第55話 インビジブルオブデス16
チュンチュン······チュン
小鳥のさえずりと共に目が覚める。
「んーっ、良く寝た······」と布団の中で背伸びするが、何か人影がコチラへ飛んでくるのが見え、
「うああああああ綾ちゃんグーテンモルゲンんんんんん!!!」と朝の目覚めの黒ダイブである。
これは警備を怠っていた私に非がある。なので、責任もって、
「飛んでけぇぇぇ!!!」
と、布団貫通キックを中空の黒の腹へぶっかます。
「へぐぁっ······!!」
断末魔も虚しく天井を突き抜けて消え去る。
「素足キック······絶対アイツ喜んでるでしょ······」
そんなことにいつまでも縛られるのは愚か者のすること。天井を気の板とコンクリートで塞ぎ、気を取り直して朝餉を摂る。
朝食といえど、ただの缶詰である。ちなみに最近のお気に入りは鯖の味噌煮だ。
朝食を終え、風呂場で水浴び、そのまま私服に着替え、保安局へレッツゴーだ。
水色のパラグライダーに掴まり、風魔法でゆったり帰還に臨む。
飛びながらイアゼウスパスでテレビをバックグラウンド再生しながらネットサーフィン。私ともなれば、目線操作なぞ鯖の味噌煮缶詰め前である。
『ついに来年春前に、PULSEの電脳世界を一般フルオープンする事が決まりました。本来は再来年の実施予定でしたが、関係者によるとこれは"クトゥルフブレイン"、通称クレインの早期全国展開の布石とのことです。来年より期待が膨らみます。続いてのニュースです。博多県知事より、近々卑弥呼のコールドスリー────』
とのようにテレビが興味深いを言っている。
「ほぇー。時期早めたんだねぇ。っていうかクトゥルフブレインとか怖いのに如何して早く広めようとするかねぇ······」
あんなの、人をロボット化させるようなものじゃん。本当、最近の人間は皆狂っている。
『アジーバのジパング全国ライブツアー決定きたこれ!』『ほんとあのニヒル感たまんねぇよな!』『うちの隣に来るじゃん!近いってサイコー』
ネットではこの様なスレがあった。わたしもついでに書き込んでおこう。
『アカシャ君をアイドルに導いた私参上』
我ながら渾身のレスである。もしかしたら私までアイドルになる可能性も······。
『嘘乙〜』『導くとか何様気取りだよカス』『アカシャ様を君呼ばわりとかサイテー』
返信を見るなり、ピキっとパラグライダーの棒にヒビが入る。
あーあ。音楽でも聴いて忘れよ。
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「やぁー戸室綾さん、お久し振りですねー。背も随分と大きくなってー。」と白髪の小太りのオッサンが現れる。
約束通り昼前に保安局へ来てみたが、対応に来たのは昨日の若者ではなく、高原啓一郎。昔の顔馴染みが出て来た。
「············。」
「おや、黙り?あのお喋り神童も成長すれば立派なクール美人ですか」
「いや、まさかアンタが出て来るとは思わなくてさ。ちょっと驚いただけよ」
「おおう、覚えてらっしゃったか。甲賀の当主に覚えられてるとは私も鼻が高いですな」
「当主ったって御手洗のオバサンが代行してんだけどね。マンションのオーナーも母の知り合いの息子が代行してるよ」
「まー確かに、子供に任しちゃいけん件ですからな。」
「それで?私に何の用なの?ただ歓談しに来たってわけでもないんでしょ?」
「いやいや、歓談ですよ。その通り歓談です。ただちょっとばかし内容の深い歓談ですよ。」
「ふーん。深いねぇ」
「ここ最近、出雲全域及び周辺で事故や事件、経済的トラブルが発生しているのはご存知ですよねぇ?」
「あー、うん。みんなアホになってんでしょ?」
「やはりご存知でしたか。1つ折り入って頼みがあるのですが、頼まれてくれませんか?」
「別にいいけど······なんなの?」
「貴女······原因を知っているのではありませんか?」
「ギクッ。知らない知らない。私はなーんにも知らないよー」
「ギクッなんてきょうび聞きませんね······。やはりそうでしたか。どうにかお話して頂けませんか?我々としてもこれ以上被害を出したくないんですよ。もし教えて下されば······多少の粗相には目が入らないかもしれません」
「う〜〜ん、分かった。教えたげる。」
「おー有難い限りです」
「土地神って知ってる?」
「土地神ですか?······その宿った土地を守る守護神でしたか?」
「うんそう。実はソレがアホの神と入れ替わっちゃって、その影響でみんなアホになったの」
「土地神が入れ替わった?俄には信じられませんな。入れ替わるという事は、そのアホの神様が元々いた神様を殺したという事ですよ?」
「えっ!殺したって!?アイツが?私の方こそ俄には信じられん······」
「それで?」
「え?」
「続きがあるんでしょ?さっさと言ってくださいよ」
「続きもなにも、これで終わりだよ?」
「はぁ、そうですか。では、歓談は終わりにしましょうか」
「ん?え?学校の事件の方は聞かないの?片桐さんはどうなったの?」
「あー、そちらですか。その件は昨日の連れの方から全て聞いてあるので問題ありません。片桐永莉さんは、司法取引で大阪へ転勤ですよ」
「ええ?軍送りじゃないの?てっきりその方面かと」
「軍?あーそういえば。その軍さんから貴方へ第一次勧誘告知がありましたよ。なにやら、戸室家の第二子であるにも関わらず、特殊能力を発症してるらしいじゃないですか。しかもダブルだとか?」
「詳しっ!軍ってば詳しすぎでしょ!それにしても、第一次勧誘なら無視してもいいんだったっけ?」
「ええ。第三が来たら否応にも断れませんけれどね。ですが、貴女は甲賀当主。国が動かない限りは無理に迫ったりはしないでしょう」
「よかったー。せめて高等部出とかないと引退後の就職が不利なのよねー」
「そんなことありませんよ。引退後は教官やら体育教師といった職が待っておるよ。」
「どっちにしろ先生じゃんか。やだやだ、そんな難しそうな職」
「先生、といえば、片桐永莉さんに刻まれた人の中に、貴女のクラスの担任教師が居たそうではないですか。もちろん死亡です」
「うおーよっしゃー。アイツほんと嫌いだったんだよねー。せいせいするわ」
「コラコラ、人の死を喜んではいけませんよ。あっ、そういえば1つ言い忘れておりましたな。」
「ん?何何?」
「先日貴女の家の分家、要するに山室家の人間が複数人ほど死体で発見されました。天木や御手洗の人間の死体は見当たらず、死因は背中の切り傷より侵入したと思われる、毒だそうですよ」
「ええっ?それじゃあまるで天木や御手洗が犯人みたいじゃん」
「というわけで、気を付けてくださいよ?貴女もそろそろ大人だ。御手洗家の人間、御手洗新月が何をおっ始めるかは分かったもんじゃない。」
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帰宅途中、路地裏でゴソゴソと蠢く人影を見つける。
「おーい、そこの人〜!なにやってんのー?」
声をかけてみると、人影はビクッと直立し、コチラへ振り向く。金髪になかなかイケてる顔、しかし残念な貧乏臭さ。
「なーんだ、ベルゼじゃん。こんなとこで何してんの」
「戸室······お前、アレ食らって生きてるとかマジ化物だろ······」
「化物なんかじゃないし。ただ蘇生してもらっただけだし。藤壺の内侍。私の事はともかく、平日の真昼間から路地裏でなーに怪しい事してんの?通報するよ?」
「お前こそ平日の真昼間から路地裏の怪しいオッサンに話しかけるとか、変人?変人なのか?」
「変人でもなんでもないし!ほら、ちょっと退いてみ。」
ベルゼを無理矢理横へ跳ね除けて路地裏の奥を見てみる。と、ダンボールが地面一面に敷かれていた。
「ダンボール······?あー、食べるの?」
「食わねぇよ!!これは今夜の寝床だよ!」
「ゑ、寝床?あ、分かったわ。アンタってホームレスなんでしょ。ぷっぷ、ウケるー」
「なんか文句あんならハッキリ言え!」
「文句?別にそんなの無いけど······?ただ今時ホームレスってのが珍しくてね。あ、そうだ。ねぇベルゼ、住居欲しくない?」
「は?住居?んなもん当たり前だろうよ。衣食住の三代欲求だろうが」
「もし〜、私がアンタに、その住居ってのをプレゼントしてあげる〜って言ったら、どうする?」
「あ!?マジかよくれんのか!!うっひょー!アドナイ様の御加護復っ活!」
「だ〜け〜ど〜?1つ条件を飲んだら本当にプレゼントしちゃうよ〜?」
「条件?なんだよそれ!俺に可能な範囲だったら何でも受けてやる!」
「私に完全服従する契約を結んだら、その場で住居プレゼントの契約も結ばれま〜す!」
「分かった!契約すりゃあいいんだろ!どうすれば契約とか出来んだよ!」
「え?アンタが知ってんのかと······。まぁいっか、万能のイアゼウスパスさんに聞いてみよう。」
『服従の契約の方法って分かる人いませんか!知恵袋人間さん助けてください!』
ネット万歳。
『隷従の闇魔術ですね?それなら、隷属する人の血を1リットル飲んで、手の甲にキスさせるだけですよ。あと、魔術が下手だと失敗します。』
「だってさ。私って魔術滅茶苦茶出来るし。さ、血を出して!」
「怖いわ!てか血を飲むことに抵抗を持てよ!」
「大丈夫だって。過剰出血してもヒールで治したげられるから」とナイフを差し出す。
「うっ。何か計量カップとか用意した方がいいんじゃないか?」
「ほい、計量カップ2リットル仕様」
「1リットルになったらスグにヒールかけよろ!絶対だかんな!」
ベルゼが左腕をナイフでちょこっと斬る。
「浅っ!時間かかるやつじゃん!」
「仕方ねぇだろ怖いんだから!」
ポタポタとゆっくり血液が計量カップに溜まっていく。
「おい!1リットルになったぞ!早くヒール!」
「ほいほい。ヒール」
浅い傷なので一瞬で治った。まったく大袈裟な奴だ。
「そんで?これを飲んでベルゼが私の手の甲にキスをすると」
血液の一気飲み。気付くと、周囲の人間がチラチラ此方を見ている。視線が痛い。
「ほら、私にキスなんて一生に一度の光栄な事なんだから!早くなさい!」
「何が光栄なこったよ」と言いながらも手の甲に吸い付くようにキスをかますベルゼ。
振りほどいてぶん殴ろうと思ったその時、手の甲が少し光る。
「ん?これで契約成立?」
「らしいな。よっし、これで住居くれんだよな?」
「おすわり」
「ワン!······って何しやがる!」
「いやぁ、確認作業だよ確認作業。そんじゃ、案内するから着いてきて」
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「お兄さーん!この人、2号室に無料で住ませるからあと宜しく頼むわ〜!」
「了解致しました管理人さん。僕にお任せあれー!」
「おい戸室。お前······このマンションの管理人······なのか?」
「まぁ一応そうだよ。母さんの遺産って感じ。そんで、1階の出入口からスグそこ。あのお兄さんの部屋の隣がアンタの部屋だよ。私が思うに家賃相場は下から2番目!優良にして無料の物件だね!」
────近代ジパング前編END────
前編、中編、後編があります




