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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第一章 異世界への入り口(万博内郵便局)

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 泣き崩れた彼女を郵便局員が、そっとブースの外へ導くあいだ、Hは黙って後ろに立っていた。

 彼女の肩が震えるたび、胸の奥がかすかに痛んだ。

 ——生きたい、と言っていた。

 その言葉が頭から離れずにいた。

 Hは彼女をひとまず近くの椅子に座らせ、未開封のペットボトルの水を手渡すと、郵便局員に促されるようにして同じブースへと入った。

 AIカメラの前に立つと、受付の郵便局員が言った。

「20年後のあなたの夢を入力してください」

 指先を画面に近づけたが、思った以上に手が動かなかった。

 彼女とは違う理由だ。

 なぜなら、目標も夢も、すべて封印してきたからだ。

 本当は何をやりたかったのか。

 ……全て分からなくなっていた。

 ……あの事件を境に。

 逡巡しながら手を画面に添えた。

 20年後の自分。

 そこには、何が残っている?

 仕事だけか。孤独だけか。

 胸が冷えた。

 だが、その冷たさの底で、かすかに別の感情が動いた。

 彼女が泣いたときのあの言葉。

 “生きたい”

 その声は、H自身の胸の奥を不意に掴んでいた。

 気づけば、指が動いていた。

 ゆっくりと、ためらいながら。


 “誰かのために笑える俺でいたい”


 その「誰か」が誰なのか、分からないままに。

 入力が終わると、AIが静かに処理を始める。

 数秒後、コトン、と音がする。

 青い紙が受け取り口に落ちてきた。

 Hはそれを拾い上げた。

 そこにあったのは……確かにHだった。

 20年後のHは、驚くほど柔らかい表情をしていた。

 スーツもネクタイもしていない。

 海沿いの見たこともない街を歩いていた。

 彼女と同じく、現実世界とは思えない異世界のような世界で旅をしていたのだ。

 胸が不思議な熱に包まれた。

 そして、手紙の文字を目で追った。


———


 20年前の俺へ。


 まず言う。お前は思っているよりずっと強い。

 そして、思っているよりずっと弱い。

 その弱さから逃げるために、仕事に逃げ続けただろう?

 仕事。信頼。人望。そして高い評価……。

 全部揃っているのに、心のどこにも“手に入れた喜び”がない。

 それを、俺は知っている。

 たが、20年後の俺は、誰かのために笑っている。

 ただ仕事をしているだけじゃない。

 誰かと一緒に、生きている。

 あの頃のお前が願えなかったものを、俺はちゃんと手にしている。

 心から愛せる人と、静かに笑える時間もある。

 その人が誰か、今は言わないでおこう。

 ただひとつだけ、確実に言える事がある。

 お前は変わる。

 そして、生きる価値を見つける。


 20年後の俺より。


———


 読み終える頃には、胸が詰まっていた。

 彼女のように声を上げて泣くことはなかったが、

 紙を握る指がじんわりと熱くなる。

 ……俺は、何のために、誰のために生きるんだ?

 彼女の涙が頭によぎる。

 ……ブースの横を見ると、そこに彼女が立っていた。

 目元はまだ少し赤い。

 けれど、俺を見ると柔らかく笑った。

「……どうでしたか?」

 俺は、胸に手紙をしまいながら答えた。

「悪くなかったよ。想像よりもずっと」

 彼女は少し安心したように笑い、俺の横に並んだ。

 その瞬間、心の奥に静かに波が立った。


 20年後の俺が隠した“誰か”。

 その影が、ほんの少しだけ、彼女の姿と重なった。

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