1章 「萌芽(ほうが)」中編
人という字は「ひと」と「ひと」が合わさって出来ているという話は有名だ。僕もつくづくそう思う。
観葉植物が涼しげだと言わんばかりに整然と並んでいる。生徒たちが交互に行き交う大学のキャンパス。
次の講義、行けないんだよな、ノート貸してくれない?学食のおばちゃん今産休とってるらしいぜ。先ほどの実験だけどあの数値はどうも腑に落ちないのよね。放課後もう一度計測しましょう。
行き交う人の数だけ会話が成立する。人のいない繁華街、人のいない公園、こうした場の雰囲気というのも、人がいないと成り立たないのではないだろうか。学校は学生がいてこそだ。僕はざわざわした人ごみが苦手なのだが、本当のことなのだから仕様がない。好き嫌いと正しいと思うことはちょっとだけ違う。
そう思っているうちに午後の講義が終わり、後は帰宅するのみ。はて、夕焼け空がそうさせたのだろうか。ありえもしない馬鹿げたことを考えてた。「署名をお願いします! 」渡り廊下の先から大きな音が響いてきた。拡張器を通している声だ。そこの方を向くと髪を七三分けにした眼鏡の男性がなにやら演説のようなことをしていた。脇にダンボールが置いてある。チラシのようなものが入っているのだろう。男が配ったらしき紙があたりに散らばっている。よく見ると踏まれてぐちゃぐちゃになったものやちぎれてるものもある。これから考えると相当長い時間配り続けたようだ。足元に落ちていた紙を一枚拾い上げ目を通す。
『芸術科の立ち直しについてご協力願います。』
『みなさんご存知のとおり、芸術科は現在危機に陥っています。学科廃止という噂も耳にします。
そこで我々は学科廃止を阻止するために活動をしています。具体的にはグループを組みお互いに活動の成果を報告しあい意欲を高めていくとでやる気を示すのです。そうすれば芸術科が廃止されることもなくるでしょう。
いつでもいらしてください。』
連絡は 芸術科4年 神埼 政博 まで TEL 090-△△△△ー××××
なるほど、そういうことか。芸術科の廃止というのは噂には聞いていた。しかし本当なのかな?
確かに学生の意欲や卒業生の実績もぱっとしないけれど、ちょっと現金な話をすると学校としては収入があれば構わないはずなのだ。大人の事情ってやつはよくわかんないけど。まぁこのようにひとりでに話が大きくなるほど噂というのはこわいものなのだ。それにしても・・・正直言って悲惨だ。神埼という人は一生懸命演説を繰り返しているが誰も聞く耳を持ってはいない。何事かと一瞬顔は向けるものの、すぐにそっぽをむいてしまう。チラシも受け取ったらすぐにポイ。そういうものなんだろうけど、ちょっとかわいそうだ。わかっていてもせめて視界から離れてから捨てればいいのにと思う。
そう思っているとチラシを腕に抱えた神埼と一瞬目があった。
歩いてきた生徒が彼にぶつかり、持っていた束が辺り一面に散らばった。いけない、僕はそう思い彼に駆け寄りしゃがんてチラシを拾い出す。彼も同じくしゃがんで拾う。会話はない。黙々と拾い続けた。「ありがとう。」「どういたしまして。」「・・・これ、一枚もらってくよ」「おお! 」彼の顔が一瞬緩むが、すぐにコホンといい説明する。手をパーにして腕を持ち上げながら話す人なんてゲームかアニメにしかいないと思っていた。「見ての通りなんだ。君は芸術科かい? 」「そうだよ」「なら、協力してくれないか・・・? 」「うーん」協力したいのは山々なんだが・・・。なにせ、僕は人見知りだ。まだ、彼の手伝い程度ならできなくもないが、おそらくそういうわけにはいかないだろう。見たところ大勢で集まってやるようだし、けれどなあ・・・。
「うーん、考えとくよ」愛想笑いを浮かべ、その場を後にした。さて、どうしようか。




