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深夜の万博会場
ウィルはタブレット端末で位置情報を確認していた。
「……多分、この辺りのはずだけどな」
彼はHの同僚だが、本来はアメリカ本社に勤務するエリートだった。
役職地位も高く、若くして本社の上級副社長に抜擢されていた。
そんな彼が万博に地位と身分を隠して来たのにはある目的があった。
数年前に夢洲が人工島として完成した際、ある事件が起きた。
それは、不思議な事件で、詳細は政府が揉み消した。
国家の存亡に関わる事だからだ。
だが、疑問を持つ者はいた。
その一人がアメリカ出身のウィルだった。
「どう?見つかった?」
不意に後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには白い服の女が立っていた。
「いや、まだだ……この近くにあるはずなんだけどな……」
そう言ってウィルは目の前の建物をじっと見つめた。
そこはWest郵便局。
ウィルはタブレットを握りしめた。
画面には複雑な地形図が表示されている。
現在の夢洲。
そして、完成前の夢洲。
さらにその下。
埋立工事以前の地層データ。
その全てが重ねられていた。
「ここだけ数値がおかしい」
ウィルは肩をすくめた。
女は郵便局を見上げた。
その瞳が一瞬だけ金色に輝く。
「やっぱりここなのね」
「あんたもそう思うか」
「あの場所の真上だもの」
女は静かに言った。
「造成時の事故……結局遺体は見つからなかった」
ウィルが頷く。
「ああ、四十九名だった」
女の表情が曇る。
「それだけの人数が、一瞬で消えた」
あまりにも不可解だった。
海に流されたとの発表だったが、これだけの人数の遺留品が、一点も見つからないのは異常だった。
気象データを確認しても、当日は海も静かで穏やかだった。
だからこそウィルは調べ続けた。
調べなければならない理由が、彼にはあった。
そして、緘口令が引かれていたが、遂に知った。
海底に巨大な空洞が発見され、その奥に、人工構造物が存在していた事を……。
「アメリカも中国も調べていた」
ウィルは静かに言う。
「だが誰もあれには入れなかった」
女が微笑む。
「当然よ」
「だってあれは地球の遺跡じゃないもの」
ウィルの目が細くなる。
「やはり……異世界のモノなのか」
「ええ」
女は迷いなく答えた。
「その昔、世界は一度だけ繋がった」
「その時に来た人達がいた」
「向こうへ渡った人達もいた」
ウィルは無言で聞く。
「そして血は残った」
ウィルの脳裏に何人かの顔が浮かんだ。
ウィルが目を見開く。
だからなのか。
あの男から時折感じる異様な威圧感。
人を従わせる才能。
指導者としての資質。
あれは偶然ではなかった。
王の資質だった。
「そしてH」
女は郵便局を見上げながら言った。
「彼が最重要」
その言葉にウィルの顔色が変わった。
「候補者か」
「そう、彼らは特別なのよ」
郵便局の壁が微かに震えた。
ゴォォォォ……
地の底から響くような低音だった。
「開き始めた」
女が呟く。
ウィルは険しい表情になる。
「原因は?」
女は少しだけ笑った。
「愛かしら」
「……は?」
「人と人が強く結ばれると世界は繋がるの」
理解不能だった。
だが女は真剣だった。
「Hと彼女が肉体的に繋がった事によって、運命が動き始めたのよ」
ウィルは無意識に空を見上げた。
万博の人々の笑顔。
平和。
夢。
希望。
その全ての下で、別の世界への扉が静かに開き始めていた。
———
同じ頃
夢洲から遠く離れた場所で、彼女はふと胸を押さえた。
「……え?」
理由の分からない鼓動。
身体の奥で何かが共鳴する。
まるで誰かに呼ばれたような感覚。
Hもまた夜空を見上げていた。
説明できない胸騒ぎ。
どこかで何かが始まった。
そんな予感だけがあった。
彼らはまだ知らない。
二つの世界を巡る戦いの中心に、自分たちが立つことになる未来を。
West郵便局地下深くで、長い眠りから目覚めた巨大な門が、静かに、確かに、開き始めていた。




