表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カイロスの覚醒  作者: レオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/12

第8章 — 囁く街

神殿での悲劇を背に、リーは助けを求めて辺境の交易都市へとたどり着く。しかし、カイロスの悪意はすでに都市全体を侵食し始めていた。鳴り響く幻聴、止まない足音、そして都市を包み込む得体の知れない恐怖。リーはかつての友であるはずのレオン……カイロスと、運命の対峙の時を迎える。

惑星は星一つない夜の闇に沈んでいた。

腐り落ちたかのような灰色の雲が、空を覆い隠している。山々の間を吹き抜ける風が、奇妙な音を立てていた。

それはただの風ではない。

まるで……囁きのようだ。

リーは独り、歩いていた。

疲れ果て、埃にまみれ、その顔には数時間の過酷な旅路が刻まれている。巫女の死が、今も彼の心に重くのしかかっていた。

彼女の遺言が頭から離れない。

「貴方の妹……彼女が鍵となる」

「二人を引き離してはならない……」

彼は拳を握りしめた。組織へ警告し、ララを連れてこなければならない。レオンを見つけ出さなければならない。手遅れになる前に。

山岳地帯を数時間彷徨い、ようやく小さな交易ステーションへとたどり着いた。

岩壁の合間に築かれた、孤立した小さな街だ。ネオンサインが通りを照らし、商人、ハンター、ノマド、密輸業者が行き交う。彼らは、何が迫っているのかなど露ほども知らずに。

リーは通信ブースに飛び込み、パネルを操作した。

画面が明滅する。

――接続中……接続中……接続中……

やがて、見慣れた顔が浮かび上がった。リウだ。

「リーか?」

リウが目を見開く。「今どこにいる?」

リーは深く息を吐いた。「よく聞け。レオンを巫女の元へ連れて行った。彼女は助けようとしてくれたが……すべてがうまくいかなかった。最悪の結末だ」

リウの表情が即座に険しくなる。「何があった?」

リーは数秒間、言葉を詰まらせた。どう説明すべきかさえ分からない。

「レオンは、もう一人じゃない」

沈黙が流れる。

「どういう意味だ?」

「何かが、彼の肉体を乗っ取ったんだ。古のものだ。本来、存在してはならない何かがな」

リウは凍りついた。「カイロスか?」

リーは目を閉じた。「ああ」

リウでさえ、その名を聞いて顔面から血の気が引いていくのが分かった。

「神よ……」

リーは続けた。「頼みがある。ララを連れてこい。今すぐだ」

「ララだと?」

「そうだ。理由を問うな。とにかく連れてこい」

リウが頷く。「分かった。向かう」

通信が切れた。リーは壁に頭を預け、初めて自分の疲れを実感した。本当に、酷く疲れていた。

しかし、その瞬間だった。

コンッ。

彼は目を開けた。

コンッ。

ドアを叩くような音。

リーは周囲を見回すが、誰もいない。

コンッ。

今度は近くで。

コンッ。コンッ。コンッ。

ブースを出ると、通りはいつも通り賑わっている。だが、誰もその音を聞いていないようだった。

コンッ。

リーが通りを見やると、道の端に子供が一人、ポツンと立っていた。じっと、こちらを見つめている。

瞬きをした隙に、その姿は消えていた。

リーの心臓が早鐘を打つ。

その頃、街の反対側では……

恐怖が始まっていた。

ある女性が、何かに怯えて目を覚ました。理由など分からない。ただ心臓が激しく波打っている。

ドクン。ドクン。ドクン。

時計を見ると、午前3時17分。

眠りにつこうとした、その時だった。

ザザザッ。

壁を何かが引っ掻く音。彼女はベッドから飛び起きた。静寂。だが再び、

ザザザッ! ザザザッ!

まるで巨大な爪で壁を削るような音。彼女はランタンを手に窓へ歩み寄った。ゆっくりと窓を開ける。

何もいない。だが下を見ると、壁にはおぞましい爪痕が刻まれていた。何かが壁を這い上がってきたかのように。彼女は即座に窓を閉ざした。

街のあちこちで、人々が足音を聞いて目を覚ましていた。

コンッ。コンッ。コンッ。

廊下を歩く足音。銃を構えてドアを開けても、そこには何もない。

振り返ると、また背後で音がする。近づいてくる。

最後には、自分の頭のすぐ後ろで止まる。

「振り返れ」

声が聞こえた。逃げ出したくても、恐怖で体がすくむ。

街全体がそれを感じ取っていた。

勝手に開くドア。明滅するライト。震えるガラス。

ドクン。ドクン。ドクン。

まるで街の地下で、巨大な心臓が脈打っているかのように。誰も理解できず、誰も見えず、しかし誰もが「それ」を感じていた。

街を見下ろす廃ビルの屋上で、影が観測していた。

レオン。いや、その体を持つカイロスが。黄色い瞳を輝かせ、笑みを浮かべる。

「恐怖か……この感覚、懐かしいな」

下界では、人々が家へと逃げ帰り、鍵をかけ、窓を塞ぎ、子供を抱きしめていた。だが、何の意味もない。恐怖は外にあるのではない。彼らの頭の内側にあった。

カイロスは高みの見物を決め込む。

「走れ。隠れろ。祈れ。何も変わらん」

彼が低く笑う。その笑い声は、数キロ先まで街中に響き渡った。

ハ……ハ……ハ……ハ……ハ……

街中の人々が泣き崩れ、失神し、狂乱に陥る。

リーはそれを感じ取った。即座に理解する。

「レオン……いや、カイロスか」

リーは駆け出した。階段を駆け上がり、ビルを飛び越え、その忌まわしい気配を追う。

宇宙の彼方では、組織の宇宙船が星々を駆けていた。

ララは不安げに座っている。何かがおかしい。酷く間違っている。操縦するリウに、「あと数時間で到着する」と言われても、窓の外を見つめる彼女の胸は張り裂けそうだった。誰かが助けを求めている。遠い、遥か遠い場所から。

彼女は目を閉じ、囁いた。

「レオン……」

同じ瞬間、カイロスの瞳が動いた。まるでその声を聞き取ったかのように。

彼は微笑む。「面白い……」

ゆっくりと首を回し、向かいのビルの屋上に立つリーを見つけた。

二人は動かない。風が吹き、街の明かりが点滅し、遠くでサイレンが鳴り響く。

カイロスが、レオンの顔で笑う。

「ようやくか。退屈していたところだ」

二人の黄金の瞳がぶつかり合う。空が轟き、街の上空で雲が渦巻く。

真の悪夢が、今、始まろうとしていた。

第8章 終わり。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ついにリーとカイロスが街の屋上で対峙しました! 街全体を恐怖に突き落とすカイロスの力と、それを止めるために駆けつけたリー。そして、宇宙から向かうララ。物語は加速し、次章ではいよいよ「神と狼」の激突が描かれます。ぜひ、続きも楽しみにしていてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ