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無題(仮)  作者: konoha
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1章 「萌芽(ほうが)」前編

八千代大学は某県八千代市の山岳地帯を切り開いたところにある。



 このあたりはここ4、50年ほどで目覚しく都市計画が進み、たくさんの住宅やマンションなどが建てられた。そして同時にいくつかの学校も創立された。その内のひとつが八千代大学だ。

生徒や地元の人間からは八千代大と呼ばれている。起源は陶芸家の立花 正太郎が始めた陶芸塾からはじまり、もろもろな経緯があって学校として正式に創立したらしい。


八千代大は駅から緩やかな坂道になっている道路を10分ほど真っ直ぐ歩いて行ったところにある。ガラス張りの建物が目印だ。この綺麗な建物は、主に生徒や教員の作品を公開する際に使われる場所で、いわば展示場だ。定期的に何かしら個展が開かれている。


 八千代大を語る上で特に重要なのが芸術科と人間科学科だ。

芸術科は、主に芸術分野、絵画・陶芸、さらには漫画・小説・アニメなどの幅広い

創作分野において活躍する人材を育成する。


人間科学科は、一見小難しい呼び名がついてはいるが、簡潔に言ってしまえば、

野球選手やバスケット選手などのスポーツ選手を科学に基づき徹底的にサポートして養成するというところだ。

これだけならば普通のスポーツ学生と同じだが、生徒自身も自らの手で学び実験を繰り返し、

データに基づいた理論を元に日々トレーニングに明け暮れているらしい。スポーツ系なのに

白衣を着ている姿を見かけるのはこの学科だけなのではないか、と思う。

ちなみに本来、人間科学というのは広義の意味で用いられ、この場合、スポーツ学、体育学と名付けるのが正しいらしいのだが、学科設立者の松谷 建造は 「なんか締まらない」という理由でこうした名称にしたという。あくまでそういう『逸話』があるだけなんだけれど・・・。

美大出身の彼らしいといえば彼らしくもある。



以前は人間科学科は存在しなかったけど、最近になって新しい学科として追加されたのだ。

学校パンフレットにはこう述べてある。


――健全な精神は健全な肉体に宿るという言葉があります。このとおり健康的に生活している人間はハツラツとした生活を送っているのは間違いありません。

最近問題になっている引きこもりやうつ病などにも運動は効果があるとされています。

我が校はこうした社会問題にも目を背けず新しい分野にチャレンジしていきたいと考えております。


なんか最もらしいこと言ってるけど、まぁ、後半は設立する際にうまく付け加えただけの『後付け』なのは言うまでもない。あと、本来の言葉の意味間違ってるからね。



 なんだかんだ言って、芸術科が劣勢で、新しく出来たばかりの人間科学科は現在

注目を集めている。新聞にも「八千代大学新学科設立!! 」と特集が組まれ

写真週刊誌などを賑わった。

もちろん、いいことばかりではない。インターネットなどでは「金の無駄遣い」「芸術科を見捨てた」「地方の大学のくせになまいきだ」「役員はバカ」

と言いたい放題。


まあ、あながち間違っては居ないけれど、個人的には口ではどうとでも言えるのだと考えてる。偉そうなことをのたまっているけど結局非難中傷する彼らには学校の経営はできないし、だからといって何か具体的な提案もするわけでもない。――まあこうしてあれこれ考えている僕だって、結局彼らと同じベクトルなのだからあまり人のことは言えないと思うけど・・・。


 そんなことを考えながら歩いていたら人とぶつかりそうになった。その時にカバンの中身を地面にばらまいてしまい慌てて拾う。地面には枯葉がたくさん落ちている。本やノートについた枯葉や土を手で払いながらカバンにひとつずつ戻していく。

道路沿いに植えられている木々の葉っぱはほとんど抜け落ちている。

今は11月、そろそろ冬の準備をしなくては。それにしても―

人間社会っていうのは色々と面倒だな、と思いながら僕は学校から駅への道を進み電車に乗り、家へ帰った。




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