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機人フェルムの、勇者システム解析ログ  作者: 澤梛セビン


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6/8

6.放射線勇者、姫の目光る

「とても面白い方ですわね。今代の勇者様が御召喚されたとお聞きしましたが。もしかしてあなたが?」

『そうですね、勇者代表をやらせて貰っています』

「あら、ふふふ。代表なのですね、うふふふ。ほんとに面白い方ですわ」


 書架にある本を一冊とって、近くのテーブルについた。遅れて対面に座った姫が、立て肘に頬を乗せて、楽しそうに私を見ている。


「では。あらためまして、メルローズ・フェン・オールデンですわ」

『でしたら、私ももう一度自己紹介をしましょうか』

「あら、違うパターンもありますの? ぜひ、お聞かせ頂きたいですわ」


 これは、楽しいですね。

 生まれて初めての、邂逅。そんな感動です。


『では。仕切り直しですね。ブロンデ系機人として、生まれ落ちてすぐに召喚された、零歳機フェルムです』

「身体は大きいですが、零歳ですの?」

『機人ですからね。製造された瞬間に、この身体なんですよ。ただ召喚されたのが製造直後でしたからね、共有の記録データが少ないのが、頭に傷ですが』

「それを言うのでしたら、玉に瑕ですわね。いいですわね……ふふふ」


 笑い方は奥ゆかしいけれど、目の力って言うのでしょうか。すごく観察されています。当然ですが、観察し返しますけどね。


 天井にある曇りガラスが、月明かりを柔らかく届けている。

 照明は壁の照明。電気を使っていない感じで、恐らく魔法的な明かり。それが足元を薄く照らし出している。


「明かりが気になりますの? ほらこの燭台。この魔石に、こう魔力を込めるのです――」


 そうして、机の上にあった燭台。その上に乗っていた拳大の石に、メルローズがそっと触れる。その直後、白い光が溢れ出して部屋が明るくなった。

 私とメルローズの影が伸びて、書架に人型の影が揺れる。月明かりが薄くなって、周りの闇がスッと深くなる。これが恐らく、明るすぎる光源の弊害。


 でも。不思議。


『綺麗ですね。与えた力が、光に変わっている。その光が濃くなる代わりに、闇が深くなるのですね』

「いい、目をしていますわね。人が中に入っている……わけではないのですの?」

『中は流体金属だけですよ。私たち機人は、魂がありませんから、厳密に生命ではありません。ですが思考し、念う。その結果が心に見えるのであれば、おそらくそれもきっと心の形なのでしょう』

「とてもいい視点ですわ。常に観測するその姿勢は、とても好ましいものですわ。ところでここ、皇室書庫には何をなさりに?」


 ふと、考える。


 そうですよ。ここには確か本を読みに来たのでした。正確には、スキャンですが。

 目的を忘れて、会話に没頭していた私がいます。これは非常に興味深いですね。機械である私が、間違えている。


「あら、笑ってらっしゃりますの?」

『笑えて……いますか? 私が?』

「ええ。顔の表情が動いていますわよ。間違いなく楽しそうに笑っていますわ。あなたを、フェルムを見ていると、なんだかわたくしまで楽しくなりますの」


 少し離れた場所にいた、セバスティエンに顔を向ける。私を見て少し驚いた顔をして、それからすぐに大きく頷いてくれる。

 そうですが、これが楽しい。


 確認したくて、顔を一生懸命触っていたら、少し席を外したメルローズが、鏡を持ってきてくれた。そして、私の前に立ててくれる。


 何てことかしら、本当に笑っている。


 確かに内部は流体金属なので、一定の柔らかさは持っている。逆に表面は、形状維持のために完全に硬質化するのが、機人の基本設計だった。いえ、それは新型機である私とて、変更されていなかった。いなかった、はず。


 でも、鏡に映った私の表情が。すごく嬉しそう。

 作った笑いじゃなくて、本当に自然に出ている。これが、笑み。


「ふふふ、面白いですわね。義兄が嬉しそうだったのも、頷けますわ」

『兄がいるのですか?』

「フェルムが喚ばれた時にいた、王様が義兄ですの」


 まさかの事実。

 物語の中だけだと思っていたお姫様が、目の前にいる。知識の中にだけある、ちょっとだけ憧れる存在、でしょうか。機人に王制などありませんし、そもそも機人は意識同一個体ですから、憧れ自体は私の仕様かも知れません。

 ですが、少しだけある記録に、どこか別の世界で話をした、姫様の姿がよぎる。


『ライアスさんは、そのお兄さんは何と?』

「……先程から、義が抜けている気がしますわよ。義兄ですわ、遠い血族ですが、直接血が繋がっておりませんの。でも皇位継承権は――」


 メルローズの視線を追って、手元の本に視線を向ける。

 ちょうど、無意識に開いていたページが、右側が余白になっている最後のページ。そこに書かれていたのが、1255代目皇帝、ライアスの名前。

 そしてその次に、メルローズの名前が記されていた。


『次期、女皇……ですか』

「そしてその後は、その後にはもう後継者がいませんの。ですが、ここにわたくしがこう書き込むことができますのよ?」


 そうして、私が本の向きを変えると、メルローズが側にあったペン立てからペン持って、おもむろに書き綴った。


「これで、セバスティエンに、皇位継承権が付きますの」

『えっ、ええっ!?』


 名前が、次々に浮かび上がっていく。

 メルローズが、自身の名前の次にセバスティエンとだけ書き綴った。その先に、次々に名前が浮かび上がっていき、右の中段までざっと30人ほど名前が浮かび上がって、止まった。


 これが、魔法。


『この書物って……』

「正式な皇室における継承を綴った書籍。その本のタイトルですわ。わたくしも、ずっと探しておりましたのよ? 1155代皇帝の時代に失われて、それから手探りで皇位を継承してきていて、血統継承の限界に来ておりましたのよ。助かりましたわ」

「さすがです、勇者フェルム様。さぞ、ライアス王もお喜びになるかと……」

『どうしましょう。もしかして放射線の読み取りが……効かない?』


 よほど、私が困った顔をしていたのだと思います。

 しばらく無言の時間が続いたあと、メルローズとセバスティエンが笑い出した。それも、二人ともお腹を抱えて。


 ほんと、失礼ですね。


「ふふふふ、おかしいですわ。すごい実績なのに、気にするのはそのホウシャセンですか。うふふふ、フェルムらしいですわ」

『でも、実際私はですね。技術的侵略のために、ここに書物を読みに来たのですよ?』

「技術的侵略です? それは実際に、何をなさるのです?」


 メルローズの目が、不敵に光った気がしました。

 実際に口元は、なんだか嬉しそう。


『連綿と続く歴史の盛衰を読み解き、その技術的な推移を解析。そこから、どうすれば技術水準を上げられるか、技術的侵略が可能かを分析、そしてどう構築可能か。それらを計略し遂行するのです』

「いいですわね。わたくしもそれに噛ませて貰ってもいいかしら?」

『もちろんですよ。一緒に技術的特異点を目指しましょう』

「ふふふ、楽しくなってきましたわ」


 それにはまず、この書物が透過できるかが、問題ですが……。


「悩むなら、実際にやってから考えたらいいのではなくて?」

『……確かに、そうですね。私らしくない、悩み。不思議な感じです』

「いいと思いますわよ。悩めばこそ、心が育まれますのよ」


 私が私でいい、そう言ってもらえた気がしました。


 そして、正式な皇室における継承を綴った書籍。無事、放射線視で透過処理できました。


 私のデータの中で、メルローズの名前が眩しく。煌めく。


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