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お前らはこういうのが好きなんだよな!!!!~佐伯悠馬、異世界で全部やらされる~  作者: 雪森蓮


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4/10

徳:測定不能。~歴史的建造物の修繕費用は経費で落ちますか?~

自分でもどこに向かうかわからない感じでやってますんで生暖かく見てください。

異世界四日目の朝。

 その幕開けは、辺境の安宿に漂うカビ臭い空気を一変させる、暴力的なまでの金属音だった。

 白銀の甲冑がぶつかり合い、精緻に磨き上げられた盾が宿の粗末な壁を削り取る。


「――亡命王子の嫌疑がある不審者、並びにその一行! 王宮直属、第一騎士団『聖なる鉄槌』隊が通る。神妙にせよ、この不敬な密売人どもめ!」


蹴破られたドアの向こう、舞い上がる埃の中に現れたのは、もはや「歩く予算の無駄遣い」としか形容できない過剰な装備の男たちだった。王国の紋章――聖なる盾と剣を象った金糸の刺繍が、これでもかとばかりに厚く施された真紅の外套。その繊維一本一本にまで魔力が付与され、窓から差し込む朝陽を、まるで核爆発の光のように凶悪に反射している。


佐伯悠馬さえき ゆうまは、ショップスキルで召喚した『Tescoの格安アールグレイ(賞味期限間近)』の、安っぽいベルガモットの湯気の向こうで、冷徹な仮面を維持したまま、内臓を雑巾絞りにされるような激しい胃痛に耐えていた。


「……お母さん。英国紳士の平穏なモーニングルーティンが、国家予算を投じた重装備集団による、令状のない不当な家宅捜索に上書きされました。……ノア、エルゼ、身支度を。コンプライアンスの観点から、まずは出頭し、適正な法的手続きと、精神的苦痛に対する賠償の算定を求めます」


だが、悠馬の意思とは無関係に、女神の「雑な王道演出」が牙を剥く。

 強制的な着せ替えイベント――光の粒子が収まったとき、悠馬は「石ころのような路地裏の住人」どころか、「人類を支配する魔王の御曹司」のような装束を纏わされていた。


深海のようなミッドナイトブルーの軍服風コート。襟元には、それだけで小国の国家予算が動くほどの密度で金モールが編み込まれ、ボタンの一つ一つには、英国のハミルトン家の紋章を1ミクロン単位で模した、変執的な彫金がなされている。肩から掛けられた純白のサッシュは、歩くたびに絹特有のしなやかな光沢を放ち、悠馬の望まぬ「偽りの王族オーラ」を、天を衝くほどの高さで引き立てていた。


対してノアは、もはや「公爵令嬢」という概念を通り越した「歩く宝飾品」そのものだった。

 何層にも重ねられたシルクシフォンのスカートは、菫色から深い紫へのグラデーションを描き、裾には熟練の職人が一生を捧げて編んだであろう、極小の真珠を五万粒あしらったレース。胸元には、ハミルトン・ブルーを象徴する、人の拳ほどもあるサファイアのブローチ。


「兄さん……見てください、この無駄なフリル! 動きにくいことこの上ないっす! これじゃあ、いざという時に敵の首を素手でへし折るのに、0.2秒は遅れますよ!(野太い声での咆哮)」


「……ノア。公爵令嬢の行動指針に『素手での殺傷』は含まれていません。黙りなさい」


悠馬は、胃を抱えながら学園の講堂へと連行された。

 そこで待っていたのは、テンプレ通りの「無能な上級生」による、いじめの現場だった。


「ひ、ひぃぃ! お、王家の血を引く私に意見するとは不届きな! 貴様のような身元不明の王子(笑)など、この私が――」


悠馬は、その騒音をシャットアウトするため、静かに指を一本、スッと上級生の鼻先に向けた。


「……了解。……ノア、支援を。エルゼ、後処理をお願いします。……静粛という名の、福利厚生を提供します」


悠馬の意図は「そよ風程度でバランスを崩し、その隙に立ち去る」という、穏便な経営判断だった。

 だが、女神の盛りすぎたバフと、悠馬の内に眠る「ハミルトン流・過剰サービス精神」が化学反応を起こした。


全属性魔法・極大出力。


「ドォォォォォォォォォン!!」


次の瞬間、学園の誇る五百年の歴史、アーチ状の大理石天井が、まるで消しゴムで消されたかのように「虚無」へと置換された。

 上級生たちは文字通り空の彼方、成層圏を突破する勢いで消え去り、いじめられていた生徒は、悠馬の放った余波――神々しいまでの、分子レベルで細胞を活性化させる癒しの光子――に包まれ、虫歯から古傷、果ては将来の不安に至るまでが瞬時に全快した。


悠馬は、一欠片の瓦礫すら残らず消え失せた、眩しいほどの青空を切ない目で見上げた。


「……お母さん。私は、良いことをしたはずです。QOL(生活の質)を改善し、ハラスメントを根絶したはずです。……なのに、なぜ私の視界は常に、焼け野原をリノベーションした後のような『更地』に固定されるのでしょうか」


悠馬は、英国紳士らしく、懐から取り出した『Tescoのチョコレートビスケット(全粒粉入り)』を、震える指先でそっと噛みしめた。

 口の中に広がる甘さは、周囲で呆然と跪く生徒たちが発する畏怖の眼差しと、崩れ落ちた大理石の微細な粉末よりも、なお、苦かった。


【読者満足度:150%】

【称号:『更地の貴公子』『天井ブレイカー』が追加されました】

【新規ヒロイン:ヤンデレ聖女が「浄化(物理)の素晴らしさ」に目覚めました】


「……女神。一つだけ、公式文書として質問させていただきます」


『なーに? 悠馬くん☆』


「……私は、ただ、母さんの作った……少し焦げた……あの安いトーストが食べたいだけなんです……」


『ダメ~☆ 今夜は「天井のない学園」での、星空フルコースパーティー(強制参加)だよ♡』


悠馬は、静かに二錠目の胃薬を噛み砕いた。

 ハミルトン総帥、異世界四日目。

 彼の「善行」という名の戦略的誤爆は、ついに建築物の耐震基準という概念すら、この世界から消し去ろうとしていた。

不定期で連載します。評価、ブクマ、感想いただけると励みになりますよそりゃあもう!たまに押してくれても罰は当たらないんですよ!そこの読んでくれてるあなた!!

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