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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

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 港の炎はまだ燃え続けていた。

 赤く染まる空を、巨大な旗艦の甲板から一人の女が見つめていた。

 ハルカ・セレスティア。

 世界最強の魔女。

 そして世界で唯一の魔女だった。

 夜風が漆黒の長髪を揺らす。

「……酷いものね」

 彼女は小さく呟いた。

 港では今も悲鳴が続いている。

 逃げ惑う民。

 燃え上がる倉庫。

 死体の山。

 だが、その瞳に罪悪感はなかった。

 ……慣れていたからだ。

 


 魔法使いが確認されたのは、わずか二十年ほど前だった。

 それ以前、人類は魔法という存在を知らなかった。

 最初に現れた魔法使いは一人の少年だった。

 森に迷い込んだ少年は空腹で絶命しかけていた。

 そこへ現れたのは獰猛な野獣の群れだった。

 死を覚悟した時、少年の前に雷が落ちた。

 野獣達はは一瞬で黒焦げになり、その肉を食べる事で少年は命を繋ぐことができた。

 だが、それは自然現象ではない。

 少年が起こした現象だった。

 死を覚悟した時に魔法使いに覚醒した。

 

 次に現れたのは漁師の男。

 仲間と海に出た時、船が座礁した。

 動力が壊れて港に帰ることができない。

 天候も悪くなり始めて助けは来ない。

 暫くすると嵐が起こり、豪雨となった。

 海は荒れ、船から海中に投げ出された。

 肺が水で満たされ死を覚悟した時、海中に巨大なサメが視界に入った。

 意識が消え失せようとした瞬間、突然サメは体内から勢い良く爆発し、衝撃で男の身体は海上に押し上げられた。

 天候は回復しており、仲間に助けられて男は助かった。


 その後も命の危険に晒された者が魔力に目覚めたが、共通するのは、おとなしく、穏やかな性格の者たちばかりだった。

 そして、全員が男で、同じ力を持っていた。

 闇の力。

 破壊の魔法。

 人々はそれを暗黒魔法と呼んだ。

 だが万能ではない。

 傷を癒すことも出来ない。

 命を生み出すことも出来ない。

 暗黒魔法とは破壊の力だった。

 だからこそ魔法使い達は争いを、戦争を嫌った。

 自分達が戦場へ出れば大量の死者が出る。

 誰よりもそれを理解していた。

 だから暗黙の了解が生まれた。

 魔法使いは戦争に参加しない。

 ……ハルカ・セレスティアが現れるまでは。


 彼女が確認された当時、世界中の魔法使いが騒然となった。

 初めてだったからだ。

 女の魔法使いが現れたのは。

 そして、誰もがすぐに理解した。

 彼女だけが異常だった。

 他の魔法使いと違い好戦的な性格。

 一人で十人の魔法使いを圧倒した。

 一人で国家を壊滅させた。

 誰も敵わない。

 誰も勝てない。

 誰も逆らえない。

 気付けば世界中の魔法使いが彼女の下へ集まっていた。

 敬愛や、忠誠ではない。

 畏怖からだった。

 世界最強にして、魔導の頂点。

 そして、唯一の魔女。

 それがハルカ・セレスティアだった。

 彼女が命じれば魔法使いは従う。

 

 だが、そのハルカにも理解出来ない感情があった。

「何を見ている?」

 背後から声がした。

 ウィルヘルムだった。

「別に」

 ハルカは笑う。

「ただ考えていたの」

「何をだ」

「どうして私は貴方に従っているんだろうって」

 ウィルヘルムは眉を上げた。

「今さらか」

「そうね」

 クスリと笑う。

 世界中の誰も逆らえない。

 魔法使い達ですら頭を下げる。

 そんな自分が、なぜ一人の男に付き従っているのか。

 

———


 十年前。

 まだ無名だった頃。

 全ての人間が彼女を恐れた。

 化け物。

 災厄の魔女。

 そう呼ばれていた。

 だが、一人だけ違った。

 ウィルヘルム・ロック。

 彼だけは怯えなかった。

「君は綺麗だな」

 初めて会った日。

 最初にそう言われた。

 戦争に利用しようと、幾つもの国が彼女に接触してきた。

 だが、その全てを断り、使いの者を何百人と惨殺してきた。

 自由でいたかったからだ。

 ある時から誰も近づかなくなったが、ウィルヘルムは、利用価値のある魔女ではなく、ただ一人の女として見てくれた。

 その瞬間、彼女は堕ちた。

 世界最強の魔女は、一人の男に恋をした。



 ウィルヘルムは港を見下ろす。

「後悔しているか」

「いいえ」

「私は貴方が望むなら世界だって滅ぼせる」

 それが本心だった。

 だが、ハルカの瞳が僅かに揺れる。

 脳裏に浮かんだのは、自分の魔法に抗い続けた存在。

「消えたわね」

 小さく呟く。

「何がだ?」

「私を邪魔していた力よ」

 ハルカは空を見上げた。

 もう感じない。

 一年間、ずっと存在していた気配。

 だが三日前、突然消えた。

 まるで、命が尽きたように。

 だが、ハルカは気付いていなかった。

 自分が勝ったと思っているその相手が、命を燃やし尽くす瞬間に仕掛けをした事を。

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