方、こいつら、僕が『悪役令嬢』としてトドメ刺していいっすよね!?(野太い声)」
「……っ、ノアお姉様……! 素敵……!」
(※野太い声は、なぜか「凛とした声」として認識されていた)
門脇で、パンを食べるヒロインを背に、銀髪令嬢が物理的に蹂躙し、それを悠馬が冷徹に見つめる。
【読者満足度:測定不能】
「……なぜ、こうなった」
悠馬は、胃薬を飲み込みながら門をくぐった。
異世界。それは、総帥が「正論」、悪役令嬢(偽)が「物理」を担当し、学園生活を焼け野原に変えていく、キラキラした修羅場だった。
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