平穏
1943年12月26日
「ふむ、この結果はどういうことだね。
ローゼンベルク君。」
鷲の巣に冷たい空気が流れる。
粛清の雰囲気が周囲の海軍重役達の
背筋を凍らせる。
『も、申し訳御座いません!!』
慌てて頭を下げ、冷や汗が全身からダラダラと流れていた。
凍りつく周囲。
ヒトラーの下した処遇は意外な物であった。
「君を今ここで殺したところで戦績は変わらない。そこでだ、君には試製H43戦艦と第二機動部隊を率いてアメリカの
ワシントンDCを火の海にするのだ。
それが君のやるべき事だ。」
甘い処遇として受け取ったローゼンベルクは
素早く顔を上げた。
『了解いたしました、マインフューラー!!』
ローゼンベルクは第二艦隊に
すぐに出撃準備を開始させた。
この時、ローゼンベルクは気付いていなかった。
ワシントンDCの無差別爆撃の責任の所在を
曖昧にしたままにした事で、ヒトラーに
殺戮者の汚名を着せられたことを。
日、中、満三国機動部隊はイギリスのカンバト
にて補給を行っていた。
港から腕を大きく振り迎える英国海軍将校。
敬礼をする船員。
港に停泊し、全艦の健在を確認する。
因みにザイドリッツはラインハントの乗員を
救出後、全速力で戦場を去った。
『物凄い数、アジアの力を顕示する艦隊だ。』
クルードは感嘆した口調で語る。
『本当にありがとう。
真の同盟とはこのことだったのか。』
将王勇中国艦隊司令長官が口を開く。
「何を言っているんですか、貴国もその同盟の一員ですよ。
アジア連合の同盟国です。」
『有難い、この恩は忘れない。』
クルードは涙ぐんでいた。
「今回は我が戦艦奉天で晩餐会を企画しています。
どうですか、皆さん。」
満州国艦隊司令長官の東王季は奉天を指差す
全長297メートル、全幅41メートル。
主砲に40.6センチ三連装砲塔4基。
対空火器は03式30㎜機関砲96機、対艦噴進弾発射筒12発。
対空噴進弾垂直発射機90セル、汎用噴進弾垂直発射機58セル。
43式対空電探を装備し、高速電算機も積んでいる。
50機の航空目標に同時応戦可能であり、その防空の傘は
僚艦防空以上、艦隊防空の七割を担う事が出来る。
「黒姫より大きいな、戦いたくない船だ。」
東郷は笑う。
「射撃設備は黒姫の“ソレ”よりは劣っていますから
此方としても黒姫とは戦いたくないですな。」
『でも、争うことは無いですがね。』
「そうでしたな」
東郷と王季は吹っ切れるように笑う。
夕刻に集まる事となった各司令官はそれぞれの持ち場に戻る。
東郷は黒姫に戻り、防空指揮所の露天甲板にて
仮設の椅子に座り空を眺めていた。
久しぶりの平和な一時だ。
鉄の鳥が殺傷物を落としてくることも鉄の塊が水平線から
飛んでくることもない。
平和を実感できるのは死地に赴かなければ理解できないだろう。
凄まじい安堵感に帽子を下ろして寝てしまった。
「───長官、───長官、東郷司令長官。」
副艦長の大村忠友が視界に入る。
「どうしたんだ、副艦長。」
『1等級の秘匿電文ですので。』
白い紙を手渡される。
東郷は電文を読むと肘をつき、ため息をついた。
「戦艦大和が新鋭戦艦アイオワ、同型艦ニュージャージーと
交戦状態に入ったようだ。
場所は、ガトゥン湖。もう閘門を突破したのか。」
大村は少し不安であった。
戦艦二隻とは分が悪いのではないのか、と。
大村の知る大和とは263メートルの計画のみに終わった
戦艦のことである。
「アイオワ、ニュージャージーは大和には勝てないだろうな。」
東郷は何故か遠い目をした。
東郷の知る大和と自分の知る大和は違うと感じた。
すると東郷は話題を180度変えた。
「奉天の大型温泉は疲れが取れるぞ。
どうだ、君も来ないか?」
『え、あ、はっ!お供させていただきます。』
話の変化に戸惑いを隠せない大村だが
重要機密事項に首を突っ込むことはしてはいけないと
自分に言い聞かせた。




