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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

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 渓谷を包む沈黙は重かった。

 燃え続ける落とし穴。

 副官が命と引き換えに作った炎。

 その前に立つ黒衣の魔女。

 ハルカ・セレスティア。

 誰も動けなかった。

 恐怖だった。

 目の前にいる女から感じる圧力が、人間の本能へ直接訴えかけてくる。

 だが、不意に一人の兵士が前へ出た。

 まだ若い騎士だった。

 震える手で剣を握り締めている。

「副官殿は……」

 声が掠れる。

「副官殿は命を懸けたんだぞ」

 誰も返事をしない。

 だが全員が聞いていた。

「俺たちは何のために近衛騎士になった」

 剣を強く握る。

「王を守るためだろう!」

 震えていた声が少しずつ力を帯びる。

「民を守るためだろう!」

 兵士達の顔が上がる。

「この国を守るためだろう!」

 副官の最期が脳裏に浮かぶ。

 副官はこの国を守る為に逃げなかった。

 ならば、自分達も逃げてはいけない。

「俺は怖い!」

 若い騎士が叫ぶ。

「だが、副官殿はもっと怖かったはずだ!」

 剣を構える。

「それでも戦った!」

 一歩前へ出る。

「だから俺も戦う!」

 その隣に一人。

 また一人。

 さらに一人。

 近衛騎士達が並び始めた。

 王国最強にして国王直属の精鋭。

 パンジャ王国近衛騎士団。

 彼らは弱くなかった。

 魔法という未知に圧倒されて怯えていただけだった。

 だが今、副官が思い出させてくれた。

 自分達の役目と誇りを。

 そして守るべきものを。

「パンジャ王国万歳!」

 誰かが叫ぶ。

「パンジャ王国万歳!」

 声が重なり渓谷に響く。

「突撃!!」

 騎士達が走った。

 ハルキは止められなかった。

 彼らは理解した上で進んでいる。

 死ぬと分かっていて。

 それでも誇りのために前へ前へ進んでいる。

 ハルカは静かにそれを見ていた。

「愚かね」

 彼女が指先を軽く動かす。

 それだけで先頭の騎士が吹き飛んだ。

 まるで見えない巨人に殴られたかのように身体が宙を舞い、断崖へ叩き付けられる。

 骨が砕ける音が響き、騎士はそのまま動かなくなる。

 続く騎士達も次々と吹き飛ばされる。

 誰も近付けない。

 触れることすら出来ない。

 崖へ叩き付けられた兵士達が血を吐きながら絶命していく。

 まるで子供が虫を払うような作業だった。

 あまりにも一方的だった。

 それでも、誰一人逃げなかった。

 最後まで剣を握り続けた。

「もういい!!」

 ハルキが叫んだ。

 怒声が渓谷に響く。

「下がれ!!」

 兵士達が止まる。

 ハルキは前へ出た。

 これ以上は意味がない。

 これ以上は殺されるだけだ。

 副官が命を懸けて未来を託した兵達を、ここで失うわけにはいかない。

 ハルカを見据える。

「聞きたい」

 魔女は無言でハルキを見つめる。

「お前達は何が望みだ」

 返答はない。

 ハルキは叫ぶ。

「答えろ!」

 ハルカの紫の瞳が細くなった。

「望み?」

 冷たい声だった。

「そんなもの決まっているでしょう」

 黒い魔力が渦を巻く。

 空気が震え地面が軋む。

「殺したい奴を殺すだけよ」

 その視線がハルキへ向く。

 明確な殺意だった。

 圧倒的な黒い魔力が槍のように収束した。

 狙いはハルキ。

 防げない。ハルキはそう思った。

 だが、一本の手がハルカの腕を掴んだ。

「そこまでだ」

 ハルカが振り返る。

 兵士達も息を呑んだ。

 そこにいたのは。

 金色の髪と蒼い瞳。

 黒い軍服を纏う若き貴公子ウィルヘルム・ロック。

 カリメア帝国侵略軍総司令官。

 ハルカは不満そうに眉を寄せた。

「邪魔しないで」

「駄目だ」

「殺したいのだけれど」

「駄目だ」

 ハルカは小さく舌打ちするがウィルヘルムに従う。

 それだけで兵士達の背筋に寒気が走った。

 あの魔女が。

 世界最強の存在が一人の男の言葉に従った。

 ウィルヘルムはハルキを見る。

 まるで品定めするように。

 そして微笑んだ。

「案内しろ」

 ハルキの眉が動く。

「……どこへだ」

 ウィルヘルムは答えた。

「王城だ」

 蒼い瞳が細くなる。

「国王アマギ・パンジャに会う」

 その言葉に。

 ハルキの背筋を嫌な予感が走った。

「王を殺すつもりか」

 ウィルヘルムは高らかに笑った。

「……失礼……殺しはしないさ」

「王はこの国を治めるのに必要だ」

「信用できるか!」

「……王城でも兵士は抵抗するだろう……無駄な犠牲は出したくないのが本心だ……その為には、我々の圧倒的な戦力を国民に知らしめる必要がある」

「どうだ?お前が死んでくれるか?そうすれば王は助けると約束しよう」

 まるで最初からそれだけが目的だったかのようだった。

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