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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第一章 異世界への入り口(万博内郵便局)

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 夢洲(ゆめしま)の空は、真夏の鏡のように強い光を跳ね返していた。


 大阪・関西万博会場。

 各国の国旗が風に揺れ、世界中から集まった人々の熱気が地面から立ちのぼる。

 Hは、白いシャツの袖をまくり、外国人記者たちに英語で説明をしていた。

 専門的な内容に、わずかなユーモアを混ぜる。

 記者たちは頷き、笑い、流暢な英語に感嘆の声を上げる。

 コミュニケーション能力に欠けるとはいえ、仕事となれば別だ。

 社内では雑談力を上手く発揮できなくとも、他社の前では不思議とユーモアも言える。

 ……意識の違いなのか。

 その様子を、少し離れた場所から見つめていたのがSだった。

 社内でも憧れの女性として知られる存在。

 美しく、誰に対しても公平で、仕事には一切の妥協を許さないが、面倒見が良い。


 午後の熱気が最高潮に達したころだった。

 隣のブースで、突然ざわめきが起きる。

 大型ディスプレイが暗転し、外国人客が困惑した声を上げた。

「えっ……電源、入らない……?」

 Hの主要取引先に勤める、新人スタッフだった。

 額の汗を拭いながら、何度もスイッチを押している。

 その様子に気づいたHは、迷いなく歩み寄った。

「もしよければ……少し見せてもらっても?」

 彼女は驚いたように振り向き、すぐに深く頷いた。

「は、はい……お願いします!」

 Hは数秒で状況を把握した。

 工具を借り、手早く修復する。

 数分後、ディスプレイが再び光を放った。

 周囲から、自然と拍手と歓声が湧き起こる。

 彼女は目を丸くし、胸の前で手を合わせた。

「すごい……ありがとうございます! 本当に助かりました!」

「困った時はお互い様です。大変でしょうけど、おもてなし……頑張ってください」

「はいっ!」

 Hが去っていく背中を、彼女はしばらく見送っていた。

 陽光の中で、白いシャツがやけに眩しかった。


 数日後。

 会場スタッフ控室で、二人は偶然再会した。

「この前は、本当にありがとうございました」

 彼女が頭を下げると、Hは小さく笑う。

「無事に動いているみたいで、何よりです」

 そして、彼女は少し迷うように視線を泳がせてから唐突に尋ねた。

「Hさんって……万博の通期パス、持ってますか?」

「え? いや、AD証があるから」

「じゃあ……お仕事以外では万博会場内に入らないんですか?」

「そうなるかな」

 彼女は一瞬だけ、寂しそうに微笑んだ。

「せっかく世界が集まってるのに……仕事だけなんて、もったいないです」

「あなたは?」

「はい。私は通期パスを持っています」

 少し胸を張って、続ける。

「お休みの日も、一般の人の目で、この場所を見たくて」

 彼女は息を整え、勇気を振り絞るように言った。

「今度……お昼、ご一緒してもいいですか?この前の、お礼がしたくて……」

 Hは私生活では人と距離を取る。

 だが、仕事となれば別だ。

 彼女の勤める会社は重要な取引先。

 断れば、角が立つ可能性もある。

 「……僕でよければ」

 断る理由はなかった。

 その瞬間、彼女の瞳が柔らかく光を宿した。

 ……こうして、二人の“最初の休日”が生まれた。


———


 約束の日。

 夢洲駅。


 一般入場の列に並びながら、Hはぽつりと呟く。

「……一般入場って、こんなに並ぶんだな」

 彼女は振り返り、笑った。

「でも、この“待つ時間”も思い出になりますよ」

 手渡された万博チケット。

 プリントアウトされた電子チケットのデザインに、Hはふと違和感を覚える。

 ……以前、対応した時に見た、障害を持つ来場者の“特別チケット”と、よく似ていた。

 胸に、針のような何かが刺さる。

 だが、聞けない。

「行きましょう、Hさん!」

 彼女の笑顔に向き直りながら、Hは思った。

 ……この子の笑顔を見ると、不思議と心が安らぐ。

 それが、自分でも気づいていなかった……運命の始まりだった。

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