4.トップ会談、私は勇者代表
「こ、ここは……?」
『いらっしゃい。魔王さんですね。ちょっと魔方陣の仕様で身体が動かないと思いますが、少しの間だけですから我慢していてくださいね』
頭部には2対ある大きな巻き角。
濡れ羽色の長い髪は、召喚魔方陣の虹色の光をキラキラと反射させている。
魔王はどうやら、女性らしい。
『初めまして。機人種、ブロンデ系の新系譜。第四機フェルムです』
「きさま、我を魔王と知っての狼藉か……」
睨む魔王ちゃん。何だか可愛い。
目線は一緒ですから、大人なのだと思います。着ているナイトガウンはちょっと透けていて、もうプライベートなお休みタイムだったみたい。失敗しました。TPOを間違えました。
あ、でも私も見た目は裸ですから、一緒ですね。仲間仲間。
『魔王を召喚したら、ちゃんと魔王が来てくれました。歴史的快挙ですね』
「なにを……言っておる……? それにここは、どこなのだ!?」
『確か、オールデン、デンデンのお堀の中?』
「ふ……」
『ふ?』
「ふざけるでないわああぁぁ――」
目から出た光線が、私の額に当たった。
『こ、これは――』
慌てて、魔王の角を両手で掴み、私も身体を少し横にしつつ、光線が肩に当たるように移動させた。
あ、ちょっと肩がほぐれる。
それに、いい感じにエネルギーが補充されて、明日もまた元気に動けそうな予感。
そうしてしばらく愉悦に浸っていたら、唐突に光線が止まった。
「きゅう――」
『おや、その程度の容量ですか。なるほど、では一旦、その魔法とやらを封印処理しておきましょう』
角から手を離し、しゃがんで魔方陣に指を突き刺す。そして、接続。
文字が、データが脳裏に流れてくる中を、該当の命令文を――ありました。
その命令文の一部を、ちょこちょこと細工して、おや。私の足元で断線しているではありませんか。修正っと。
そうして私が楽しく作業していたら、ゆっくりと部屋の扉が開いて、そこからメイドさん。顔だけ出して、目を大きく見開かれたまでは、見えた。
扉が閉じられて、扉の向こう側。廊下が大騒ぎになったのが分かった。
『そろそろ時間ですね。では、最終作業を行いますよ』
「……な、ちょ。待て、何をする。角を、我の巻き角を掴むでない! 待てと、言ってぎゃああぁぁ――」
魔王が気づいたけれど、もう遅い。
私が角を引っ張ったと同時に、魔王の身体に光る網目状の全身拘束具が顕れ。そして首元から激しくスパークしながら解れ、引きちぎれていく。
胸元まで引きちぎれたところで、今度は脇に手を入れて、さらに、引っ張る。
「ギィヤァァァ――」
『もう少し、静かにしていて欲しいですね』
叫ぶ装置と化した魔王を、さらに引っ張る。
両腕が網拘束から解放されて、力なく垂れ下がった。魔王の首が私の肩にもたれ掛かる。
腰まで解放されて、太ももを過ぎて、足先まで――
『あっ、抜けます』
「もうやめ――」
魔方陣から解放された反動で私たちは、猛烈な速度で壁まで吹き飛んだ。
私の身体が壁に半分埋まり、当たり前だけれど魔王の首は壁にめり込んだ。ごめんなさい、力加減を間違えました。
そうして、壁から抜けつつ、魔王の首を引っこ抜いたタイミングで、部屋の扉が再びゆっくりと開きはじめて。
「いや待て、それは何だ。それは誰だ?」
『あ、ライアスさん。さっきぶりですね。ちゃんと成功しましたよ』
「そうじゃねぇし、俺やめろって言ったよな!?」
抱えていた魔王を、そっと床に下ろしながら、召喚魔方陣を再び吸収した。これ、便利なんですよね。魔力エネルギーが常に補充されていて、外付けエネルギー媒体になるんです。
『でも、魔王ですよ?』
「……は?」
『それに、ちょっと魔法も封印してあります』
「おま、フェルムさ。さらっととんでもないこと、言っていないか?」
『そうですかね。仕様ですよ?』
そうして、ライアスの動きが止まった。
「……待て、ローザじゃないか。なんでローザなんだよ」
『お知り合いですか?』
「帝国領のな、数年前に滅ぼされた、そこの王女サマだよ。そしてローザは、俺の婚約者だった――」
しゃがみ込み、そっと頬に触れる。
その、ライアスの横顔は、すごく遠いところを見ているように、深く。すぐに天井を見上げた瞳から、ひとすじ。こぼれ落ちた雫が、魔王の頬を濡らした。
「で、力を失った我を、敢えて拘束せぬのは。あれか、嫌がらせか」
「……」
付け髭を付けたライアスの瞳が揺れている。
魔王ローザの覚醒を待って始まった三者会談は、初っぱなから空気が重かった。
『それでは自己紹介ですね。ブロンデ系機人種の新系譜。新生機の第四機フェルムです』
「聞いておらぬが!?」
「……ふふ、それか。またそれを言うか」
『あとそうですね、勇者代表です。よろしくお願いします』
場の空気が、止まった。
いや逆に、場の空気が柔らかくなったまである。やった、私の勝ちです。
「う、嘘であろう。嘘と言え、人間の王よ!」
「いや、事実だ魔の王よ。間違いなく、女神の勇者召喚魔方陣から、こいつが。フェルムが呼び出されたんだよ」
「に、人間ですらないではないか。なんならゴーレム、我らが魔王陣営の所属ではないのか!?」
『失礼ですね。機人ですよ、分類するならロボットですから』
「ろ、ろぼっとだと?」
「そこじゃねぇ……問題は、そこですらねえんだよなぁ……」
メイドが茶器を傾けて三つ、お茶を入れる。
まっ先に飲む私、目を見開く魔王。嘆息しながら、次にライアスが口に運ぶ。そうして固まっていた魔王が、ゆっくりとお茶に口を付けた。
『先生は思うんです。喧嘩なんて、している場合ではありませんよ』
「なら魔王の我が生徒か。茶だけに茶番とか、いい根性しておる」
「ブフォオオッ――」
またですか。
またどうして、ライアスはお茶を無駄にするのか。勿体ないですね。
『三者面談ですからね、先生役は必要ですよ?』
「あのな、フェルム。三者会談だ。か、い、だ、ん。分かるか?」
「くくっ。とんだ勇者だな、人間の王よ」
「無理なんだよ。ずっと、最初からだ。勇者を役割かなんかと勘違いしてるんだよ、こいつは!」
「実際に役割であろう。人間の王も、魔王も。そして勇者も全て、女神と魔神の盤上にある、駒の一つだ。そこに違いはないのではないか?」
「違うんだよ、こいつは駒なんかじゃない。観測者だ。完全に外の理だぞ!? 無効化されたのは勇者召喚魔方陣だけじゃねえ。意思がある魔王なんて、魔王じゃねえんだよ。涙を流す魔王なんて、魔王じゃねえんだよ。なあ、そうだよな。ローザ?」
「何を……いって、おる……のだ……」
一粒。
当然それだけで止まるはずがなく、魔王の瞳から次々に零れ落ちて、机を濡らす。
感動の再会ですね。
『確かにそうですね。先程引きちぎった拘束は、もしかしたら女神の拘束でしたか』
「いや、待てフェルム。いま、なんて?」
『ええ。私自身も千切って切断しましたから、二度目は簡単でしたよ』
「もう……驚かねえって、思っていたんだがな……ちくしょう」
机に突っ伏すライアス。
目を見開いて、涙が止まったローザ。
空気が台無しですよ?
「「お前が、言うな!」」
夜はまだ、長そうです。




