⑤
彼女を宿舎まで送り、別れた夜から三日。
Hと彼女は、確かに距離を縮めていた。
そして自然と……二人は付き合い始めた。
「……じゃあ、その……恋人ってことでいいんですか?」
彼女が赤くなった顔で言ったとき、Hは思わず笑ってしまった。
「嫌じゃなければ」
「嫌じゃないですっ!」
可愛すぎて、自然と抱きしめていた。
———
……それから数日後の休憩時間、彼女はスマホを見て深刻な顔をしていた。
「どうした?」
「万博の入場予約……すごく取りにくくなってしまって」
画面には予約枠の“×”がぎっしり並んでいた。
「このままだと……Hさんに会える日が減っちゃいそうです」
「万博で毎日のように会っているけど?」
「……でも、私、Hさんと会うとき……」
彼女は少し言い淀む。
「仕事の合間に会ってるだけじゃなく、ちゃんと……ちゃんと、デートがしたい」
病気の事があり、彼女はずっと我慢していた。
自分から「デートしたい」とは言えなかった。
それを、それでも言った。
だから迷う理由などなかった。
「……じゃあ、万博の外でデートしよう。どこか行きたい場所、ある?」
彼女は驚いた顔をして、次に嬉しそうに俯いた。
そして意を決したように言った。
「……あります。ずっと、誰かと行きたいと思っていた場所が」
「どこ?」
彼女は胸の前で手をぎゅっと握った。
「愛知県の……犬山市の、明治村です」
「明治村?」
「はい。博物館明治村。昔の建物が保存されていて……お手紙を10年後に届けてくれる郵便局があるんです。ずっと、誰かと一緒に行きたくて……」
彼女は小さな声で続ける。
「10年後……Hさんとまた一緒にいられたら……嬉しいです」
彼女がそんな未来を想像してくれたことが、胸が熱くなるほど嬉しかった。
「行こう。明治村」
そう言うと、彼女の頬が一瞬で赤く染まった。
「……本当に?」
「レンタカー借りて、ドライブしよう。どこか泊まって、一泊して……ゆっくり過ごそう」
彼女は信じられないというように目を潤ませ、それからふるふると震えながら笑った。
「……デ……デート……ほんとの……?」
「本当の。泊まりがけの。二人だけの」
彼女の耳まで真っ赤になった。
「よ、よろしくお願いします……!」
彼女はほっとしたように、そして嬉しそうに笑った。
それだけで優しいものが胸に満ちていった。




