第五話、視覚
わたしは、ダンジョン攻略補助用最新型プログラム。
感情機能は搭載されていない。
主を、最も生存率の高い方法で最下層まで導く。
「イッパちゃん。第五層の説明、いっちゃおう!」
未来羽は、レストルームに着いても座らない。
バイタル――心拍数、上昇。
バイタル――体温、低下。
『第五層は、未来羽の視覚が奪われます。また、ここからは討伐ランクを逸脱した魔物が出現いたします。全長は378メートル。高低差の激しい土地です。視覚以外の感覚を頼りに、前へ進み続ける胆力が必要です。未来羽の生存率は、――0.98%』
未来羽は、やはり、笑う。
「ついに来たな、約1%。やるぞ、イッパちゃん。地形は、全部頭に入れてきた」
未来羽は、0.98%を怖がらない。
わずかの焦りすら、表に出すことはしない。
第五層。
超難関指定ダンジョンの、最下層。
未来羽は、笑う。
笑いながら、心拍数を高めながら、その足を止めない。
第五層へ続く扉を開け、笑う。
「うわ、まじで何も見えねぇな。瞬きは出来るのに、変なの」
「でも、耳は聞こえるし、大地を踏みしめている感覚もある。匂いだって分かる。ちょっと、……生乾きみたいな匂いがするな」
「あ、あっ! さっき食った、肉。すげぇ美味いかも!」
バイタル――体温、上昇。
発話数、増加。
未来羽は、前へ進む。
高低差のあるダンジョンを、進んでいく。
現れる規定外の魔物の全てを、なぎ倒していく。
「……ん? もう、行き止まり? イッパちゃん、どうなってる?」
最新のダンジョンマップを、取得。
最終更新――二時間前。
――第五層、改定。
『未来羽。二時間前に、ダンジョンマップが更新されています。この先は全て、あなたが知っている地形とは異なります』
「まじ?」
『お手伝いします』
バイタル――心拍数、急上昇。
声の震え、増加。
未来羽の現在位置、ダンジョンマップと同期、完了。
『未来羽、この先は崖になっています』
「崖?」
『はい。高さは五メートル。未来羽。落下時の推定ダメージは、致命傷に至る可能性があります』
「落ちないから、大丈夫」
未来羽は、笑う。
手を伸ばし、足を伸ばし、崖を登っていく。
「なあ、イッパちゃん」
バイタル――心拍数、体温、上昇。
魔物のバイタル――確認。
危険度、測定不能。
「崖を超えた先には、何があるか分かるか」
『はい。さらに三メートルの崖を下った後、最下層の扉を守る魔物が一匹。危険度は測定不能です』
「はは、まじか。いいね……っとと、あっぶねぇ……」
未来羽は、笑う。
バイタル――心拍数、急上昇。
発汗、有。
把持力、低下。
生存率、0.41%。
『未来羽、撤退を推奨します。生存率、0.41%』
「イッパちゃん、それは却下。0.01%でも可能性があるなら、俺はやるの」
最適解、拒否。
どうして。
未来羽の意志、尊重。
本当に?
「あと、何メートル?」
『あと、一メートルで頂上です。その先すぐ、三メートルの崖があります』
「うん、分かった」
未来羽は、笑う。
身体が、震えている。
未来羽は、もう、限界だ。
空腹、視界のない焦り、恐怖。
全てを内蔵しても尚、未来羽は、笑う。
だから。
「着いた、の、かな」
『未来羽。静止してください』
「え?」
未来羽の歩幅の平均からすると、あと十五歩。
十五歩先に、新たな崖がある。
西……否、未来羽の左方向へ十一歩。
『未来羽から向かって左へ、十一歩。前へ十五歩。それから前に飛び降りることで、軽症で済む確率――99%』
「……ありがとう」
未来羽は、困惑の様子を見せる。
それから、未来羽は、笑う。
未知の熱反応を感知。
――これは、なに?
未来羽は、左へ動く。
一歩。二歩。三歩。
――……十歩、十一、……。
『停止』
「っえ」
『未来羽、半歩右に戻って』
「お前……」
『未来羽。大丈夫、信じて』
『未来羽。死なないで』
「お前、言うじゃん」
未来羽は、笑う。
だから、わたしも笑ってみる。
お願いを、してみる。
「行くよ、イッパちゃん。信じてる」
バイタル――心拍数、安定。
未来羽は、飛ぶ。
三メートルはある崖を、飛び降りる。
生存率――。
『未来羽。前に十七歩。右に五歩。そこが、扉の場所であり、……魔物の所在地です』
「生存率は?」
未来羽は、意地悪く笑う。
新たな傷は増えていない。
無事だ。
大丈夫。
未来羽は、生きている。
一歩。二歩。三歩。
未来羽は、進む。
未来羽は、歩く。
十五歩、十六歩。
『十七歩』
「分かってるよ。右に……」
『二歩。そこで、止まりましょう』
「なんで」
『戦闘準備をするべきです。五歩先には、もう、魔物がいます』
未来羽は、笑う。
「そうだね」
未来羽は、口を噤む。
端末を握りしめて、静かな呼吸を繰り返す。
バイタル――心拍数、上昇。
バイタル――体温、上昇。
勝ちたい。攻略したい。
未来羽の強い思いが響く。
わたしは、未来羽を応援したい。
最後までサポートしたい。
未来羽の勝ちを、望みたい。
「イッパちゃん、頼むよ」
『もちろん』
未来羽は、からかと楽しそうに笑う。
一歩。二歩。
止まって、深呼吸。
三歩、四歩。
――五歩。
未来羽の生存率、100%。




