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9.ばれちゃった…?



 「お前、最初から契約してただろ」


 サラが振り返ると、さっき精霊との契約をした(ふりをした)部屋に立っていた黒髪少年がいる。


 「どちらさまでしょうか。」


 サラは温度を感じさせない微笑みを浮かべた。横ではララが威嚇を始めている。


 「質問に答えろ」黒髪が睨みつけてくる。


 「あら、お名前も教えていただけないの。女の子に突然声を掛けた挙句に名乗りもしないなんて。随分と自分の容姿に自信がお有りのようね。」


 思いもよらないサラの反撃に、黒髪は真っ赤になって撃沈した。


 実際、少年は美しかった。

 まだ幼さを残す顔立ちながら、すっきりと通った鼻梁や切長の眼は、その将来を約束していた。滑らかな白い肌に、少し伸びすぎた黒髪と眼に影を落とす睫毛が対照を成している。


 しかし、それとこれとは別である。


 せっかく上手く行ったのだ。

 ここでバレてしまったら全て努力が水の泡。サラとしては、何としても、たとえ少年の自尊心を多少傷つけることになってでも、誤魔化し通したかった。


 サラは腕を組んで仁王立ちとなり、黒髪少年の方へずいっと体を寄せる。


 「失礼な人とは話さないことにしているの。先を急いでるから、ごめんなさいね。」


 するりと踵を返して華麗に立ち去る。


 少年が駆け寄ってきて、サラの通り道を塞ぐ位置に陣取った。


 「悪かった、頼むから逃げ「急いでいるの」


 「少しでいいから話を「ごめんなさい、時間がなくて」


 痺れを切らして歩き出したサラを、少年が通せんぼするように押し留める。


 二度、三度…。


 繰り返すうちに、だんだんと焦りが湧いてくる。

 なんとかしてこの場を切り抜けなければ。


 今や、学院の中庭はサラと少年の奇妙な駆け引きの場となった。


 絵面じたいは微笑ましい子供の遊び、しかし真剣そのものである二人の額にはだんだんと汗が滲んできていた。



 終わらぬ駆け引きに二人の精神が限界を迎えかけたそのとき。


 「サラーー!」


 遠くで腕をぶんぶん振り回している金髪の少女。


 「コニー!」

 思わぬ助け舟にサラは目を輝かせた。

 あまりの有り難さに、サラの中ではコニーが後光を背負っている。


 「ごめんなさい、友達に呼ばれているから。さようなら。」


 目の前の少年の横をするりと抜けて、サラはコニーのもとに走り寄った。


 「誰かと話してたよね。もしかして邪魔しちゃった?」

 恐る恐るこちらを伺うコニーに、サラは満面の笑みだった。


 「ぜんっぜん大丈夫!変な人に絡まれてたの。むしろ、助けてもらえてすごく助かったわ。」


 「よかった。サラが動かないから、一人なんだと思ったの。いっしょに帰ろうと思って声を掛けたんだけど、よく見たら誰かといるもんだから、声かけた後に焦っちゃって。」

 コニーは明るい笑みを浮かべた。

 コニーの笑顔は周囲に花を咲かせる力がある…。サラは思った。人生で初めての同年代の友人に、舞い上がって感傷的になっているのは否定できない。

しかし確かに、サラによる友人の僻目を差し引いても、コニーの笑顔は人に何かを与える力があった。


 ララが少年の居たほうへ向けて舌を出す。女の子たちは連れ立って移動を始めた。



 サラが去ったあと。黒髪の少年は、眉間に皺を寄せて深い溜息をついた。


 「ちぇっ。絶対あいつも俺らと同じだと思うんだよ。なあ、クライヴ。そう思わないか?」と、少年の右肩あたりに精霊が姿を現した。


 「可能性はある。」


 「めんどくせぇなあ。サラっていったか。ここで話せればよかったのに、わざわざ探し出さなきゃいけなくなったじゃねえか。」


 「レイフが悪い。」


 「なんでだよ。」


 「レディーへの声の掛け方。」


 「関係ねえだろ。」


 クライヴと呼ばれた精霊は続けた。

 「レイフの最初の一言を放ったときの彼女の警戒の仕方。何かあると踏んで良い。」


 少年は鼻の頭に皺を寄せた。

 「あーあ、めんどくさー。」

 一人と一匹は、誰もいない中庭を後にした。

ヒロインが、ヒーローを、変な人呼ばわり…。


明日は「螺旋の貝」という中編を更新します。

四話完結。毎日更新します。

そちらが終わりましたらまたこちらを更新していきます。ご贔屓にしていただけると嬉しいです。

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