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11.父と兄の襲来



 なぜここに。

 放てなかった問いは、息に紛れて消えた。


 コニーの姿を探す。

 サラが立ち止まったことに気づかず、曲がり角を消えていくコニーに、待ってと手を伸べる。


 指先ががたがた震えている。

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 家を出れば終わりだと思ってた。

 あの人たちは私のことなんて家族と思っていないから。


 私のことなんて放っておいてくれると思ってた。こんなふうに連れ戻しにくるなんて思わなかった。


 コニーの背中で揺れる金色の髪が視界から完全に消える。サラの心は絶望で真っ黒に染まった。


 兄が平坦な声で言った。

 「サラ。帰るんだ。家族に黙って家を出るなんて、許されない。」


 腕を掴まれて引っ張られた。

 抵抗しても、力で叶うわけがない。

 サラはずるずると引きずられていく。


 兄へ体当たりを仕掛けようとするララを、サラは必死に目顔で制した。こいつらも、曲がりなりにも一般人。一般人に危害を加えた精霊は消滅させられる。


 全身で強く地を押しても、敵わず。

 サラは通りを連行された。

 駅が見える。

 汽車に乗せられたらおしまいだ。


 サラはしゃくりあげながら考えた。


 どうして。

 私は自分の力でこの場所(王立学院)を勝ち取った。なんで理不尽に奪われなきゃならない。

なんで、なんで。悔しくて悔しくて、胸の奥から熱いものが迫り来る。

 なんで今更。


 家族だと思ってた。

 どんな酷いことされても家族だから、家族なんだからと思って許してきた。

 でも、私のその思いを拒んだのはあんたたちじゃないか。


 一度溢れてしまえば止まらなかった。

 「うるさいうるさいうるさいうるさい」


 もうなにも考えられない。

 腹の中で澱のようなものが沸騰している。

 「これまで家族らしいこと一度もしてないくせに急に家族面してこないでよ。」


 兄の顔が醜く歪む。

 「黙れ。誰が世話してやったと思ってるんだ。」


 「世話なんかされてない!」

 世話なんか、世話なんか。


 「そんなの一度もしてくれたことないじゃない。というか、自分たちの世話をあたしにさせてたじゃないの。あたかも世話してやったかのようにいわないでよ。」

 全身全霊を懸けて睨めつける。

 「来ないで。近づかないで。私はあんたたちとは無関係なの。私が生きるのを邪魔しないで!」


 「黙れ!」

 頬が熱い。頬を張られたと分かるまでに一拍あった。


 そういえば、散々意地悪してきた兄と姉だが、殴ってきたことはなかったんだな。

 妙に冷静にそんなことを思った。


 父は、兄の後ろで黙って最初から一言も発しない。



 突然、「人さらいだ!」

 男の子の声がした。


 兄の腕から僅かに力が抜け、サラは咄嗟に振り払う。


 「こっちだ」腕を掴まれ、連れられる。


 人混みを抜け、裏道に入り、幾つもの木戸を潜り抜ける。

 他人の庭だろうとお構いなし。布団を巻き上げシーツを跳ね飛ばし、足に当たって蹴り上げたバケツが犬に当たってしまった。犬がぎゃんぎゃん吠えているのを遥か遠くに聞きながら、サラは男の子について直走った。


 これなら播けただろうと確信を得たのか、サラを引っ張ってきた男の子が速度を緩める。


 「大丈夫か」

 サラを逃がしてくれた男の子は。

 あのとき声を掛けてきた、精霊術師のレイフだった。


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