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組織的異世界転生〜終末の魔女を救う為、呪われ姫は夢洲に仕掛けをしました〜  作者: たりな
第二章 パンジャ王国の姫

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 王都西方。


 パンジャ王国最大の港湾都市、ナヤゴ。

 その日、港は歓声に包まれていた。

「船だ!」

「食糧船が来たぞ!」

「助かった!」

 見張り台の鐘が鳴り響く。

 水平線の向こうから現れた巨大船団。

 白い帆には黒竜の紋章。

 カリメア帝国。

 誰もが恐れる侵略国家。

 だが今だけは違った。

 人々の目に映るのは敵ではない。

 救世主だった。

 港には数万人が集まっていた。

 痩せ細った老人。

 赤子を抱く母親。

 骨の浮いた子供達。

 皆が祈るような目で船団を見つめている。

「本当に来た……」

「これで皆んな助かる」

 涙を流す者もいた。

 やがて船が接岸し、最初の輸送船から次々と荷が降ろされ、巨大な木箱が開けられる。

 中身は小麦、米、乾燥肉、豆。

 大量の保存食。

「すごい……」

「本当に食糧だ……」

 歓声が上がる。

 民衆は泣きながら抱き合った。

 兵士達ですら安堵の表情を浮かべていた。

 飢えは終わる。

 この国は救われる。

 誰もがそう信じた。


 ウィルヘルム・ロックは船上からその様子を見て静かに笑った。

「我々を好意的に受け入れているな」

 隣の副官が頭を下げる。

「予定通りですな」

「ああ」

 ウィルヘルムは頷いた。

「飢えた人間ほど目先の事しか見えなくなるものだ」

 その蒼い瞳には一切の感情がなかった。

「豊かな者は警戒する」

「だが、絶望の淵にある者は、自らに都合の良い解釈しかしない」

 副官は苦笑した。

「残酷ですな」

「戦争とはそういうものだ」

 ウィルヘルムは後方の海を見た。

 水平線の彼方。

 そこには数百隻を超える艦隊が待機している。

 パンジャ側からはまだ見えない。

 だが確実に近付いていた。



 同時刻の王都。


「何だと!?」

 報告を聞いたハルキが立ち上がる。

「カリメア船団が既に入港しただと!?」

「は、はい!」

 若い騎士が答える。

「第一陣の食糧搬入が始まっています!」

 嫌な予感がした。

 胸騒ぎが止まらない。

 あまりにも展開が早過ぎる。

「馬を出せ!今すぐ港へ向かう!」



 港では祭のような空気が流れていた。

 食糧が配られ始めていた。

 子供達がパンを抱えて走る。

 母親が泣きながら礼を言う。

 老人達は地面に膝をつき神へ祈っていた。

 生きられる。

 明日が来る。

 そう信じていた。

 だから気付かなかった。

 第二船団が入港していることに。

 そして、第三船団、第四船団と入港し、巨大な木箱が次々と降ろされ、パンジャ人によって警備兵の手薄な倉庫へ運ばれて行く。

「おお!これも全て支援物資か?」

「さすがカリメア帝国だ」

 誰も疑わない。

 腹が減っていたから、皆、目の前の食糧しか見ていなかった。



 夕暮れ。


 最後の木箱が港湾倉庫へ運び込まれると、鈍い音が響いた。

 カチリ。

 木箱の内側から音がした。

 次の瞬間、蓋が内側から押し開かれる。

 現れたのは魔導師だった。

「始めろ」

 合図と共に無数の木箱が一斉に開いた。

 倉庫の中から溢れ出る黒い軍勢。

 その手には魔法の杖。

 港の警備兵が凍り付く。

 パンジャ王国には魔導師がいない。

 この世界では魔法使いは数限られた、希少な存在であった。

「な……」

 言葉が出ない。

「な、何だお前達――」

 最後まで言えなかった。

 魔法で身体が内側から破裂して消し飛んだからだ。

 鮮血が夕陽に舞う。

 警備兵達の悲鳴が上がった。

「敵だぁぁぁぁ!!」



 地獄が始まった。

 逃げ惑う民衆。

 泣き叫ぶ子供。

 押し倒される老人。

 転倒した母親。

 その腕から赤子が投げ出される。

「いやあああああ!」

 悲鳴が響き渡り、人が次々と容赦なく死ぬ。

 数分前まで歓喜に包まれていた港が、瞬く間に死体の山へ変わっていく。

 配給されたばかりのパンが血溜まりに転がった。

 それを抱えたまま死んでいる少年がいた。

 ようやく手に入れた明日の命。

 だが明日は来なかった。



 沖合では、水平線の彼方から黒い影が現れる。

 数百隻を超えるカリメア帝国艦隊。

 隠れていた本隊が遂に姿を現した。

 黒竜の旗が夕陽の中で翻っていた。



「急げ!!」

 ハルキは全力で馬を走らせていた。

 嫌な予感は確信へ変わっていた。

 だが、港が見えた瞬間、彼の顔から血の気が引いた。

 黒煙と炎の中で、黒竜の旗が高々と立てられていた。

「……そんな」

 目の前でパンジャ王国の民が血を流していた。

 そして彼は理解する。

 間に合わなかったのだと。

 ほんの少しだけ遅かったのだと。

 夕陽は赤かった。

 まるで港全体が血に染まっているように。 

 そして、パンジャ王国滅亡への戦いが幕を開けた。

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