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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

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 港は地獄だった。

 燃え盛る倉庫。

 黒煙に覆われた空。

 血の匂い。

 そして、絶え間なく響く悲鳴。

「隊列を組め!」

 ようやくハルキの後から近衛騎士団が次々と港へ到着した。

 だが、その先に待っていたのは彼らが知る戦いではなかった。

 黒衣の男たち、十名。

 たったそれだけなのに誰も近づけない。

 港には既に数百を超える死体が転がっていた。

 兵士。

 港湾労働者。

 逃げ遅れた民衆。

 その多くが原形を留めていない。

 身体そのものが弾け飛んでいる。

「なんだ……あれは……」

 若い兵士が震える声を漏らす。

 ハルキは答えられなかった。

 知識としては知っている。

 魔法使い。

 だが実際に見るのは初めてだった。

 この国には存在しない。

 いや、多くの国民と同じように、半ば伝説の存在だと思っていた。

 だが目の前にいる。

 そして、圧倒的だった。

「突撃ぃぃぃ!」

 若い騎士が剣を抜いて駆ける。

 勇敢だった。

 だが、黒衣の魔法使いが片手を上げた瞬間、騎士の身体が内側から膨れ上がった。

「え?」

 本人すら理解できない。

 そして、破裂した。

 血肉が爆散し、近くにいた兵士たちへ降り注ぐ。

 恐怖で誰も声を出せなかった。

「離れろッ!!」

 ハルキの怒声が響く。

「近づくな!!」

 ようやく兵士達が後退する。

「団長!?」

「接近戦はダメだ!」

 ハルキは叫んだ。

「距離を取れ!」

「まとまるな!」

「散開しろ!!」

 長年の経験が警鐘を鳴らしていた。

 相手の攻撃は近距離ほど危険だ。

 ならば離れるしかない。

「弓兵前へ!」

 兵士達が慌てて弓を構える。

「放てぇぇぇ!!」

 数百本の矢が空を埋め尽くした。

 だが、魔法使い達は避けようともせず、全く動じる様子がなかった。

 彼らの前方に黒い靄のようなものが広がる。

 それに矢が触れた瞬間、全ての矢が地面へ落ちる。

「なっ……」

 兵士達が絶句した。

 あり得ない。

 理解できない。

 もはや、別の生き物だった。

 魔法使いの一人が腕を振る。

 黒い光が走る。

 十数人の兵士が吹き飛んだ。

 悲鳴すら上がらない。

 一瞬で身体が千切れ飛んだからだ。

「うわあああああ!」

「逃げろ!」

「化け物だ!」

 兵士達の顔から戦意が消える。

 当然だった。

 戦い方が分からない。

 近づけば死ぬ。

 ハルキは目の前で死んでいく部下達を見る。

 胃が捩れるような怒りが湧く。

 だが同時に理解していた。

 勝てない。

 ここでは。

「団長!このままでは全滅です!」

 副官が叫ぶ。

「命令を!」

 ハルキは数秒だけ目を閉じた。

 悔しかった。

 逃げる命令を出すことが。

 仲間の死を無駄にすることが。

「……撤退だ」

 副官が固まる。

「だ、団長……」

「聞こえなかったか!」

 ハルキは怒鳴った。

「全軍撤退!」

「渓谷の防衛線まで下がる!」

 兵士達の顔に安堵と絶望が同時に浮かぶ。

 敗北。

 それを認める命令だった。

「逃げ遅れた民を誘導しろ!」

「動けない者は担げ!」

「急げ!!」

 魔法使い達は追わない。

 ただ静かに見送っていた。

 命令なしでは決して動かない。

 意思のない人形のようだった。

 その様子を遠くから見ていた男がいる。

 ウィルヘルム・ロックだった。

「退いたか」

 副官が尋ねる。

「追撃なさいますか?」

「ああ」

 蒼い瞳がハルキを見つめる。

「優秀な指揮官だ」

 副官は眉をひそめた。

「罠があるのでは?」

「多少の犠牲が出ても構わん」

 ウィルヘルムは微笑む。

「この国の価値は人だ。殺しすぎてはならん。その為には、我々にはどうあがいても敵わないという事を知らしめる必要がある」

「あいつは名がありそうな指揮官だ。人々に絶望を与える為に、いずれ捕まえて公開処刑に利用してやるさ」

 絶望で人の心は折れる。

 少しの希望があるから抗う。

 そして抗った者ほど、折れる時の反動は大きい。

 それは事実だった。


———


 渓谷へ向かう馬上で、ハルキは血の付いた拳を強く握り締めていた。

 負けた。

 だが、渓谷へ着けば反撃の機会はある。

 ハルキは後方に目をやった。

 黒衣の魔法使いがようやく後に続いていた。

「ようやく追ってきたか」

 奇妙なことに退却の際、魔法使い達は全く動かなかった。

 自らの意思がない機械のようだった。

「奴らはいったい……あれは本当に人間なのか?」

 だが、そんな事を深く考える余裕は無い。

 今は次の手を成功させることに全力を尽くす時だ。

「……まさか、コレを使うことになるとはな」

 渓谷に到着するとハルキは副官に命令を出して黒衣の魔法使い達が来るのを静かに待った。

 心を落ち着かせようと目を閉じると、不意に脳裏へ浮かぶ二つの瞳があった。

 春の湖のように澄んだ瞳。

 優しく微笑む少女。

『無理しすぎです』

『休んでください』

 あの日の声。

 ハルキは拳を握り直した。

「まだだ」

 誰にも聞こえない声で呟く。

「まだ終わっていない」

 だが彼は知らない。

 自らを支えていたその少女が、既にこの世を去っていることを。

 そして今この瞬間、世界のどこかで、新たな魔法使いが目覚めようとしていることを。


———


 魔法使いの数は常に四十九。

 一人が死ねば、一人が生まれる。

 それは世界の(ことわり)だった。

 そして三日前。

 世界で唯一の精霊魔法使い、ミライ・マティーニが息を引き取った。

 空いた席は、既に誰かのものになろうとしていた。

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