表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第三章 選定されし候補者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/33

 彼女はまっすぐこちらを見ていた。

 その震えた声に、逃げ道は無かった。

 Hは腹を括った。

「……誰かを大切にすればするほど、失う気がして怖い」

 彼女の表情が曇る。

 けれど、それでも逃げずに見つめ返してくる。

「昔、守れなかった人がいる。自分には、誰かを大切にする資格がないって分かったんだ」

 彼女が息を詰めた音が聞こえた。

「それを忘れたくて……仕事の延長だとか、誰にでも優しいふりをして、自分の本音から逃げてた」

 彼女の唇が震えた。

「……じゃあ、私に優しくしたのも“ふり”だったんですか?」

 問いから逃げたらまた同じ後悔を積み重ねるだけだ。

「違う。優しくしたのは、ふりじゃない。本気だった」

「じゃあ……どうして“仕事の延長だ”なんて言ったんですか?」

「好きになりそうで……怖くなったからだ」

 彼女の目から、ひとつ、涙が落ちた。

 Hは続けた。

「一緒にいると、君が笑うと……“守りたい”って思ってしまう。そう思った時点で、もう二度と誰かを失いたくないって恐怖が出てくる」

「……だから距離を置いたんですね」

「あの言葉が君を傷つけてしまったんだね」

 彼女はゆっくり首を振った。

「違います。傷つけたのは……逃げたからです」

 胸の奥がえぐられた。

 彼女は涙を拭わずに話し続けた。

「逃げずに向き合おうとしてくれたなら、私はどんな言葉でも受け止めます。“好きじゃない”と正直に言われたほうがまだ良かった」

 痛いほどまっすぐな言葉だった。

「私、強くないです。」

「今日みたいな日も、笑ってなきゃ崩れちゃうから、笑ってただけです。Hさんがいなくて……でも会いたくて……そんなの、耐えられる人間じゃありません」

 彼女が喉を震わせた。

「……それでも、諦められなかったんです」

 胸の奥の触れてほしくない場所を、真っ直ぐに突かれた。

 それでも……彼女は泣きながら笑った。

「Hさんが怖いなら、そのままでいいです。無理に強くならなくていいです。代わりに、私が勝手に好きでいます。それでも迷惑じゃないなら、それでいい」

 彼女の声は震えていたのに、どこまでも強かった。

「でももし……Hさんが、一人で苦しい時、記憶の片隅に私を思い出してくれたら……私はそれで生きていけます」

 そんな愛し方、耐えられるはずがなかった。

「違う」

 気づけば彼女の肩を掴んでいた。

「“苦しい時だけ思い出せ”なんて、言うな」

 彼女が大きく目を見開いた。

「君が笑ってる時も、泣きそうな時も、うまくいってる時も、いってない時も……全部そばにいたいと思ってしまう。」

「だから怖かった。失ったら、生きていけなくなる」

「じゃあ……」

「好きだ」

 彼女が息を呑む。

「ごまかしじゃない。ふりじゃない。逃げない。君が好きだ。君を守りたいと思う自分が怖くても、それでも好きだ」

 彼女の喉から、声にならない嗚咽が漏れた。

「……言ってほしくて……ずっとずっと……」

 耐えていた涙が一気に溢れ、彼女は顔を覆った。

「ありがとう……生きててよかった……私……」

 その言葉は、あまりにも重く、あまりにも真っ直ぐで……胸の奥が焼けるほど苦しくて愛しかった。

 肩を引き寄せると、彼女は拒まず、胸元に顔をうずめた。

 細い身体が震えている。

 人混みの喧騒から隔離された夜の海風の中。

 互いの体温だけが鮮明だった。

 どちらも言葉が出なくなるまで抱き締めたあと、彼女が小さく呟いた。

「……もっと一緒にいたい」

 離れていたら後悔する。

 離れていたら、また逃げる。

 だから……彼女の手を取った。

 彼女は涙の跡を残したまま、弱く微笑んだ。

 二人は歩き出した。

 手を離さずに。

 振り返らずに。

 逃げずに。

 ……この夜、二人の関係は“始まった”のではない。

 ずっと始まりを恐れていた関係に、ようやく踏み込んだだけだった。

 そして、さらに大きな運命が二人を待ち受けていることを……。

 彼女もHも、まだ知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ