第25話 虹の世界3
「ん?綾と佳代じゃないですか、何故こんな所へ?」
クソ天使が玉座に座っていた。
へぇ、アリスは元佳代って名前なのか。つまりこの子も前は女の子なのか。
佳代ことアリスに顔を向けてみると、彼女は挙動不審になっていた。
「ああそうでした、佳代さんとは初めましてでしたね。」
「え?アリス、アンタこいつと会ったことないの?」
「うん、むしろお姉ちゃん之に会ったことあるの?」
「うん、転生する前にアホ神と一緒に。」
「え?転生する前に?私、何も言われずに転生してるんだけど······。」
なるほど、私が時間を取りすぎてアリスの時間が無くなったって感じかな。
「いえ、私が佳代さんを知ったのは二人が転生した後のことです。つまりメタトロンが忘れてただけでしょう。」
「えぇ、なにその人酷い。」
「それよりさ、どうしてアンタがここに居るの?ここってホームセンターじゃなかったの?」
「勿論ホームセンターですよ、ここは。何か欲しいモノでもおありで?」
「あぁうん、ちょっとテレビゲームがしたいなぁって思って。」
「は?ホームセンターにゲーム置いてるわけないでしょ。」
返す言葉がない。
「いいえ、クリスバードがここでゲーム機を売ってると言ってたんです。」
致命傷を受け虫の息だった私にアリスが補助に入る。
「なるほど、それで此処に来たと。ですが、残念ながら無いものは無いですよ。無い袖は振れないというものです。」
「なら何処に行けば買えるの?」
「それは私の受け持ちの仕事ではないので、自分で調べてください。」
「ならさ、アンタはどうして此処にいるの?仮にも天使なんでしょ?」
「仮ではなく本物の天使ですよ。仮なんかでこんな立派な羽根が生えますか、普通。此処にいる理由は只の暇潰しですよ。それ以上でもそれ未満でもありません。」
「それって数学的意味で解釈すると、暇潰しではありませんって意味になるよね!」
「まぁそんな事はお気になさらず、ゲームを探しているのでしょう?なら、この街に一つや二つは電器専門店はある筈ですよ?一応言っときますが、この世界の物価はプライスレスです。」
「あるならあるって先に言ってよ!ほら、行くよアリス。」
「あ、うん。歩くの速いよお姉ちゃん。」
アリスを連れてホームセンターっぽい所から脱出する。
「あれ?アリシアとクリスバードは?」
「お姉ちゃん、足下見てみて。」
アリシアとクリスバードが姿を消し、アスファルトの上に1枚の手紙があった。
『拝啓クリスチャンとアリスへ。怠くなったので帰ります。夕飯までには帰ってきてね。アリシアより。』
「あぁもう、あのアホ夫婦は······。普通2歳の子供をほっぽいて自分らだけで帰る?ありえないでしょ。」
「お姉ちゃん、裏面にも何か。」
『拝啓クリスチャンとアリスへ。夕飯までに帰らないと夕飯は抜きになります。あ、それと帰りは魔物や魔獣に、遭遇するかもしれないので父親譲りの魔力で倒しちゃってくれ。クリスバードより。』
「だぁ!んなろー!危ないって自覚してんじゃん!DQNでもそうそうこんな事しないよ!!」
「お姉ちゃん落ち着いて、私達の目的はゲーム機を買うことでしょ?早目に買って早目に帰ったらいいだけだよ。」
「でもさ、あの2人が居ないとお金無いじゃん。」
「さっきの天使はプライスレスって言ってたよ?」
「あぁなるほど、それなら二人だけでも買えれるか。」
「それでさ、この街って広いから、ここを拠点に右と左で別れて探そうよ。」
「それ名案!私は左を探すからアリスは右を探して!」
決まれば早いと左に走る。途中振り返ってみるとアリスの後ろ姿が見えた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
走れど走れど子供の速さではなかなかに効率が悪い。前世は忍者であったが、身体がリセットされれば意味も成さない。
そもそも父親譲りの魔力って何なのだろう。魔術なんて前世で多少使えた程度だ。どれだけ魔力が高かろうと慣れていなければ猫に金貨である。
ならば忍術で対抗するか?いや、私は分身の術以外は道具が無いと何も出来ないんだった。
もう、ホントなんなのよあの夫婦!
気が付くと建物が姿を消していた。振り返ってみると、街が遠くに見える。
「あっれれ?いつの間にこんなに離れたんだ?って、あれ?何だろうアレ。」
遠くに、それこそ陽炎のような何かが空中に浮いていた。
これは知らずにはいられない、と私の本能がそう告げている。では向かうしかあるまい。
それは意外と小さく、意外と近くにあった。まるで霏のような、亀裂のような。
とりあえず手で触れてみる。なに、心配はいらない。この身体はTPOに対応する構造なのだ。
「んっ、何これ。身体に、いや、心に入ってくるような······。」
私に無許可で霏のようなものが心を侵そうとして来る。しかし、それと同時に、これが何なのか解るようになってくる。
「んぶっ、ぷはー、はぁはぁはぁ······。」
いつの間にか息が止まっていたらしい。それと同時に手も霏から離れる。しかし、周囲は真っ暗になっていた。
あれっ、いつの間に夜に?ってことなら、私って夜になるまで息を止めてたってこと?あ、TPO能力のお陰か。ついでに真っ暗闇でも見える様にしよう。
目も見える様になったことだし、街に戻るかな。ということで、街に向けて足を向けるのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「お姉ちゃん遅いよー!」
「ごめんごめん、ちょっと見た事ない不思議現象見てたら長引いちゃって。」
「まぁ別にいいけどさ。それより、ゲーム見つけた?」
「んーん、こっちはカラッキシだった。アリスは?」
「実は、電器屋見つけたんだけどね。そこが爆破テロされちゃってて。」
「え、爆破テロ!?大丈夫だったの?」
「うん、私はアリシアさんの遺伝で助かったよ。それで············、どさくさに紛れてゲーム機GETしちゃいました。」
「おー!凄いよアリス!お手柄だよアリス!」
流石は私の妹である。運の悪い私とは大違いだ。てか爆破テロって······、人間まで物騒でどうすんのこの世界。
「それじゃ、帰ろっか。」
「うん。そうだアリス、暗闇でも目が見えるようにしときなよ?」
「分かってるよ、電器屋の中が真っ暗になってたからもうしてある。」
それでは我が家まで急いで帰ろう。クリスバードが夕飯を全て食べてしまう前に。まぁ、TPO能力で食べなくとも大丈夫なんだけどね?
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
日中の時と違って意外と帰り道が長い。この世界は太陽みたいなのはあれど、星や月は一切見えない。
「な、なんだか怖いねお姉ちゃん······。」
「大丈夫だって、何かあっても私が守ってあげるからさ。」
決め台詞を言ってみる。フラグじゃないよ?
すると、
「ガルルルルルルルゥゥ」
野犬の群が現れた。逃げようとしたが、回り込まれてしまう。よろしい、ならば戦争だ。
「アリスは後ろに隠れてて。」
「う、うん。だけどお姉ちゃん、これあげる。」
アリスがナイロン袋から1枚の黒い刃を取り出す。
「えっ!これ手裏剣じゃん!どうして持ってるの?」
「お姉ちゃん待ってる間、ホームセンターを漁ってたら売ってたの。これならお姉ちゃん闘えるでしょ?」
「ありがとうアリス!これで百人力だよ!」
私がアリスの手を取って喜んでいると、容赦なく野犬Aが駆け寄ってくる。
「よっしゃ、まず1匹目くらえ!」
手裏剣を野犬の額にぶん投げ、ヒットする。
「え!投げちゃうの?」
アリスが驚いた様にそう言う。いや、手裏剣って飛び道具でしょ。
確かに、たった1枚の手裏剣を使ってしまった。見る限り残りの野犬は7匹程だ。足りよう筈もない。
だがしかし、この私を舐めてもらっちゃ困る。
7枚の手裏剣を作り出し、7匹の野犬の額に射出する。よし、これで全滅である。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!今何したの?」
「ふふん、流石のアリスもこれは分からなかったようだね、ふふふ。」
「教えてよ!」
「仕方ないなぁ、特別だよ?······アリスから受け取った手裏剣を読み取って、生産したの。」
私はキメ顔を作って、そう宣うのであった。




