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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

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 港が燃えていた。


 黒煙は夕暮れの空を覆い、人々の悲鳴は王都にまで届いていた。

 王城の最上階。

 その窓から炎を見つめるアマギ・パンジャ国王。

 彼は一人だった。

 側には誰もいない。

「こちらの結果だったか……」

 静かな声だった。

 既に覚悟は決まっていた。

 どちらかの選択をしなければならなかった。

 例えカリメア帝国の申し出を断ったとしても民はいずれ死んでいた。

 早いか遅いかの違いだけだった。

 驚きは無かった。

 その手には一枚の手紙がある。

 何度も読み返され、端が擦り切れた手紙。

 そこには美しい文字でこう書かれていた。

『お兄様へ』

 アマギは目を閉じる。

 胸の奥が痛んだ。

 何度読んでも、慣れることはない。



 世界には魔法使いが存在する。

 だが数は少ない。

 百万人に一人どころではない。

 カリメア帝国でおよそ10人。

 世界全体でも50人未満の稀少な人種だ。

 多くの人間は一生のうち一度も魔法を見ることなく人生を終える。

 だから人々は知らない。

 この一年続いた大干ばつが自然現象ではなかったことを。



 数日前。

 

 カリメア帝国。

 帝都中央の巨大な塔の最上階に、一人の女が窓辺に立っていた。

 漆黒の長い髪と紫の瞳。

 絶世の美女として名高い、世界最強の魔女。

 ハルカ・セレスティア。

 魔導師達の頂点にして、世界中の魔法使いが従う存在だった。

「雨はどうだ?」

 声のする方を振り返るとウィルヘルムが立っていた。

 魔女は微笑む。

「降らないわ」

「確実だな」

「ええ」

 彼女は空を見上げた。

「でも不思議ね」

 紫の瞳が細くなる。

「気温も上げているから普通なら、半年前に滅んでいるはずなのに……」

 世界最強の魔女が干ばつを起こしている。

 他の力ある魔法使いにも、誰にも防げない。

 だが、パンジャ王国だけは違った。

 何かが邪魔をしていた。

 目には見えない力。

「誰かいるのよ」

 ハルカ・セレスティアは呟く。

「私の魔法に抵抗している誰かが」



 王城地下。

 誰も知らない礼拝堂があった。

 国王以外立ち入りを許されない場所。

 蝋燭の火だけが揺れている。

 完全なる静寂の中、中央に置かれた白い棺があった。

 アマギはゆっくり近づき、棺の前で膝をつく。

「……ミライ」

 返事はない。

 あるはずがない。

 白い棺の中で眠る少女は動かなかった。

 透き通るような白い肌と、艶やかな長い髪。

 まるで眠っているだけに見える。

 だが呼吸はない。

 彼女は既に死んでいた。



 一年前。


 雨が消えた日。

 ミライは全てを悟った。

 これは自然災害ではない。

 魔法だと。

 そして彼女は知っていた。

 自分だけが持つ力を。

 世界でただ一人の存在。

 精霊と神に願いを届ける(よう)の力。

 ハルカ・セレスティアの魔法を(いん)の力、暗黒魔法とするならミライ・マティーニの力は、精霊魔法、光の魔法であった。



 来る日も、来る日も、彼女は祈った。

 国のために、民のために。

 誰にも言わず、誰にも知られず。



 その代償は命だった。

 精霊への祈りは生命力を対価にする。

 祈れば祈るほど寿命を削る。

 そして三日前。

 最後の祈りを捧げ。

 ミライ・マティーニは静かに息を引き取った。

 十八歳だった。



 アマギは震える手で妹の髪に触れる。

「すまない」

 声が掠れる。

「兄として」

「王として」

「何一つ守れなかった」

 涙が白い手に、静かに落ちた。



 その頃。

 港では数万人が殺されていた。

 だが。

 誰も知らない。

 カリメア帝国が最も欲していた存在が。

 パンジャ王国最大の秘宝が。

 既にこの世を去っていることを。

 そして運命はさらに残酷だった。

 炎に包まれた港へ向かったハルキもまだ知らない。

 自らの命より大切な少女が、もう二度と目を開かないことを。

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