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機人フェルムの、勇者システム解析ログ  作者: 澤梛セビン


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5/8

5.連合成立、勇者は孤独

「つまり我は、女神の呪縛から逃れられたと……」

「だろうな。歴代勇者の記録を読んだことがあるが、どれも魔王とは対話はおろか、会話すら成立していなかったようだ」

「帝国にはそんな記録が、あるのだな」


 はい。こちらフェルムです。

 往年の恋人が、何だか楽しそうに会話しているのを、生暖かい目で見ています。


「おい、フェルム。今度は、何を企んでるんだよ?」

『失敬ですね。企みは常に、企むに決まっていますよ』

「おま、ほんと。怖いんだけど」

「ふふ……うふふふふ――」


 口元を押さえた魔王ローザが、いい顔をしている。

 ただ、座り姿がネグリジェにガウンだけ羽織りましたは、どうかと思う。もう少しこう、ドレスとか、なかったんですかね。

 もっとも寝室にいたのを、強制召喚したとすれば。私ですか、犯人。


 対して、王であり皇帝でもあるライアスも、Tシャツにすらっとした紺のズボンだから、まあ似たようなものかも知れない。


「魔国は、どんな感じなんだ?」

「変わらんよ。笑顔があり、人々の生活があるのは全く変わらん」


 そうして魔王は、ローザは目を瞑って長く息を吐いた。

 そんなローザをライアスが、心配そうに見つめている。そんなライアスの側にあるお菓子を、私が狙っている。


 視線に気づいたのか、ため息とともにお皿が送られた。やった。


「国を奪われて、はや五年……か、長くもあり、そして短かったが。ライアスのことは覚えている」

「ああ。国同士が決めた、繋がりのためだけの婚約だったがな」

「旧い国だったな。だが、奪われ、攫われた我は魔国の玉座に据えられた。その直後からだったか。我の意識は薄れて、ずっと朦朧としていた――」


 ちなみにまだ、同じお部屋。

 私の虹色宝箱から取り出したテーブルと椅子を並べて、なんとも言えない空気になったのはお約束。機人は魔法なんて使えませんからね、この虹色宝箱のおかげです。


『いい味ですね。甘みは控えめ、でも素材の味はしっかりと引き出されていますね。真ん中のラズベリーが、いいアクセントです』

「……のう、ライアス。こやつは、フェルムは勇者代表なのであろう? 何なのだこの、雰囲気ブレイカーは」

「考えるな、ローザ。感じるんだ。無駄な会話じゃないと信じたい、俺がいる」

『失礼ですね。味の感じ方は、人それぞれなんですよ? 私のはただの味覚センサーですが、解析し、分析する。その念いが、未来なんです。みんなそれぞれ違っていて、でもそれがいいんですよ?』


 二人の目が、大きく見開かれる。


「そうか、違っていていいのか……」

「で、あるな。なるほど、そこも女神の呪縛」

『何ですか、何ですか? 私のクッキーは、あげませんよ?』

「呪縛だよ――」


 さっと、メイドさんが空になったを下げていく。入れ替わりに置かれた皿には、新しくクッキーが山盛りになっていた。

 さっそく1枚。なるほど、アプリコットですか。


「女神の呪縛だ。思考すら誘導されていたのだろう、人間と魔族に、明確な種族的嫌悪があった」

「我もそうだ、そして今もある。だが、違和感には気づけた」

「気づけば、変えることができるのか……」

『気づきましたか、今度はアプリコットのクッキーですよ』


 ライアスが目配せをすると、少し離れた場所に待機していた執事が、部屋を出て行った。そしてすぐ入れ替わるように、宰相のカイトが入室してきた。

 そして書類を、ライアスの前に置いた。


「連合を提案する。恐らくこれが、新しい一歩になると思う」

「だがな、我は女神による魔王の呪縛から解かれたのだぞ? 既に魔王としての、力を失っておるのではないか?」

「いやそこは大丈夫だ。過去にも今回みたいなイレギュラーな勇者がいたらしくてな、そいつは事象を書き換えた。その時は、10年。平和が続いたようだ」


 だが、と。

 悲痛な、そして諦めが混じったような表情で、ライアスは続ける。


「結局人間が、魔王を討った。ごく一部の暴挙が、人間の総意になったんだよ」

『私の、別世界の記録でも。常に人間は争っていましたね。いえ、知性ある生命体は、と言うべきでしょうか。もっとも、動物だって縄張り争いをするくらいですからね、ある意味自然なことかも知れませんが』

「ふふっ、我らを動物扱いする、勇者か。なるほど勇ましい」

『あ、ローザさん、それは酷すぎますよ?』


 重くなりかけた空気が、和らぐ。

 何時の、どこの世界でも、為政者は大変だって事なのかも知れません。


「そしてその時の魔王は、同じ魔王がその場で復活した。魔王の交代条件はな、勇者による魔王討伐だ。魔王であるローザがまだ生きている。だから大丈夫だ」

「それは……誠か……?」

「俺で既に、皇帝が1255代だ。平均在位が10年だとしても、万年の歴史がある。ちゃんと過去の文献にな、記されていた」

『あ、その書庫の閲覧を希望します。勇者権限で』


 さすがにというか、ライアスとローザが同時に噴き出した。

 さらに側に控えていた宰相のカイトも、驚愕に目を見開いている。そんなに私、変なことを言いましたかね?


「わかった。セバス、案内を」

「はい。お任せください」

『あ、執事さん。セバスさんなのですね、他の世界でも執事の名前は、セバス多いみたいですよ?』

「さようですか。セバスティエンと申します。ご案内します、こちらに――」


 立ち上がる私の目の前で、人の王ライアスと、魔の王ローザによる、最初の連合和平の書類にサインが記述されていた。

 そして宰相カイトの横には、山となった書類が二人を待ち構えている。この文明の特徴なのでしょうか。遥かに時代遅れにも思いますが、人間と魔族にとって、未だに書類が重要なファクターのようですね。


 電子署名、デジタル保管。

 まだまだ文明侵略の余地がありそうですね。


 そんな、益体もないことを思いながら、私は部屋をあとにした。




「こちらが、皇室書庫となります。閲覧に制限はありませんが、持ち出しは魔法で制限されています。ご理解の程、よろしくお願いいたします」

『ありがとうございます。ちなみにですが、放射線による透過処理は可能ですか?』

「ホウシャセンが何かは存じ上げませんが、魔法による保存処理はされています。破砕でなければ、ある程度は大丈夫かと」

『ではまず一冊、お借りします』


 少し先の書架まで足を運んだところで。


「あら、ここに人が来るのは珍――待ってください、人間ではないですね。裸の金属ゴーレム……にしては、動きが滑らかですね」

『初めましてですね。私は機人ですよ。ブロンデ系機人種の新系譜。第四機フェルムです』

「し、喋りましたわ。しゃしゃ、喋りましたわよ!?」

『大切なことなので、二度言ったのですね。分かります。私も、大切な場面では、復唱する様にしますね。ちょっと楽しく聞いた、私がいます』

「いや、そう言うのではないのですが……」


 金髪碧眼の、絵に描いたようなお姫様が、書架の角から姿を見せた。


 ええ、お姫様ですね。


 ここで会ったら百年目って、言いますよね。

 この出会い、晴らさでおくべきか。


「……使い方、違いますよ?」


 違ったみたいです。


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