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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第一章 異世界への入り口(万博内郵便局)

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 2025年 東京。


 Hは、役員たちを前に淡々とプレゼンテーションを進めていた。

 資料構成、数値の根拠、確かな結論への展開。

 どこを切り取っても非の打ち所がない。

 重役たちは深く頷き、誰一人として口を挟まない。

 それでも……会議室の空気は、どこか妙に静まり返っていた。

 理由は分かっている。

 コミュニケーション不足。

 雑談力の欠如。

 自分が、必要以上に人と関わらないからだ。

 成果さえ出していれば、それで十分だと思ってきた。

 プレゼンを終え、資料をまとめて退出しようとした瞬間。

「H、来い」

 背後から、低く抑えた声がかけられた。

 振り返ると、常務が腕を組んで立っている。

 鋭い眼光と、恰幅の良い体型。そして場の空気を支配する存在感。

 Hの母校の先輩ではあるが、50代半ばで在学時期は重なっていない。

 それでも入社以来、何かと目をかけてくれている数少ない人物だった。

「……失礼します」

 案内されたのは、普段使われていない小会議室。

 扉が閉まると同時に、常務は口を開いた。

「お前は相変わらず優秀だな」

 褒め言葉だが、前置きであることは、Hにもすぐに分かった。

「個人の能力としては抜群だ。それは全員が認めている」

「……ありがとうございます」

「だがな」

 声のトーンが、わずかに低くなる。

「上に立つ者は、周りの人員を上手く使える奴でないと務まらん」

 図星だった。

 言葉が喉で詰まる。

「H。お前は誰とも深く関わろうとしない。それは、お前自身が一番よく分かっているはずだ」

「……はい」

「成果さえ出していればいい。そう思っている。だが、それでは幹部にはなれない」

 胸の奥が、鈍く痛んだ。

 別に幹部になりたいわけじゃない。

 だが、「このままでは成長が止まっている」と突きつけられた感覚が、確かにあった。

「今のままなら……」

 常務は一拍置き、続ける。

「同期のSを、幹部候補に推す」

 一瞬、心臓が止まった気がした。

 ……S。


 自分と、ある()()を共有する仲間。


 明るく、社交的で、誰に対しても誠実な女性。

 部下からの信頼も厚く、現場をまとめる力がある。

 自分とは正反対のタイプだ。

 理解はできる。

 当然の判断だとも思う。

 それでも、胸のどこかがざわついた。

 悔しさではない。

 “このままだと、俺は一生変われない”

 その現実を突きつけられたからだ。

「……私は、変わるべきだということでしょうか」

 自分でも驚くほど、声がかすかに震えた。

「そうだ。だから……」

 常務は鞄から一枚の資料を取り出す。

「……万博?」

「大阪・関西万博だ。会期途中からの派遣だが、十分だろう」

「突然ですね」

「突然じゃない。お前のことは、ずっと見てきた」

 常務は静かに言葉を重ねる。

「万博では、誰だろうと“関わらざるを得ない”。国籍も文化も価値観も違う人間同士が、同じ現場で働く。……お前には、そういう場所が必要だ」

 変わるきっかけ。

 それは、Hがずっと避けてきたものだった。

「強制ですか」

「そうだ」

 拒絶を許さない響きがあった。

「だがな、H。変わりたいという気持ちを、自分で認めない限り、人は変われない。万博で何か一つでも掴めたら……俺は、Sよりもお前を推す」

 胸の奥が、じわりと熱を帯びた。

 競争心は無い。

 だが、このまま、あの事件をきっかけに、誰とも深く関わらずに生きていくのか。

 その問いが、静かに突き刺さる。

 Hは資料を閉じ、深く息を吸った。

「……行きます。万博で、何か掴んできます」

「よし」

 常務が頷く。

 張り詰めていた空気が、わずかに緩んだ。

 これが、人生の分岐点だった。

 そしてこの派遣が、運命の二人と、女神と、否応なく深く関わる異世界への入り口になることを、この時のHは、まだ知らなかった。

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