16.話し合いの余地はない
話し合い当日。
腹に鉛玉が沈んだようだ。
サラの胃は緊張できりきり舞だった。
「サラ、頑張んなさい。今こそ『ざまあ』をするときよ。」
ララがくるくるくると飛び回る。
できることならこのまま一生先延ばしたい。
けれども、ストリングス商会の居候をいつまでも続けるわけにはいかないのだ。
早く問題を解決して、真っ当な学生生活に戻らなくてはならないのだ。
理性では分かっていても心が付いてくるから別問題。サラは腹奥から息を吐き出す。
ララは、やれやれといった風情で宙返りした。
「うちの妹を返していただきたい。」
議論は兄の一声を皮切りに幕を開けた。
机のこちら側にサラ、院長、学年主任、ララ。
対岸に父と兄。
完璧な布陣(?)だ。
「私たちは妹が地元を離れることを許可していません。」
兄がにこやかに続ける。
裏事情を全て知っているサラからすると、大変に気味の悪い笑顔だ。
「妹はもともと体が弱く、人混みの多い首都で暮らさせるのは心配なのです。」
ちょっと待って。
どこから出てきたの、その設定。
サラは呆れて頭を抱えた。
サラは身体が弱くない。熱を出したことはあるけれど、それは兄と姉が共謀してびしょ濡れで家から締め出されたせいだ。
あらぬ捏造、とっても不快極まりない。
「私は幼い頃から大切に育ててきた妹のことが心配で堪らないのです。」
どこが大切にしていたのだ。
足蹴にしたの間違いだろうに。
サラの中に沸々とマグマが溜まっていく。
ララの周囲にびりびりと静電気が飛んだ。
もはや兄の声は聞こえていなかった。
兄が何やらしおらしげに話を結ぶ。
辺りが静まり返る。
相手の主張は一通り理解した。理解はね。納得はしていない。
だから、
反撃開始だ。
「私は体が弱くありません。」
慌てる大人たちが視界の端に映る。
「大切? よく言うわ。まあ、それについては置いておいて。」
本題に入ろう。
「私は絶対に帰らない。」




