第二話 ファーストコンタクト 2
実際のところ逃げたところでどうしようもない。
平地を安全に歩く生き物と、森の中を高速で走り進む生き物。森の中で追いかけっこするならば、文字通り後者が断然有利だ。
この逃げはただただ人間の本能に従ったが故の行動であり、決して彼の頭が悪いというわけではない。冷静であればアレが吠えてるスキをついて槍で喉を一突きすれば良かったのだが、現実味の無さに戸惑う一般人にその様な真似をしろと言う方が現実味がないというものである。
「クラウエェェェェェ!!助けてくれぇ!!狼男だっ!!!」
彼は酸欠になる程の大声を走りながら必死に絞り出す。
彼の頭の中には猟師である友人に助けを求めることしか選択肢が無い。いくら普段から聡明狡猾だの持て囃される人間でも余裕が無くなれば思考回路は乏しくなる、あの様な化物に殺される者達の大半はそれが故の結末なのだ。
「ガルルルルルルルゥゥアァ」
一瞬にして彼の背後に迫ったウルフヘッドは、彼の片脚をその鋭い爪で切り裂き、彼がバランスを崩したところでもう片方を根元から噛み付く。
「ぐああああああああああああっああっ、くそっこの野郎っっ!」
彼は痛みに必死に耐えながら槍でウルフヘッドの胴を穿つ。穿つ。火事場の馬鹿力が働いているのか片手で槍を上手く扱えている。
そんな彼の反撃に対しウルフヘッドは一旦退く。
意外と槍がすんなりと効いた事に驚いた彼は、槍を構え直す。
「グルルルァァァァァ!!」
「死ねぇ!化物!!」
突進してくるウルフヘッドに対し刺突する。しかし、その矛先が化物の頭を穿つことはなかった。
正面から突っ込んで来た筈のウルフヘッドが空高く飛んだのだ。
彼は槍を構え直そうとするが間に合わない。今度こそ彼は死を覚悟した。
目の前に浮かぶは子供の頃に見た光景。彼はこれがいつの日にか聞いた走馬灯というものなのだろうと一瞬遅れて気づく。眼前には今にも自分の頭に喰らいつきそうなおぞましい化物が大っ口を開けてこちらへ飛んで来ているというのに、不思議な感覚である。
(そういえば、どうしてこんな事になったんだっけ。確かクラウエが「この時期にしか生えない幻のキノコがあるらしいんだ。たっと1本で一攫千金なんだってよ。だからさぁ、わかるだろ?それを探すのに専念するだけでいいからさ、狩りに付き合ってくれよぉ」って頼まれたんだったか。秋でもないのにそんなキノコ聞いた事も無いのだけど、仕方なくついていってやったらこのザマだ。ボクが木の根元を凝視してるのなんて気にも留めず、スタスタと歩いていき離ればなれ。おかげでアイツが森の拠点としている小屋に日が暮れても辿り着けずに、独りで化物と闘って、そしてマミる一秒前。マド○ギの少女だって死ぬのは第三話だというのに、ボクは第二話か。でもまぁプロローグを含めて合計三話目なのだとしても、この21年という短命を独身のまま終わらせる原因となったアイツと狼男の枕元に立つことに、変わりはな――――)
ウルフヘッドが横へ、真横へ、吹き飛んだ。
冷静になっていた彼の頭の中は再び白く染め上げられる。
走馬灯が解かれた彼はただ、ウルフヘッドの吹き飛んだ方へ顔を向ける。
「有り得ない」と、彼は思う。ウルフヘッドのその上半身と下半身が千切れかけていたのだ。
例え彼の友人が叫びを聞き駆けつけたのだとしてもこれ程までのダメージを一撃で与えられる筈がない。大砲を引っ提げて来たのならばあの威力にも説明はつくだろうが、それならば音が聞こえるはずである。
ならばこのような所業が出来るのは、このような人気のない場所に急に現れるのは、化物を一瞬にして肉塊に変える事が出来るのは、
化物である。
彼は振り向きたくも無いのに、その固まりきった首を、口をわなわなと震えさせながら無理矢理動かす。
これは彼の好奇心が故の行動である。今から自分を肉塊に変えてくれるのは一体どの様な化物なのか。枕元に立つという恩返しをきっちりと果たす為にその面を拝めておかねばならない。
まず見えたのは足だ。なんと人の足である。しかし裸足だ。狼男だって裸足だったのだからまだ人であるとは断言出来ない。
次は脚と胴だ。ゴリゴリの筋肉にパッツンパッツンの衣服だ。見慣れない服装である。他国の人間である可能性も考慮できるが、まだ人であるとは限らない。
最後は頭部だ。大きなフェイスに鋭い紫色の瞳。極めつけは真っ赤な真紅の短髪。やはり人ではない。
「おいおい、せっかく俺様が助けてやったってぇのにお礼も無しってかよ小僧」
そして彼の意識は途絶えた。
うっ、本命である第二章までいつまでかかるやら...
ちなみにこの作品は計五章程ある予定です(吐血)




