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私はフェルム、勇者を念う  作者: 澤梛セビン


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4/6

4.トップ会談、私は勇者代表

「こ、ここは……?」

『いらっしゃい。魔王さんですね。ちょっと魔方陣の仕様で身体が動かないと思いますが、少しの間だけですから我慢していてくださいね』


 頭部には2対ある大きな巻き角。

 濡れ羽色の長い髪は、召喚魔方陣の虹色の光をキラキラと反射させている。


 魔王はどうやら、女性らしい。


『初めまして。機人種、ブロンデ系の新系譜。第四機フェルムです』

「きさま、我を魔王と知っての狼藉か……」


 睨む魔王ちゃん。何だか可愛い。

 目線は一緒ですから、大人なのだと思います。着ているナイトガウンはちょっと透けていて、もうプライベートなお休みタイムだったみたい。失敗しました。TPOを間違えました。

 あ、でも私も見た目は裸ですから、一緒ですね。仲間仲間。


『魔王を召喚したら、ちゃんと魔王が来てくれました。歴史的快挙ですね』

「なにを……言っておる……? それにここは、どこなのだ!?」

『確か、オールデン、デンデンのお堀の中?』

「ふ……」

『ふ?』

「ふざけるでないわああぁぁ――」


 目から出た光線が、私の額に当たった。


『こ、これは――』


 慌てて、魔王の角を両手で掴み、私も身体を少し横にしつつ、光線が肩に当たるように移動させた。


 あ、ちょっと肩がほぐれる。

 それに、いい感じにエネルギーが補充されて、明日もまた元気に動けそうな予感。


 そうしてしばらく愉悦に浸っていたら、唐突に光線が止まった。


「きゅう――」

『おや、その程度の容量ですか。なるほど、では一旦、その魔法とやらを封印処理しておきましょう』


 角から手を離し、しゃがんで魔方陣に指を突き刺す。そして、接続。

 文字が、データが脳裏に流れてくる中を、該当の命令文を――ありました。


 その命令文の一部を、ちょこちょこと細工して、おや。私の足元で断線しているではありませんか。修正っと。


 そうして私が楽しく作業していたら、ゆっくりと部屋の扉が開いて、そこからメイドさん。顔だけ出して、目を大きく見開かれたまでは、見えた。

 扉が閉じられて、扉の向こう側。廊下が大騒ぎになったのが分かった。


『そろそろ時間ですね。では、最終作業を行いますよ』

「……な、ちょ。待て、何をする。角を、我の巻き角を掴むでない! 待てと、言ってぎゃああぁぁ――」


 魔王が気づいたけれど、もう遅い。


 私が角を引っ張ったと同時に、魔王の身体に光る網目状の全身拘束具が顕れ。そして首元から激しくスパークしながら解れ、引きちぎれていく。

 胸元まで引きちぎれたところで、今度は脇に手を入れて、さらに、引っ張る。


「ギィヤァァァ――」

『もう少し、静かにしていて欲しいですね』


 叫ぶ装置と化した魔王を、さらに引っ張る。

 両腕が網拘束から解放されて、力なく垂れ下がった。魔王の首が私の肩にもたれ掛かる。


 腰まで解放されて、太ももを過ぎて、足先まで――


『あっ、抜けます』

「もうやめ――」


 魔方陣から解放された反動で私たちは、猛烈な速度で壁まで吹き飛んだ。

 私の身体が壁に半分埋まり、当たり前だけれど魔王の首は壁にめり込んだ。ごめんなさい、力加減を間違えました。


 そうして、壁から抜けつつ、魔王の首を引っこ抜いたタイミングで、部屋の扉が再びゆっくりと開きはじめて。


「いや待て、それは何だ。それは誰だ?」

『あ、ライアスさん。さっきぶりですね。ちゃんと成功しましたよ』

「そうじゃねぇし、俺やめろって言ったよな!?」


 抱えていた魔王を、そっと床に下ろしながら、召喚魔方陣を再び吸収した。これ、便利なんですよね。魔力エネルギーが常に補充されていて、外付けエネルギー媒体になるんです。


『でも、魔王ですよ?』

「……は?」

『それに、ちょっと魔法も封印してあります』

「おま、フェルムさ。さらっととんでもないこと、言っていないか?」

『そうですかね。仕様ですよ?』


 そうして、ライアスの動きが止まった。


「……待て、ローザじゃないか。なんでローザなんだよ」

『お知り合いですか?』

「帝国領のな、数年前に滅ぼされた、そこの王女サマだよ。そしてローザは、俺の婚約者だった――」


 しゃがみ込み、そっと頬に触れる。

 その、ライアスの横顔は、すごく遠いところを見ているように、深く。すぐに天井を見上げた瞳から、ひとすじ。こぼれ落ちた雫が、魔王の頬を濡らした。




「で、力を失った我を、敢えて拘束せぬのは。あれか、嫌がらせか」

「……」


 付け髭を付けたライアスの瞳が揺れている。

 魔王ローザの覚醒を待って始まった三者会談は、初っぱなから空気が重かった。


『それでは自己紹介ですね。ブロンデ系機人種の新系譜。新生機の第四機フェルムです』

「聞いておらぬが!?」

「……ふふ、それか。またそれを言うか」

『あとそうですね、勇者代表です。よろしくお願いします』


 場の空気が、止まった。

 いや逆に、場の空気が柔らかくなったまである。やった、私の勝ちです。


「う、嘘であろう。嘘と言え、人間の王よ!」

「いや、事実だ魔の王よ。間違いなく、女神の勇者召喚魔方陣から、こいつが。フェルムが呼び出されたんだよ」

「に、人間ですらないではないか。なんならゴーレム、我らが魔王陣営の所属ではないのか!?」

『失礼ですね。機人ですよ、分類するならロボットですから』

「ろ、ろぼっとだと?」

「そこじゃねぇ……問題は、そこですらねえんだよなぁ……」


 メイドが茶器を傾けて三つ、お茶を入れる。

 まっ先に飲む私、目を見開く魔王。嘆息しながら、次にライアスが口に運ぶ。そうして固まっていた魔王が、ゆっくりとお茶に口を付けた。


『先生は思うんです。喧嘩なんて、している場合ではありませんよ』

「なら魔王の我が生徒か。茶だけに茶番とか、いい根性しておる」

「ブフォオオッ――」


 またですか。

 またどうして、ライアスはお茶を無駄にするのか。勿体ないですね。


『三者面談ですからね、先生役は必要ですよ?』

「あのな、フェルム。三者会談だ。か、い、だ、ん。分かるか?」

「くくっ。とんだ勇者だな、人間の王よ」

「無理なんだよ。ずっと、最初からだ。勇者を役割かなんかと勘違いしてるんだよ、こいつは!」

「実際に役割であろう。人間の王も、魔王も。そして勇者も全て、女神と魔神の盤上にある、駒の一つだ。そこに違いはないのではないか?」

「違うんだよ、こいつは駒なんかじゃない。観測者だ。完全に外の理だぞ!? 無効化されたのは勇者召喚魔方陣だけじゃねえ。意思がある魔王なんて、魔王じゃねえんだよ。涙を流す魔王なんて、魔王じゃねえんだよ。なあ、そうだよな。ローザ?」

「何を……いって、おる……のだ……」


 一粒。

 当然それだけで止まるはずがなく、魔王の瞳から次々に零れ落ちて、机を濡らす。


 感動の再会ですね。


『確かにそうですね。先程引きちぎった拘束は、もしかしたら女神の拘束でしたか』

「いや、待てフェルム。いま、なんて?」

『ええ。私自身も千切って切断しましたから、二度目は簡単でしたよ』

「もう……驚かねえって、思っていたんだがな……ちくしょう」


 机に突っ伏すライアス。

 目を見開いて、涙が止まったローザ。


 空気が台無しですよ?


「「お前が、言うな!」」


 夜はまだ、長そうです。


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