表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/34

 謁見の間は静まり返っていた。

 ウィルヘルムの蒼い瞳は、もはや笑っていなかった。

「姫はどこです?」

 再び問う。

 アマギは表情を変えない。

「答える義務はない」

 空気が張り詰めた。

 ハルキも違和感を覚えていた。

 王の反応がおかしい。

 何かを隠している。

 それだけは分かった。

 だが何を隠しているのかまでは分からない。

 ウィルヘルムが、ハルカ・セレスティアへ視線を送った。

 魔女は肩を竦めた。

「仕方ないわね」

 紫の瞳がアマギを見つめた。

「隠しても無駄よ」

 白い指先がゆっくりと持ち上がる。

 黒い霧が生まれた。

 それは、漆黒の闇そのものだった。

 生き物のように蠢く闇がアマギの身体へ絡み付く。

「ぐっ……!」

 王の膝が崩れ、呼吸が止まった。

 アマギは、首を絞められているかのような錯覚を覚えた。

 肺が空気を拒絶する。

「陛下!」

 ハルキが駆け出そうとした瞬間、凄まじい圧力が身体を押し潰した。

 足が動かない。

 立っていることすら困難だった。

「安心して」

 ハルカは微笑む。

 その笑顔は美しかった。

 だからこそ余計に恐ろしい。

「殺しはしないわ」

「ただ……」

 紫の瞳が妖しく輝く。

「あなたの意思とは関係なく身体が勝手に動くだけ」

 黒い魔力が強まる。

 アマギの身体が震えた。

 額から汗が流れる。

 歯を食いしばる。

 見えない力に必死に抵抗した。

 だが、次の瞬間王は立ち上がった。

 本人の意思ではない。

 まるで操り人形のように、ぎこちなく。

 一歩。

 また一歩。

 前へ歩き出す。

「……陛下」

 ハルキが呟く。

 アマギは答えない。

 いや、答えられない。

 口が思うように動かない。

 だが、すれ違う瞬間、王の瞳がハルキを見た。

 来い。

 その目はそう言っていた。


———


 王城地下。


 アマギは、長い石造りの階段を降りていく。

 その後ろからウィルヘルムとハルカが続く。

 そしてハルキが最後尾についた。

 やがて、重い扉が現れる。

 国王以外立ち入りを許されない礼拝堂。

 ハルキですら入ったことはない。

 扉が開く。

 冷たい空気が流れ出した。

 蝋燭の灯りが揺れる。

 静寂だけが支配する空間。

 その中央に、一つの白い棺が置かれていた。

 ハルキの心臓が止まりそうになる。

 嫌な予感がした。

 理解したくなかった。

 だが、足は勝手に前へ進む。

 棺の前へ。

 そして中を見た。

「…………」

 声が出なかった。

 世界が止まったかのように感じた。

 白い肌と長い髪。

 穏やかな寝顔。

 まるで眠っているだけに見える。

 だが、呼吸はない。

 そこにいたのはミライ・マティーニだった。

「……嘘だ」

 掠れた声が漏れる。

「嘘だろ……」

 返事はない。

 ハルキは棺へ手をつく。

 力が抜け膝が崩れた。

「そんな……」

 理解したくない。

 認めたくない。

 彼女がいると思っていた。

 だから戦えた。

 だから諦めなかった。

 彼女だけは守りたかった。

「……なんでだ」

 震える声。

 アマギが静かに口を開く。

 ようやく魔法が解かれていた。

「一年前だ」

 王の声は悲しみに打ちひしがれていた。

「ミライは気付いていた」

 静かに全てを語り始めた。

「この干ばつが自然ではないことを」

 ハルキの瞳が揺れる。

「そして、自分だけが対抗できることを」

 礼拝堂に響く声。

「毎日祈っていた」

「民のために、国のために」

「誰にも言わず、誰にも知られず……」

 アマギの拳が震える。

「命を削りながらな」

 王は棺を見た。

「三日前、最後の祈りを終えた」

「そして……」

 声が掠れる。

「私の腕の中で息を引き取った」

 何も言えなかった。

 ハルキの瞳から涙が落ちる。

「……そうか」

 ようやく絞り出した声だった。

「だから……」

 思い返す。

 最近、誰も彼女を見ていなかった。

 会おうとしても、会えなかった。

 それでも、生きていると思っていた。

 信じていた。

「そうか……」

 泣きながら笑ってしまった。

「俺は……」

 拳を握る。

「守れなかったのか……愛した人を」

 突然、礼拝堂に笑い声が響いた。

「ふふっ……」

 ハルカだった。

 肩を震わせ笑っている。

「なるほど」

 笑いが大きくなる。

「ははは……!」

 やがて腹を抱えるほど笑い始めた。

「そういうことだったのね!」

 紫の瞳が棺の中の少女を見つめる。

「あなただったの!」

 狂喜にも似た声。

「私の邪魔をしていたのは!」

 世界最強の魔女が笑う。

 一年間、自分の魔法に抗い続けた存在。

 ずっと探していた敵。

 その正体が、こんな小さな少女だったとは。

「素晴らしいじゃない!」

 ハルカは心の底から楽しそうだった。

「私に対抗する為に死んだなんて!」

 笑い続ける。

 だが、その姿を見ながらウィルヘルムは笑っていなかった。

 蒼い瞳が棺を見つめる。

 ミライ・マティーニ。

 パンジャ王国第一王女。

 この侵略で手に入れるはずだった宝。

 その一つが既に失われていた。

 初めて彼の計画に狂いが生じた。

 そして誰も知らない。

 ミライ・マティーニが命と引き換えに遺した最後の祈りが今まさに……。

 遠く離れた世界の片隅で、一人の少年を目覚めさせようとしていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ