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片想いは横顔しか見れない  作者: 大和あゆむ


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2/2

後編



「失礼しました」


 監督に呼ばれたオレは、職員室からお辞儀をしたまま退出する。

 明りが煌々とする廊下の真ん中を堂々と歩いた。コツコツと響くのは、人ではなく足の話し声だ。

 外の雑音が喧騒に近い夕方。オレは遅くなった事を自覚し、下駄箱まで足早に進む。

 上靴がびっしり詰められた木の囲いに、嘆息をそろそろ吐いた。

 上靴とスニーカーを入れ替え、外へ移した視界に一人の後ろ姿が映る。

 玄関の前で立ち尽くす、どこか儚い女子。背景に添えられる雨がその儚さを加速させていく。

 しばらく雨を眺めていた彼女だったが、靴を履く音に振り向いた。


「あ」

「あ」


 彼女はあの美緒だった。

 だが、不思議と緊張はしない。どこか吹っ切れたような、諦めがついているような。戦意喪失に近いだろうか。

 校舎の玄関前で肩を並べる。


「雨だね」

「雨だな」


 二人は同じ方向を向いた。

 ただ見えている景色は違う。

 いや途方もなく違うに違いない。


「車を待ってるの?」

「いや、家にスマホを忘れたから」

「親を呼べないのかぁ……そりゃ災難だったね」


 バッグから折り畳み傘を出す最中、一瞥してみるが美緒は外を眺めるばかりだ。

 しかし、それは何かの待ちに見えた。

 車なのか、雨が止む事をなのか。定かではないけれど。


「美緒は何を待ってんの?」

「私、家に傘を忘れちゃった」


 屋根から出した美緒の掌が雨を弾く。

 まるで『君の傘に入れて』と言外に滲ませているよう。

 美緒の遠回しな回答に新鮮さを覚えつつ、彼女にも面倒な一面もあるんだなと少し嬉しくなった。

 そのせいか、


「なんで笑っているの?」


 オレは笑ってしまう。

 それに機嫌を損ねた美緒が、むくっと頬を膨らませ、近づいてくる。

 その様子がまた笑う要素だったりするのだけれど。


「いや、ごめんごめん。意外と等身大なんだなって」

「なに? 私、背は高くないでしょ?」


 そういう事じゃない、と言う前に。

 背伸びした美緒の頭がオレの胸に当たりそうになって、一歩下がった。

 距離感が明らかにおかしい。

 揺れる視線を外し、咄嗟に話題を変える。


「……美緒なら友達に貸してもらえるだろ?」

「うわー、それ言っちゃう? 言える訳ないよ、傘忘れたなんて」

「そんなもんなのか?」

「そんなもんなの」


 教師のごとく美緒は、人差し指を立てて言う。

 断る手駒も、理由も尽く断たれた。

 照れ臭さに口が震えながらも、折り畳み傘を強調して言い放った。


「美緒がこれで良かったらだけど、折り畳――」

「うん、ありがと」


 食い気味に感謝を伝える美緒が先に外へ出た。

 後ろで手を組む彼女の足取りは、微かに浮いてる。

 そう感じたのは気のせいだったろうか。



 ***



 人気のない歩道を肩身狭く男女が歩く。

 傍から見ればカップルと見立てられる光景が、恥ずかしくもあり嬉しくもあり。


「美緒は、オレと帰っていいのか?」


 そんな事を聞いてしまった。

 何と情けない事か。

 しかし美緒のことだから、当たり障りもない回答をすると思っていたが。


「なんでそう思ったのぉ?」


 軽い口調で問いただしてきた。

 これには正直驚く。

 ただ先程にはない距離感で、心地良さは実際にあった。


「カップルと間違えられるかもだろ」

「いけない? 啓吾くん都合でも悪いの?」


 答えを知っているかのような悠然なる問い掛け。

 オレは勿論、「いや」と首を振った。

 すると美緒は眉毛を上げて、傘の中で一歩先を行く。


「なら大丈夫。啓吾くんが良いなら大丈夫」


 その復唱が美緒自身に言い聞かせているようで。

 彼女への想像はかなり違ったモノを描いていたのだと、今更ながらに気付く。


「なんやかんや、美緒と話すのって初めてだよな」


 話題の橋掛けとなれば、そんな意図による会話。

 そこまで深く考えてはいなかった。

 だが静寂は漂い、雨の匂いがしっとりと鼻に届いた。


「……そっか。流石に覚えてない、よね」

「え」


 寂寥を孕ませた声音が雨音に負けじと響く。

 言葉はまるで地面に落ちた。


「――私、ずっと見てたよ。君のこと」


 傘を叩く雨の音が止み、香水の匂いが鼻を撫でる。

 初めて正面で向き合った。

 濡れた髪を整える美緒の頬は赤らんでいる。


「あの時から横顔だけだけど」


 綻ばせた笑顔は胸を打つほどに美しく。

 当時の、水の冷たさと川のせせらぎ。

 ――体の柔らかさを思い出させた。


 片想いは横顔しか見れない。

 そう本当に片想いならば――。


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― 新着の感想 ―
恋愛タグだったので胸がキュンキュンするような内容なのかなと思いながら読ませて頂いたら、まるでしとしとと降り注ぐ雨のような静かな物語で落ち着いた雰囲気を感じました。その中でも「横顔」という表現、水泳を始…
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