告白したら彼女の家で家庭内裁判が始まった
僕、佐野優介は緊張していた。告白するために意中の相手を夏休みの登校日、校舎裏に呼び出したからだ。今、目の前には想い人である山本真紀がいる。
「それで用事って何かな佐野君」
山本さんが問いかけてくる。用事があるとだけ言って呼んだのでその反応は当然だ。ここまで来てしまったらもう後には引けない。僕はなけなしの勇気を振り絞り口を開いた。
「山本さん、ずっと前から好きでした。僕と付き合ってください!」
「私のこと好きって本当?」
予想外の答えが返ってきた。まさか告白してその好意を疑われるとは思ってもいなかった。
「もちろん、好きだよ。そうじゃないと告白なんてしないよ」
改めて好きと言うのは少し恥ずかしかったが好意を信じてもらうためには仕方ない。山本さんは悩んでいるようだ。悩んでいるなら多少脈はあるのかもしれない。断り方を考えているのかもしれないが。
「今から時間ある?」
「あるけど告白の答えは?」
告白が成功した場合を想定し予定は入れていないがそれよりも早く告白の答えを聞きたい。
「それもそこに着いたら答えるよ」
そう言われてしまってはもうついていくしか僕に選択肢は無い。放課後だったので荷物を持ってそのまま下校し僕たちは目的の地へと向かった。
道中はお互いほぼ無言だった。山本さんは誰かと連絡を取っているのか時折スマホを触っていた。久々に山本さんが口を開いたのはとある一軒家の前に着いた時だった。
「着いたよ」
「ここは?」
「私の家」
どうやら目的地は山本さんの自宅だったらしい。なぜ告白した後にここに連れてこられたのか分からないが告白の答えを聞くためには行くしかない。僕ら2人は山本さんの家に入っていった。
「ただいま」
「お、おじゃまします」
山本さんの後に慌てて挨拶する。するとスーツを着た女性が1人奥から出てきた。おそらく山本さんの母親だろう。
「おかえり真紀。佐野君もいらっしゃい」
「えっ? あ、おじゃまします」
驚いて素っ頓狂な声が出てしまった。山本さんのお母さんとは初対面のはずだ。それなのになぜ僕のことを知っているのか。もしかして山本さんから事前に聞いていたのかもしれない。
「お母さん。準備はできてる?」
「ばっちりよ。いつでもはじめられるわ」
「分かった。じゃあ行こうか佐野君」
「う、うん」
会話に全然ついていけていない。今から一体全体何がはじまるのだろう。案内されリビングらしき部屋に入ると中には2人の男女が座っていた。
「よく来たね佐野君。私は真紀の姉の有紀よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
女性の方は山本さんのお姉さんのようだ。なんとなく外見が似ている。ただ深窓の令嬢のようなイメージの山本さんと異なりお姉さんにはどこか活発な印象を受けた。スーツを着ているのでバリバリのキャリアウーマンに見える。お姉さんに挨拶し終えると男性の方も僕に声をかけてきた。
「私は山本茂。真紀の祖父だ。今日はよろしく頼むよ」
「佐野優介です。こちらこそよろしくお願いします」
男性の方はお爺さんだったらしい。スーツが似合っていてハードボイルドという言葉がぴったり合う。というかこの家の住民は山本さん以外なぜスーツなのだろう。そんな事を疑問に思っているといつの間にか側にいた山本さんのお母さんが口を開いた。
「じゃあ真紀と佐野君が揃ったしはじめましょうか」
僕以外のこの場にいる全員が無言で頷いた。そしてお互い分かり合っているかのように席についていく。僕が戸惑っていると山本さんは横の席を指さした。それに従い山本さんの隣の席に座ることにした。全員が席に着くと山本さんのお爺さんがゆっくりと話し始めた。
「これから家庭内裁判を始めます。」
なにが起きるかは見当もつかなかったが何かろくでもないことが始まる気がした。
山本さん曰く昔から山本家では家の中で揉め事が起きた場合には家庭内で疑似的な裁判をして解決してきたらしい。裁判をすると問題をお互いに客観的に見ることができ冷静になるためすぐ揉め事が終息するのだとか。そして、今回その家庭内裁判に俺が呼ばれたようなのであった。何故だ。
「それでは検察側は被告人の罪状と求刑内容を発表してください」
裁判官役の山本さんのお爺さんである茂さんが検察役の山本さんのお母さんに問いかける。
「はい。検察は被告人佐野優介に乙女の純情を弄んだ罪として死刑を求刑します」
気づけば身に覚えのない罪で死刑宣告されていた。なんだ乙女の純情を弄んだ罪って、僕は自分で言うのも悲しいが学校生活の場でモテたことがない。そんな罪、僕から最も遠い罪である。
「異議あり。罪状及び求刑内容に納得がいきません」
今回は僕の弁護人を引き受けてくれる人がいなかったため弁護人の役も僕が兼任することになっていた。僕は自分自身を守るため異議を唱えた。
「弁護側及び被告人落ち着いてください。検察側は詳しい説明をお願いします」
茂さんになだめられる。その言葉で少し冷静さを取り戻した僕はお母さんの説明に耳を傾けた。内容としてはこうだ。
僕が告白する前から山本さん(山本さんの家の中だとややこしいので以下真紀さんとする)は僕の事を気にしていたらしい。というのも僕と真紀さんは同じクラスで更にどちらも図書委員会に所属していて1学期の頃から頻繁に話す機会があったからだ。山本さんは人見知りで初めのうちは僕とも距離を置いていたが図書当番を2人で何回かやるうちに僕から話しかけ会話するようになっていった。それからはクラスでもちょくちょく僕の方を見てくれていたりしたらしい。この話好きな子のお母さんから聞くの恥ずかしいな。
ここまでなら両想いでハッピーエンドなのだが問題が起こった。僕の周りに女の影があったのである。その正体は三代可奈、クラスで男子1番人気の女子だ。真紀さんが僕を観察しているとその周りには常に彼女がいたのである。それで俺と可奈が付き合っていると思った真紀さんは自らの想いを諦めたのだった。
「以上のように綺麗な彼女がいるにも関わらず真紀にも粉をかける行い万死に値します。よって検察側は先ほど同様被告人に死刑を求刑します」
確かにその話が真実であるなら可奈という彼女がいるのに真紀さんまで手にかけようとしている俺は死刑に処されても仕方ない外道である。その話が真実であるなら。
「異議あり。検察の発言には実際の状況と異なる箇所が見受けられます。発言の許可をください」
「弁護側並びに被告人の意義を認め発言を許可します」
「可奈は僕の彼女ではありません。ただの幼なじみです」
三代可奈は僕の幼稚園の頃からの幼なじみだ。家が近く昔からお互いの家でよく遊んでいた。高校生になってからもその交友関係は続いており、可奈が僕とやたら距離感が近いのもそのためだ。
「異議を唱えます。裁判長」
声の方に振り向くとそこには有紀さんがいた。本人が付き合っていないと発言しているのに何の意義があるというのか。
「何ですか証人の有紀さん」
「私は幼なじみと恋人関係にあります。異性同士の幼なじみにおいて純粋な友情はあり得ないです!」
「裁判長、証人の意見は証言に見せかけたのろけです! 男女の幼なじみの友情は存在します!」
自分が幼なじみと付き合ってるからと言って幼なじみの純粋な交友関係を否定されてはかなわない。可奈は客観的に見て可愛いとは思うがだからといって恋人になりたいと思ったことはない。幼なじみの純粋な友情は男女でも成り立つのである。
「とのことですが証人の有紀さん反論はありますか?」
「真紀によれば可奈さんは綺麗で明るく男子からの人気もあるとのこと。その可奈さんを差し置いて真紀を選んだ理由が分かりません」
姉妹だからってなんてことを言うのか。我慢できずに僕は思わず口を開いた。
「真紀さんは確かに少し人見知りな部分がありますが、誰に対しても優しくそしてたまにしか見せない笑顔はとても美しいです。僕にとっては誰よりも魅力的な女性です」
言ってやった。ん? 僕は何を言った? 勢いに任せてすごい恥ずかしい事を言ってしまったような。周りを見るとニヤついている亜紀さん、有紀さん、茂さんと茹蛸のように顔を赤らめている真紀さんが僕の方を見ていた。
「だそうですが真紀さん何か言うことはありますか」
「はっはい。不束者ですがどうかよろしくお願いします!」
「えっ?はい。こちらこそよろしくお願いします」
急な展開に頭がついていかない。僕は今山本家の中で家庭内裁判の被告人をしていたはずだ。それなのになぜ告白が成功しているのだろうか。
「これでそれぞれの証言が出揃いました。最後に各自何か言いたい事があればどうぞ」
「検察は今回の訴えを取り下げ2人を祝福します」
「証人も検察と同意見です」
山本家の住人がそれぞれ意見を述べていく。みんなの目線が僕に集まったので思ったことをそのまま口に出すことにした。
「嵌めましたね?」
真紀さん以外の山本家の方々は真紀さんの日常の会話から、僕が真紀さんに好意がある事を分かっていたのだろう。だから今回裁判という形で僕の真紀さんへの想いをみんなで口から引き出させたのだ。
「何のことやら。これにて裁判は閉廷。みなさん最後までありがとうございました」
山本家の皆さんは黙々と部屋から退出していき最後には僕と真紀さんだけが残された。
「こんなことしちゃってごめんね。でも佐野君のさっきの言葉嬉しかったよ」
そう言って真紀さんは笑っていた。この笑顔が見られたのなら今日の裁判も悪くなかったのかもしれない。




