2.一般的な勇者とは、無理難題
『ところで、勇者とは。どう楽しむものなんでしょうか』
「ブフォッ! ゲホッ、ゲホッ……そ。其方はまた――」
飲んでいたお茶を、噴き出す王。
何ともお約束ですが、初めての観測ですからとても楽しい。
側に使えていたメイドが、あわてて口元を拭う様子を見ながら、私もお茶を口に運んでみる。
なるほど、美味しいですね。
あくまでも味覚センサー。ですが、そこに深みのような物を感じられます。姉が、コーヒーに嵌まったのも、分かる気がします。
「機械であろうに。お茶を、飲めるのかね……?」
『飲めます。それに、味覚も。センサーですが、これはいいものですね』
「時期が時期だからな。安物ではあるが、だが国の誇りだ。それは純粋に嬉しいな……」
そうして、メイドが新たに入れたお茶を口に運ぶ。
王が目を閉じて、ゆっくり味わう姿を見ながら、私も同じようにカップを持ち上げて。
『それで、あの勇者召喚魔方陣は、再利用しますか?』
「ン、ブフオオォ! グホッ、ゲホッ――」
よく、咽せる王ですね。見ていて楽しいですが。
手のひらを広げて、ちょっと待てのジェスチャーだけして、立ち上がった王が部屋から退出していった。まあ、服がびしょ濡れですからね。
会話のタイミングって、難しいものですね。
ゆっくりと、カップを口に運ぶ。
やはり、美味しい。
「待たせたな。しかし、本当に其方は――」
先程までの衣装は、恐らく謁見用の物だったのでしょう。
着替えをしてきた王は、ラフなシャツにすらっとしたズボンのみ。この姿ですと、締まった身体がよく分かります。
髭も、付け髭だったのですね。
精悍な顔つきはなるほど、まだ威厳を出すには若すぎる。
『召喚魔方陣の解析は済みましたから、ある程度効率化させて再配置が可能ですよ?』
「それは、何というか。だが、どうだろうな。できれば我は、二度と使いたくはない……それが例え我々を、さらに苦しめる結果になったとしても、だ」
『ですが私は、召喚されました』
「ああ、そうだな。申し訳ないとは思っている。人の人生を強制的に奪う、悪の所業だ。だが国の決まりでな、国の半分が奪われた際には、勇者召喚を行うしきたりだったのだ。実際に、後がなかったのも事実だ」
『でしたら、勇者。再召喚すべきでしょう。やりましょう、やっちゃいますよ。楽しみにしている私がいます』
「いや、だからな。もうやらないと、申したはずだが」
そうして笑う王は、今度は儚く見えた。
ため息一つとっても、国のトップがどれだけの決断をしているのか。それが垣間見えた気がします。ですから、面白い。
おもむろにメイドに指示を出し、頭を下げたメイドが扉を開けて外に待機していたメイドに伝言を渡す。
そのまま見ていたら、男が1人――さっきの宰相でしょうか。同じように、付けひげを取り払った、若い男が入室してきた。
「王よ、お呼びですか?」
「ああ頼む。横に座って、一緒に戦ってくれないか、我には此奴の。フェルムの相手を1人でするなぞ、荷が重すぎる」
「ははは、承知いたしました。御相席、失礼いたします」
そうして二対一になりました。
いいですね。そちらがそう来るなら、私も本気を出しましょう。
『初めまして、ブロンデ系神系譜。第四機フェルムです』
「待てフェルム、今何か……ニュアンスが変わっておらなんだか?」
『いえいえ、神など騙っておりませんよ?』
「ふふ……これはまた、ちくしょう。ふふふふ……はははは――」
「ああ、確かに。王には荷が重い、そしてゴーレムはおろか、魔法生物でもないのですね。初めまして、この国。オールデン帝国が宰相、カイトです」
ふむ、では私も。
『機人新系譜としまして、姉はブロンデ。その下に双子のシルバとカルパがいます。私が四機目ですから、第四機フェルムなんですよ』
「いや、そこまで聞いておらん。だが、其方が規格外であることは分かった」
「ははは。これはいいですね、確かに私が呼ばれるわけですね。ところで機人とは、どういった存在なのでしょうか?」
『機人ですか。簡潔に表すならば、観測し、解析する。そして、文明レベルを引き上げる、いわゆる技術的侵略者でしょうか』
「技術的侵略……ふむ」
顎を揉みながら、深く思案する宰相カイト。
それを隣でニヤニヤしながら見ている王のおかげで、部屋の空気は比較的軽いまま。なるほど、侵略とは、確かに意味合い的には支配的に取られますか。
ふと思い立って、腰元に浮かんでいる虹色宝箱から――待ってください、これ、何なのでしょうか?
『あの、少しお聞きしても?』
「ああ、どうした。我に分かることなら、答えるが」
『この虹色の宝箱なのですが、見覚えはありませんか?』
「……は、は? 気づかなんだが、何だそれは。ものすごい魔力を感じるが……」
『知りませんか。なら、姉由来ですね。失礼しました』
それはそうと。
『勇者とは、いつから始めればいいのですか?』
「グフッ――」
宰相が崩れた。
お腹を抱えて笑いをこらえていますが。そんなに、変なことを言いましたかね。
「其方は、また唐突に。その虹色の宝箱のことは、聞かぬ。だが、勇者は。その咎だけは我から説明せねばならぬか」
『お聞きしましょう、では、どうぞ』
「グホッ――」
私が差し出したマイクを見て、今度は王が腹を抱えた。ちょっとしたサプライズですが、これには見覚えがあると言うことですかね。
「集音の魔道具に似ていますね。どこかに、記録されるのですか?」
『いいえ、飾りです。雰囲気作りの道具ですよ。もちろん、録音機に繋げば記録は可能ですが』
「……」
「……敵わぬな」
すっかりと毒気が抜けた2人が、同時にカップのお茶を口に運んだ。
ふと、何だかいい匂いがしてきた。
時間を――そう思い、首を回していたら、王が気づいて柱を指し示してきた。
「柱時計は、珍しいのかね」
『ええ。デジタル時計が基本ですから、確かに珍しいですね』
「でじたる、と……やはり世界が違うと文化が違うのか」
『ちなみにですが、1、2、3、4などの数字は、どう書きますか?』
「それでしたら、普通に。1、2、3、4と書きますね」
「ああそうだな。書類に並ぶ数字が、ある意味頭痛の種ではあるが」
目覚まし時計が――
そう思って、虹色宝箱に手を突っ込むと、雑多なリストの中に――星の数ほどある道具群の中に、目覚まし時計があった。確かにこれは、デジタル時計です。
『こんな感じに、時間を表示しますが。ご存じありませんか?』
「……は?」
「ふむ、非常に興味深いですね……」
つまり、数字はあるけれど、デジタルの概念はない。そこが、この文明の基準値と言うことですか。技術的侵略のしがいが、ありますね。
ところで、脱線しすぎな気がして、内心苦笑い。まあ、私のせいなのですが。
『それで勇者なのですが。これを』
「……何だね、この板切れは?」
「石版ですかね。それにしては漆黒で磨き上げられている。それに角が丸い、すごい技術ですね」
『これに書き込んでおいてください。後で記録として読み込みますから』
「……これは、また。何という物を」
「ふふふふ、はははははは――」
王が、良く笑う。
宰相も、笑い出したので、私も一緒に笑いました。
人間、楽しいですね。
姉のブロンデが追い続け、今も追っている理由が分かった気がします。




