15.院長先生
レイフを通じて学院の教師とコンタクトを取る。
手配にまつわるごたごたは全て学院が被ってくれたらしい。サラは学院の小会議室に顔を出せと言われた。
学院まではカルドラに送ってもらい、レイフと二人で学院の門を潜る。あれほどサラを惹きつけて止まなかった学院も、現在はどこか余所余所しく聳え立つ。
小会議室は、まるで小さくなかった。
大人が二、三十人ほどなら余裕で全員が座れるであろう数の椅子。木彫りの椅子は細かな透かしが入っており、繊細な美しさがある。
さすが学院。
奥の座席に院長が座っていた。
院長が、レイフヘ目配せをする。
レイフは口を引き結んで会釈をし、ちらりとサラに視線をやって踵を返す。
扉の閉まる音が響き、室内には教師と生徒が残された。
「おはよう。昨日はよく眠れたかな。」
お髭のおじいさんは目を細めた。
「いいえ、あんまり。」
サラは少しばつが悪い。
「お友達と喋り過ぎてしまって。」
院長先生が笑うと、釣られて髭もふぁさふぁさ揺れた。
「それは、いい。夜を徹して遊ぶのも若いうちだけだ。歳をとるとどうも眠くなっていかん。」
「あの。」
サラは意を決した。
「家族のことで、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。」
院長先生が笑った。
笑ったので、また髭がぶらぶら揺れた。
「構わん構わん。精霊術師の保護も学院の勤め。初代王が精霊術師の一切を取り仕切るよう学院を建立されてから、長々続いた伝統だ。気にかけることなんぞかけらもありゃせぬ。」
少し、救われた気がした。
「今日の呼び出しもそれに関してでな。ベルクマンの希望を聞きたい。君はどうしたいのか。」
どうしたいのか。
わからない。
家族と離れることばかり考えてきた。
離れたい。でも、離れられなかった。
離れて許されるのか?
サラの隣で「ざまあ、ざまあをしようよ。」と囁くララを、院長先生が軽く睨んだ。
ララは「ぴゃ。」と音を立てて大人しくなる。
気が遠くなるほど長い時間が過ぎた気がする。
サラの頭は冴え渡っているのと対照に、身体の方はすっかり血の気を失っていた。
考え込むサラをじっと見つめていた院長先生が口をひらいた。
「そんなに難しく考えずとも構わん。」
院長先生は尚も続けた。
「気軽に話してくれればいい。」
気軽、気軽でいいのか。
「家を出たい。」
サラを見つめる院長先生の眼は優しい。
「もう家族と関わりたくない。」
心が擦り減るから。
「家に帰ると生きた心地がしない。」
あの家はどこかおかしかった。
「マイルズ先生のほうがよっぽど親みたいだった。」
サラの恩師夫妻は、流行病で亡くした娘とサラを重ねて、実の子のように可愛がってくれた。
「私の人生に、入ってこないでほしい。」
やっと、言える。
「あんな人たち、家族じゃない。」
地の文にカタカナ英語がてんこ盛りなのは、この国がなぜか英語を話しているから。
なんで英語なんだろうねえ。




