海水浴セカンドデイ中編
レイは海で浮き輪に乗ってプーカプカ。稜葵は宇宙服を着てプーカプカ。伊織と組手をしたマッチョ共もプーカプカ。ジジイはスイカ割りの犠牲となり、黒は大きなカメラを持って右へ左へ私の股へ、「滅ッッッ!!!」ジジイと共に砂浜の穴に埋もれて消えました。
砂浜をセメントで固定し、私もプーカプカへ足先を変えた。
プーカプカ。プーカプカ。
日頃の癒しから解放されて非常に心地よい。流れる白い雲と青い空、ゆらゆら光る東の太陽、果てなく揺らぐ地平線、全てが鮮やかさを主張してくる。
プーカプカ。プーカプカ。
体を反転させ海中を眺むのも楽しい。鮮やかな珊瑚礁に群れる色とりどりの小魚、そして、鮫の群れ。背鰭たくさん。
「ひ、ひえっ············」
鮫を認識した二秒後に、腹下に空気爆弾を作り、空へ緊急離脱をした。
さらに空中に魔力の足場を作り、全身を殴打して着地した。
「この世は地獄か······」
ゴンッゴンッと物と物がぶつかる様な音が聞こえ始めた。足場の裏を見遣ると、目の前に、眼前に鮫の口が、綺麗に半円を描いた規則正しい上下の鋭いギザギザ歯に、その歯の裏に小さな歯と複数のエラが、眼前に現れた。
条件反射で、顔と顔の間に空気爆弾が破裂した。頭を反らせながら真上に吹き飛び、魔力の足場へ全身を打ち付ける。
「よし······私も帰りたい」
呟いて前後左右を見回す。前方は海、後方も海、東及び西も海。
「島が······ない」
「そんなことは無いよ」
「ひっ!」
ドスン。
予期しない後方からの声に驚いて前方へ飛び出した。海に落ちると思ったが、その着地感触はブニョブニョのザラザラで────それは鮫の死体だった。
改めて見回すと、鮫の死体の群れがプーカプカ。
魔力の足場の上を見てみると、オレンジをアソートカラーにした黄色い海パンを履いた黒が上から手を差し伸べてきていた。
ホッと溜め息をつき、手の甲を掴み、魔力製の足場へ上がる。
「何から聞けばいいわけ······」
島の場所からか、鮫の死体からか、コイツの脳のシワの数からか。
「島の場所だったら、イアゼウスパスに表示されている通り此処から西へ少しだよ」
言われるがままにイアゼウスパスで位置情報を確認してみる。
「此処から南東へ五百キロってなってますが?あっれれ〜?おっかしいなぁ〜?」
「綾ちゃんちょっまっ、ジャブしないで足踏まないで」
ピロリーンと黒からスクショが送られたが、確かに、西へ二百キロの位置となっている。なんということだ。
「くっ、好きなだけ殴れい!」
右頬を突き出したが、殴らずにハグしようとして来たので、望み通り海へ投げ飛ばしてあげた。
胡座をかいて空中対談。太陽はまだ東にある。
「鮫殺すの早すぎじゃない?」
「脳を熱で焼き切れば早いよ。影炎で近付けば暴れられることもないし」
「小式部内侍。あー、魚類って熱に弱いもんね」
更に、脳みそは約全生物において熱にめっぽう弱く、最大の弱点でもある。黒の手法は様々な点において効率がとても良さそうだ。
「閑話休題、とりあえず西を目指してみようと思うけど、どうよ」
東に行って何も無かったらそのまま太平洋横断になろうだろうから。
「そうだね、西へ行けば島を通り越してもフィリピンに辿り着ける」
「じゃ、空飛ぶ魔力絨毯しゅっぱーつ」
流石に魔力消費が激しい事に気付き、海上を歩くことにした。
「ああ〜〜、今日は安らげると思ったのにぃ〜」
「マッサージくらいならいつでもしてあげれるけど」
「何その薄い本展開。いらないわ〜〜。安らぎは安らぎでも心の安らぎを求めてんのさ」
「心の安らぎだったら、この広大な海を見渡せば······」
「広大な海はもう見渡し飽き······」
その広大な海を見渡している時、見慣れないものがその視界に映りこんだ。
広大な海のど真ん中で、海水が渦を巻いていた。
『マリアナ海溝近海で渦潮』────。
「今回の僕の調査対象だ」
「あ、仕事で来てたのね。ふーん。あいや、違うや。こういうのって天木の仕事でしょ何してんの」
「天木家はなんだか別の重大な仕事で忙しいらしいからね。おかげで僕に仕事が多く回ってくる」
「これ以上に重大な仕事ってなんなの······」
渦潮を眺む。しかし、普通に渦潮なのだ。特に変わった様子もない渦潮。おかしいところが一つあるとすれば、太平洋のド真ん中に顕在していることだ。竜巻なんかも特に無いし、今は高気圧でもある。
「テレビだと渦潮は消えたって言ってたけど」
「さっきからずっと電磁パルスが乱れている。たぶんそれで何か勘違いしたんだと思う」
電磁パルス。よく分からないが、先程見られた電波障害みたいなものだろうか。
「海に電気を流せば何かなる的なかな」
「綾ちゃんそれ危ないだけ······」
「よっと」
海に火魔法で電気を通す。
特に変化は無い。首を傾げた後、海中に顔を突っ込んでみる。渦潮の方から少し泡がたっていて、あとは深い闇が下へと続いている。
その深い闇の中で何かが動いた気がした途端、ブオオオオンという小さな音が響いた。
海から顔を上げ、「何か聴こえた!!」と笑みで黒に報告した。
「何も聴こえなかったけど······」
黒は頭の上にハテナを浮かべるが、それは一瞬で終わった。
今度は大きな、ブオオオオオオオオンという音が、海水を、大気を、私たちの骨を震わせた。
「綾ちゃん、僕に掴まって!」
「捕まってって?拒否権を行使す────」
二人の身体が空中へ叩きあげられた。視界が錐揉みして、何が起きたのか分からない。
魔力製足場を作る前に、ドスンと何かに全身で着地した。
色は黒っぽく、感触は哺乳類のそれに近い。全体像を見ようとすれば、大きすぎて見当もつかず、見えるのは謎の肌と、倒れてる黒と、大量の寄生虫······。
「びゃっ!!」
すぐさま飛び跳ねて、火魔法で自身と水着以外の周囲を燃やして着地し直した。
「き、気持ち悪い······死ぬ」




