第6章 — 地獄が歩いた夜
封印は破られ、満月の夜に恐怖が解き放たれた。レオンの肉体を依代とする古の神「カイロス」は、その圧倒的な力で山岳地帯に潜む犯罪者たちを次々と屠っていく。
恐怖、絶望、そして終わりなき悪夢。死神が歩く場所には、ただ静寂と死だけが残される。かつてない絶望が、今、この地に降り立つ。
風が岩肌の間を冷たく吹き抜ける。
小さな木造の家の中では、リーが床に倒れ伏したままだった。
微動だにしない。
その一撃は完璧だった。
リーでさえ、反応する間もなかったのだ。
天井から吊るされたランプが、ゆっくりと揺れている。
ギィィィ……
ギィィィ……
ギィィィ……
木が軋む音が、必要以上に大きく響く。
部屋の中央では……
レオンが座っていた。
少なくとも、その体は。
なぜなら、彼の瞳はもう以前のものではなかったからだ。
瞳孔は消え失せ、黄色い眼球が、病的な二つの月のように輝いている。
彼を取り巻く影は、まるで生きているかのようだった。
呼吸をし。
蠢き。
監視している。
カイロスは微笑んだ。
それは、いかなる人間にも属さない笑みだった。
「ようやく……」
彼は目を閉じた。
深く息を吸い込む。
何世紀もの時を経て、初めて世界の匂いを嗅ぐ者のように。
「血。恐怖。憎しみ。絶望」
声は、同時に複数の場所から響いてくるかのようだった。
彼は両腕を広げる。
「どれほどこの時を待ちわびたことか……」
外では……
風が止んだ。
山々に静寂が支配する。
虫たちさえも姿を消した。
自然そのものが、逃げ出そうとしているかのように。
カイロスが立ち上がる。
ドアへと歩み寄った。
巫女が施した封印札が、まだ淡く光を放っている。
彼はそれを見つめた。
そして高笑いした。
「これが私を縛り付けられると?」
指先で札に触れる。
バリッ。
紙は真っ二つに裂けた。
まるで目に見えない刃で切り裂かれたかのように。
エネルギーが霧散する。
カイロスがドアを開けた。
木が軋む。
コンッ。
コンッ。
コンッ。
彼の足音が山々にこだまする。
月明かりがその顔を照らし出し……
そして初めて……
彼の背後の影が形を成し始めた。
翼。
巨大な。
黒い翼。
死んだ天使のような翼が。
数キロ先では……
その地域の犯罪帝国が活動を続けていた。
倉庫。違法カジノ。武器密売。傭兵。殺し屋。賞金稼ぎ。
すべてが山々の間に隠されている。
そこでは誰も質問をしない。
来る者は……買うか、さもなくば死ぬ。
ある倉庫の中では……
二人の男がカードゲームをしていた。
「巫女のところに客人が来たらしいぞ」
「知ったことか」
「一人はクリザルディアンだそうだ」
「興味ないね」
二人は笑い合った。
その時だった。
コンッ。
コンッ。
コンッ。
足音だ。
ゆっくりと。
外から。
男たちは顔を見合わせた。
「誰か呼んだのか?」
「いや」
コンッ。
コンッ。
コンッ。
音は続く。
近づく。
さらに近づく。
さらに近づく。
そしてドアの真後ろで止まった。
沈黙。
男の一人が銃を抜いた。
「誰だ!」
何もない。
返事はない。
すると……
コンッ。コンッ。コンッ。
木材を叩く、三度の静かな音。
男は前へ進み、ドアを開けた。
誰もいない。
ただ夜があるだけだ。
「見たか? 何もいない」
振り向いたとき……
仲間の姿は消えていた。
「おい?」
静寂。
「おい!?」
肩に一滴の雫が落ちた。
ポタッ。
触れてみる。濡れている。
上を見上げると……
男は叫んだ。
仲間が天井に吊るされていた。
逆さまの姿で。両目を抉り取られて。
血がゆっくりと滴り落ちる。
ポタッ。
ポタッ。
ポタッ。
逃げ出す間もなかった……
背後に影が現れた。
そしてすべてが闇に包まれた。
隣の倉庫では……
犯罪者たちが悲鳴を聞きつけた。十人の男たちが武器を手に駆けつける。
「何が起きた!?」
「誰が攻撃しているんだ!?」
ライトが点滅し始めた。
ピカッ。ピカッ。ピカッ。ピカッ。ピカッ。
照明が点いたり消えたりする。
点く。消える。点く。消える。
そしてそのたびに……
一人の姿が近くへ近づいていく。
最初は廊下の突き当たりに。
次は真ん中に。
次は目の前に。
ライトが完全に点灯したとき……
カイロスがそこにいた。
立ち止まり、微笑んで。
男たちは凍りついた。
「お前は誰だ?」
「私か?」
彼は首を傾げる。
「お前たちの悪夢の理由だ」
一人が発砲した。
バンッ。バンッ。バンッ。バンッ。
弾丸が体を突き抜ける。
煙のように。
男は目を見開いた。
「ありえない……」
カイロスが背後に現れた。
そして囁く。
「私もそう思った」
ゴキッ。
首が回転する。
体が崩れ落ちた。
虐殺が始まった。
数時間……
山々に悲鳴が響き渡った。
逃げようとする者。戦う者。
生存者は一人もいない。
カイロスは楽しんでいるようだった。
幻影を見せる。
味方同士を攻撃させる。
存在しない怪物を幻視させる。
影をクリーチャーに変える。
死んだ家族の声を被害者に聞かせる。
恐怖は死よりも残酷だった。
何が現実か、誰にも分からなかったのだ。
最も危険な殺し屋たちでさえ、抵抗することができなかった。
夜明け前……
最後の犯罪組織のリーダーがまだ生きていた。
屈強な体躯で、傷だらけの男。何百もの死に責任を持つ男。
彼は膝をついた。
泣きながら。
「頼む……何でもする……」
カイロスが彼のもとへ歩み寄る。
数秒間、観察する。
そして尋ねた。
「死ぬのが怖いか?」
「怖い!」
「素晴らしい」
男は微笑み始めた。助けてもらえると思ったのだ。
そしてカイロスが答えた。
「なぜなら、死が後ろに立っているからだ」
男が振り向く。何もない。
振り向いたときには……
カイロスの姿はもうなかった。
犯罪者は一人きりになった。完全に孤独に。
そして足音が聞こえ始めた。
ゆっくりとした。
背後の足音。
コンッ。コンッ。コンッ。
彼は走った。足音は続く。
さらに速く走る。
コンッ。コンッ。コンッ。
後ろを見る。誰もいない。
だが、足音は消えない。
近づく。近づく。近づく。
男は狂気に陥った。
彼の悲鳴が消えるまで、山々に響き渡った。
その間……
巫女は古い巻物と格闘していた。
ロウソクが部屋を囲む。
机の上でシンボルが輝く。
禁忌の魔法を再構築しようと試みる。
だが、手は震えていた。
何かがおかしい。酷く間違っている。
そのとき……
コンッ。コンッ。コンッ。
ドアを叩く音。
心臓が止まる。
彼女はすでに悟っていた。
ゆっくりとドアを開ける。
そして見た。
カイロスがそこにいた。
月光の下で。
微笑みながら。
巫女は青ざめた。
「嘘……そんなはずは……貴方は……」
カイロスは許可も得ずに足を踏み入れた。
家の中のすべての物品を観察し、シンボル一つ一つ、巻物一枚一枚を眺める。
そして、その中の一枚を手にした。
「興味深い。非常に興味深い」
彼は笑い始めた。
「あの家で私を封じ込めようとしたのは貴様か?」
女性は答えない。麻痺している。
「答えろ」
「……はい」
カイロスは高笑いした。
窓を震わせるほどの轟音で。
「アザゼルも貴様を嘲笑うだろうな」
「何世紀も彼の魔法を研究しておきながら……作り出したのがこんなにも哀れな代物だとは」
巫女は後ずさった。
「何を望んでいるの?」
彼は彼女を直視した。
黄色い瞳が輝く。
「誰が私に挑戦する勇気を持っていたのか、見たかっただけだ」
彼女がバリアを張ろうとする。
カイロスはただ見守るだけだ。
魔法は消え去った。
嵐の前のロウソクのように。
「弱い。あまりにも弱い」
女性は膝から崩れ落ちる。
圧倒的な恐怖。
本来存在してはならない存在を前にしていると感じた。古の神々ですら、これほどの感覚を抱かせることはなかった。
カイロスが身を乗り出した。
彼女と顔を突き合わせる。
「一番の絶望を教えてやろうか?」
「……何?」
「私はまだ、本気を出してさえいない」
巫女の血が凍りつく。
「この少年……ただの監獄に過ぎん」
沈黙。
「そして、囚われていようとも……私は今も、悪夢そのものなのだ」
彼は立ち上がった。
窓辺へ歩き、朝日を眺める。
遥か彼方……
山々は静まり返っていた。
生き残った犯罪者は一人もいない。一人もだ。
カイロスは微笑んだ。
「楽しむのも久しぶりだな」
巫女は勇気を振り絞った。
「次はどうする気?」
彼は数秒間、黙り込んだ。
思考する。
そして答えた。
「待つ。機が熟すのを待つ」
「少年がもう少し苦しむのを待つ」
「彼の心が折れるのを待つ」
黄色い瞳が輝く。
「それが起きたとき……私はようやく、真に自由になれるのだから」
巫女は絶望に飲み込まれた。
そして彼女は生涯で初めて理解した。
なぜ古の神々が、あの名前を口にすることを恐れたのかを。
カイロス。
破壊の神。
創造を捨てた創世主。
そして今……
彼は目覚めようとしている。
第6章 終わり。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
レオンの肉体を借りたカイロスの圧倒的な力の前に、山岳地帯の犯罪者たちは文字通り一掃されてしまいました。死を弄び、巫女をも凌駕するその存在感。彼はレオンの心に何を見出し、何をしようとしているのでしょうか。
物語はクライマックスへ向けて、さらなる闇を見せていきます。次回もぜひ、楽しみにしていてください!




