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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第一章 異世界への入り口(万博内郵便局)

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 郵便局を出ると、彼女は両手で腕をつかんできた。

 彼女はHのほうを見上げ、少しだけ照れたように笑う。

 その顔は、もう涙に濡れてはいなかった。

「お昼……私に、奢らせてもらえませんか?」

「え?」

「……あの時のお礼です。Hさんが助けてくれた時の」

 彼女の声は、優しく穏やかだが、強い意志がにじんでいた。

「今日は、一緒に食べたいものがあるんです」

 確かに食事を一緒にとの約束だった。

「どんなもの?」

「万博でしか食べられない料理です。せっかくだから……Hさんと、一緒に体験したくて」

 彼女は少し間を置いて続けた。

「実は、頑張ってオランダ館の予約が取れました。行きましょう!」


———


 館内に一歩足を踏み入れると、ひんやりとした空気とともに、スタッフの明るい声が響いた。


「オランダは水と共に生きる国なんです。水が無いと困るけれど、多すぎても水害にあったり困る。まるで……人間関係みたいでしょう?」

 軽いユーモアに、周りから小さな笑いが起きる。

 彼女も、少し肩を揺らして笑った。

 さっきまで泣いていたとは思えないほど、柔らかくて自然な笑顔だった。

 案内のあと、Hたちは白いオーブを一つずつ手に取り、暗がりの展示エリアへ進んだ。

 オーブは壁の展示場所に触れるたびに色が変わり、床や壁に淡い光が反射して揺れる。

「あ……!」

 彼女の声が、小さく弾けた。

 光に染まる彼女の横顔は、まるで水面に映るように澄んでいて、少女のように無邪気だった。

 色が変わるたび、目を瞬かせ、オーブをそっと覗き込む。

 彼女のことを時折見つめながら薄暗い展示を進むと、視界の奥にショップのまばゆい光がちらりと見えた。

 彼女の肩が、(せわ)しなく揺れた。

「Hさん……あっちの奥、ショップなんです。展示を出たら行けるんですけど……」

 声は控えめなのに、嬉しさが隠しきれていない。

「うん、わかってるよ。順番に回ろう」

 そう言うと、彼女は照れたように頷いた。

 展示に目を向けるけれど、どこか落ち着かない。

 でも、ひとつひとつ真面目に見て、そっと感嘆の息を漏らす。

 ショップの近くに来るにつれ、彼女の歩幅は少しずつ速くなっていった。

 そして……展示を抜けた瞬間。

「……あっ……」

 彼女の声が震えた。

 ショップの壁、その棚は空っぽだった。

 丸い受け皿が並ぶ中にあるはずの物がない。

 彼女は立ち止まり、言葉を失う。

「……ない……」

 その一言に、どれほど期待していたのかがすぐ分かった。

「お目当ての物があったの?」

 問いかけると、彼女はゆっくりこちらを向いた。

「……ぬいぐるみ、というより……」

「このキャラクターが好きなんです」

 彼女はスマホの画面のキャラクターを見せてくれた。

「私、小さい頃……初めてのお小遣いをもらったときに……」

 彼女の目が少し柔らかくなる。

「まわりの子はお菓子とかシールを買ってて……でも、私はどうしても欲しいものがあって」

「……それが?」

「郵便局の記念切手でした。このキャラクターの……」

 胸の奥がふっと熱くなる。

「その時、郵便局のお姉さんが言ってくれたんです。“オランダの作家さんが描いたんだよ。世界にはあなたの知らない場所がたくさんあるんだよ”って」

 彼女は少し恥ずかしそうに笑う。

「それで、オランダに、いつか自分で見に行けたらいいなって、ずっと思っていたんです」

「だから、このオランダ館のぬいぐるみは……小さい頃の私の続きみたいなもので」

 彼女は棚の空白を見つめながら、静かに言った。

 その笑顔は、残念そうでも、ちゃんと笑っていた。

「でも……買えなかったのも縁ですよね」

 彼女はにっこりと微笑んだ。

「今日のこのことも、宝物になります。だって……Hさんと一緒に見た景色なので」

 優しい声だった。

 そんな彼女が……Hにはどうしようもなく愛しく思えた。

 そう言って彼女はショップのグッズ売り場とは反対の壁際に目をやった。

 そこには大きなモニターが掛けられており、画面にはドリンクと軽食のメニューが映されていた。

「実は……今日来る前に、色々調べてたんです。オランダ館の体験を全部楽しむなら、ハーリング(塩漬けニシンのたまねぎ添え)だけは外せないって」

 そう言って彼女は、ちょっと誇らしげに笑った。

「Hさんと一緒なら、どんな味でも思い出になる気がして……だから、今日は絶対に食べたかったんです」

 彼女は無邪気に続ける。

「それに……私、自分の“好き”や“楽しい”を誰かと共有したいって、こんなに思ったの、初めてなんです」

 風が二人の間を抜けていく。

 彼女の横顔は少し赤く染まり、けれどまっすぐ前を向いている。

「なので……Hさん、どうですか?一緒に、オランダのお昼……食べてくれませんか?」

 その声を聞いた瞬間、Hはもう、迷う理由なんて一つもなかった。

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