第一話 ファーストコンタクト1
凪の時はとっくに終わり陸風が木々を揺らす。
黄昏時もそろそろ終わりに差し掛かっている。
その夜は日本で言うところの"十五夜のお月様"の日であり、その月光は、たった独りで森を彷徨う美青年の金髪をより美しい物にする。
そんな風情を見るべき者が見れば絶倒したであろうが、生憎ここは町外れの森の中。女子供どころか普通の町人さえもそうそう出逢う事も無い。ましてや夜の森を歩く人間なんて滅多にいない。遭難、猛獣、化物等の命を脅かす程の危険が付き纏うからだ。
護衛を連れて山道を馬車で走る商人もいるだろうが、彼が歩いてる場所は道なき道である。
「早く着かねぇとそろそろ不味いな······」
青年は空の様子を見て無意識にそう呟く。
月明かりでどうにか足場を確認出来るが、新月の時ならば真っ暗闇で周りに何があるかさえも分からないであろう時刻へ達しようとしていた。
すると、
ガサッ
と風では無い、何かしらの生き物が鳴らしたであろう音が彼の耳へ入る。
「俺だ!」
彼は音がした方向にそう語りかける。
猛獣と勘違いされ攻撃されては堪らないからである。
しかし、ある種の期待も込められて発せられた彼の声は空回りする事となる。そこには今頃自分を探してくれているだろう友人の姿ではなく、立派な角を生やした大きな鹿が直立しながら、ただこちらを向いていた。
こちらを睨むかのように見つめてくるその瞳には警戒の色が見えた。
「くそっ」
失望の念を抱いた彼は槍を両手で矛先を鹿へ向けるよう持ち直し、腰を落として構える。
この時期の鹿は気性が荒く、よく人的被害を及ぼすのである。
その事を昼の間に身をもって体験した彼は警戒心を顕にする。
しかし、だからといって無用意に鹿を傷付けて良いという事には繋がらない事を彼はしっている。
血の匂いを嗅いだ猛獣が集まってくる危険性があるからだ。
なので彼はどの様にして鹿を退けるか思考する。
だが考える時間を与えまいかというように鹿がその角をもって彼へ襲いかかる。
彼は横へ飛び除けてそれをギリギリで躱す。
そして鹿の頭部を槍の刃のない部位を用いて殴り付ける。
すると鹿は、戦意を喪失したのか逃げる様に、すぐにその場を去っていった。
どうしたんだ一体······
と彼は一抹の疑問を覚えるがその答えは直後に知ることとなる。
鹿が去っていった事により進行方向へ踵を返す彼であったが、鹿のやって来た方に黒い塊が見えたのだ。
2本の脚で立ち、その全身は黒い体毛で覆われ、四肢には鋭い爪、極めつけに犬の様な頭部。
そう、奴が――狼男が、綺麗な月下のもとにて、獲物を見付けたのだ。
彼は悲鳴さえも上げなかった。否、絶句である。上げたかったが上げれなかったのだ。彼はこの事態を予測してはいたが通常では有り得ない事であり、その可能性を脳内で殺していたからだ。
狼男の伝承は勿論知っていた。だがそれは飽く迄も作り話として、である。
そんな彼の内心など露ほども知らない狼男、いわばウルフヘッドは「ウオオオオオオオオオオン」と獲物を発見した事に対する喜びの雄叫びを上げた。
その雄叫びを耳に入れてからの彼の行動は早かった。ウルフヘッドのやって来たのと真逆の方向、鹿の逃げていった方角へ全力で走り出した。
ちょっと途中で切り上げます...本来はもっと進ませる予定でしたが眠気が...




