第30話 不思議な人
「やっぱ綾ちゃんは歌駄目だよねぇ。」
楓夏が躊躇いなくそんな事を言う。もうちょっとオブラートの枚数増やして欲しいものだ。
「うーん、けっこう特訓したつもりなんだけどなぁ······。」
もちろん異世界にてである。思い返してみれば、アリスは苦笑いしていたし、家の近くには竜王以外魔物は来なかった気もする。
転生を通して歌も上手くなったのだと思っていたが、とんだ勘違いであったらしい。
やはり、あの転生は私の呪いに由来する転生ではなかったという事だ。
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下校は皆に合わせて下駄箱から校舎を出る。もちろん靴は読み込み済みなのでいつでも作り出せる。
「ねぇ綾ちゃん、校門近くに見覚えのある人が居ますよ?」
稜葵が校門を指差す。そこには金髪の男がおり、箒を持ってせっせと掃除をしている。
「気の所為だって気の所為、私はあんなやつ1ミリたりとも1ヨクトも知らないよ。」
そう言い、校門を通り越そうとする。
すると、
「おい!おい、ちょっと待て!なんで無視すんだよ!」
「え?すみません、どちら様でしょう?はっ、もしかして誘拐犯の方ですか?とっても怖いです!正当防衛として痛め付けてもいいよね!」
「どうしてそうなる!俺だよ俺!ベルゼだよ!」
ナイフを作り出してかまえると、ベルゼは両手を上げて服従のポーズを取る。
「なんですか、一昨日の蠅虫でしたか。」
「あ、稜葵ちゃん達は先に行っててもいいよ。ちょっと長くなりそうだから。」
「分かりましたわ、天野さん、楓夏ちゃん行きましょう。」
「えぇ、なんだか面白そうじゃんこの蠅って奴。」
「でもよぉく見てみてよ楓夏さん、これ汚物ですよ。」
「うっわ、確かになんか臭う。帰ろっ!」
楓夏が残ろうとするが、レイが帰る様に説得する。確かに汚い。
3人が立ち去った後、
「汚物って、よく平気でそんな酷いこというなぁあの嬢ちゃん。」
「いや、汚物じゃん。汚物を汚物って言って何が悪いの。」
「お前も稜葵嬢ちゃんも大概だからな!」
「それで?こんなとこで何してんの。」
「見て分からん?清掃員のバイトだよバイト!」
「あぁ確かに、文字も読めない蠅が働くっていったらコレしかないよね!」
「平仮名くらいは読めるわ!それに、蠅って言うな!ハロワ行ったらここしか空いてなかったんだよ!」
「へぇ、そんな言い訳しちゃって〜。この仕事に一目惚れしただねじゃないの?正直に言いなよ〜。」
「はいはい分かった分かったよ、俺は仕事に戻るから、お前はさっさとどっか行け。」
「え?命の恩人よりもゴミが掃きがしたいの?そんなにゴミが掃きたいならまず自分を掃いたらどうなの?」
「あぁもう、うるせぇ!これは仕事なんだよ!その重要性くらいお前も分かんだろ!」
「はいはい分かりました。話はまたこんど聞くことにしてあげるよっ。」
ベルゼの脛を蹴って立ち去る事にする。
「ぐあっ!覚えてろよ!コノヤロー!」
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空中飛行は下手すると何者かにスカートの中身を見られる可能性があると気づいた私は、歩いて帰る事にする。
とはいえど、速さを増幅させるのでそれなりに速い。
先日ベルゼと出会った付近まで戻ると、工事中のビルとビルの隙間から、かなりイケメンチックな黒髪高身長男が出てきた。
「止まって。」
その男は歩道の中央に立ち、私の行く手を阻む。
「ええっと、何の用?」
「きみ、とても、危ない?うん、危ない。世界に、害あるかも。僕、アカシャ?うん、僕アカシャ。きみを倒さなきゃいけない?」
私が危ないって何なのだろう。露出癖は持ってないし、そもそも犯罪なんて進んでしない。むしろ露出癖は楓夏と稜葵が持っている筈だ。私は覚えている。稜葵の家のお泊まり会に行った時、2人がそんな会話をしながら裸になっているのを!
なんだか黒が可哀想に思ってきた。あれ?もしかしたら黒も露出癖持ちなのでは?双子だし充分有り得る。うわっ、萌える。
そんな事より、この不思議なイケメンをどうしようか。
なんだか、自身の発言が覚束無いっぽい。
あっ、そうだ。レイがくれた五円玉があったよね。ということで、ポケットの五円玉を取り出して不思議イケメンアカシャの前に吊るす。
「とりあえずコレをジックリ見てみて。」
「ん?これ、何?」
「アカシャはだんだんアイドルになりたくなる〜。アカシャはだんだんアイドルになりたくなる〜。」
2、3回繰り返すとアカシャの目がグルグルになってきた。あれっ、効き目あるの?
「僕はアイドルになる······僕はアイドルになる······。」
「そう、君はアイドルになるの!さぁ、アイドル事務所は向こうにあるから、頑張ってね!」
「アイドル、向こう。僕、頑張る。」
そう言い残し、アカシャはアイドル事務所の方へ歩き出す。
アイドル事務所の位置は、イアゼウスパスで調べたので間違いない。
そういえば、今の子イアゼウスパス着けてなかったなぁと、そう思うのであった。
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マンションの前まで戻って来た。そこで私は周囲に誰もいないのを確かめ、風魔法で自室の窓まで登る。
窓は朝から開きっぱなしだったが、12階なので特に心配は無い。と、そう思っていたのだが。
黒がモザイクを纏って部屋で佇んでいた。色々な意味で黒である。
「出て行け変態!!!」
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
速攻で髪を掴み、窓の外へ放り捨てる。
\ズドーン。/
窓の下を覗いてみると、人型の穴がコンクリートの地面に空いていた。こりゃ生きてるな。
まったく、露出癖は街中で発動しろってんだよホント。
特に何も取られたり漁られたりしてる気配は無い。ただ変態の服が部屋の中央に落ちていただけである。ついでなので嗅いでみる。
そして、穴に向かって服を投げて窓を閉める。
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翌朝、というより後日談である。
アラームで7時に起きた私は余裕を持って自転車で学校へ行く。人型の穴を確認してみたが、黒の姿は無かった。
国道二号線には、私の通う国立出雲幼小中高大一貫校の近くに、大きなテレビモニターのくっ付いた謎のビルがある。この学校の生徒はしばしばこのモニターに釘付けになり問題となっている。
人はいつの世も小さな画面より大きな画面を求めるというものなのだ。
そんなある日、今日はいつもより多くの生徒がモニターに注目していた。
気になった私もモニターに目をやる。
『僕、リーダーのアカシャと言います。では、聴いてください。アジーバの初ユニット曲、"オーバースキル"。』
画面にはアカシャに加え、3人のイケメンがマイクを持って映っていた。
「えぇ、あの子本当にアイドルになっちゃってるよ······。」
※この作品はフィクションであり、実際の団体や個人とはなんら関係ありません。




