1.王宮の広間は、静寂に包まれた
「勇者よ、よくぞ召喚に……待て、なんだ此奴は……?」
視界を確認。
王宮の広間であると、認識しました。
「女体型の鎧……というわけでは、無さそうですね」
「まて、動いているぞ!?」
「ゴーレムか! まさか、魔王側の刺客か――」
私が首を回すと、一際騒がしくなったあとに、広間が静寂に包まれた。
『質問、よろしいでしょうか?』
ちょっと高めの声が私の口から発声。音声テストはクリア、特に異常はない模様。
ただ周りは再び騒然とし始めた。
玉座と思わしき場所を、複数の騎士が壁になって守りの体勢に入った。そして私が立っている魔方陣の外側を囲むように、騎士が配置され槍の穂先が私に向けられる。
そしてその外側には、杖を構えた……推定、魔法使いが詠唱を始めた。
『殲滅をご希望ですか?』
「魔法士隊、撃ち方はじめ!」
嵐のような魔法が私に降りかかる。
『破壊現象の中に、未知のエネルギーを確認。解析……吸収可能であることを確認しました。吸収します』
降り注ぐ炎や氷の礫、さらに岩塊と雷の中にあるエネルギーを、残さず吸収した。魔法が、一気に消滅した。
目を見開いて固まる魔法士隊。息を呑む声を、音として拾う。なるほど、これは想定外と言うことですか。
「槍隊、突撃!!」
『無駄ですよ。その程度の鉄器では、私を傷つけることすら叶いませんよ』
突き刺さるはずの槍は、私の表面を滑り全てすり抜けた。当然、力を削がれた槍隊が、バランスを崩して転倒した。
再び王宮の広間は、静寂に包まれた。
『再び問います。質問、よろしいでしょうか?』
誰も、反応しない。
倒れた槍隊は、呻くだけで起き上がれないように見える。まあ当然ですね、全身金属鎧は立っているからこそ動くことができる。
『転倒した鎧騎士が、大変であると推測します。引き上げを提案します』
「……なん、だと?」
『ですから、私の周りにいる重装備の方々を、先に助けてあげてください』
再び静まりかえる。
「救護隊、槍隊を引き上げさせなさい」
「し、しかし宰相。危険では――」
「余が命じる。全騎士を、広間から撤退させろ」
「王様!?」
それからは早かった。
私の周りに転がっていた騎士が運ばれていって、王の前にいた騎士さえもいなくなった。
現場にいるのは私。それに王と、恐らく宰相? さっき、誰かに呼ばれていたから、この男が宰相なのでしょう。
「非礼を詫びる。召喚されて不安であるだろうに、止めることもせず其方を攻撃をさせた。我が力が及ばなかった。赦せ」
「お、王!?」
なるほど。そこが落とし所ですか。
『受理しました。ところでこの……周りにある魔方陣ですか。これは、必要なものですか?』
「……どう言う、意味だ?」
『このままでは、存在が固定されて動けません。こちらで対処が可能ですが、よろしいでしょうか?』
目を見開く王。
そして、大きく息を吸い込んだ宰相が震えている。
「つまり何か、我々は動けぬ其方に攻撃を仕掛けただけではなく。その攻撃すらも、回避する術を持っておらなんだと?」
『そうですね。首は駆動し、そちらの音声は認識できました。発音もできます、でもそれだけです』
王の顔が、歪んだ。
それも楽しそうに。心底、嬉しそうに。
「ふ……ふ、ふははははは――」
何が楽しいのか分かりませんが。
魔方陣を、吸収しましょうか。
足元に輝いていた光が、私の足に向かって端からゆっくりと消えていく。間もなくして、床に描かれていた魔方陣は、跡形もなく消え去った。
「して、其方は何者なのだ?」
案内された場所は、どうやら王の個人的な部屋のようです。質素な家具に、テーブルと椅子は材質は上質ですが、飾りは一切ない。質実剛健、そんなイメージでしょうか。
『私ですか。機人種、ブロンデ系新系譜が一機。第四機フェルムです』
「ふ……ふふ、何だそれは。ふふふ、はははは――」
それにしても良く笑う。
よく締まった体躯。細身でありながら鍛えられた筋肉は、うまく服に隠されています。やや面長の顔は、威厳を出すためにか髭に埋もれていますが、近くで見ると優しい双眸から人間味を感じますね。
とても、好ましい人間種。
「ふふ、フェルム。お主今、とても失礼なことを考えていただろう」
『分かりますか? 表情筋は存在していないはずですが』
「ああ。ならば、我の反撃の番であるな」
不敵に笑う王は、おもむろに立ち上がった。
そして、座る私の周りを歩き始めた。
「鋼色の長い髪は、なるほどそのまま鋼なのだな」
『切れ味は、すごいのですよ?』
「ふふふ、であろうな。裸なのに違和感ないのは、その機人とやらの特徴であるか。ゴーレムとは……違うのか?」
『機人は、分類上はロボットですね。機械は、ご存じで?』
一通り私を観察した王は、再び私の前に腰を下ろしました。
「知らん。なんだその、『ろぼっと』とやらは、魔法で動いているわけではないのか?」
『魔法ではありませんね。では、カラクリはご存じですか?』
「ほほっ、まさか。あの?」
大きく息を吸い、その瞳は少年のように輝く。そんな王を、やはり好ましく感じる私がいます。
『どれかは分かりかねますが。そうですね、魂はありません』
「ンクラテスが、研究しておったが。ならば、今度聞いてみよう」
『機械研究をされる方が、いらっしゃるのですね』
先程の広間しか見ていませんが、魔法主体の文明で、科学技術はほとんど発達していないことは理解できます。
だとすれば、私がここにいる理由は。
機人種としての目的、技術向上の推進は可能でしょう。むしろ、今後の楽しみでもあります。ありますが――
「ああ。だがそうなると、困ったな。危機は危機のままか……」
『お聞きしても?』
「其方がな、恐らく勇者ではない。伝承では、神が魂の選別の後に、チートなる力を与え。あの魔方陣の上に顕現させる。そして魔王と対峙させる構図なのだが」
『なるほど、私には魂がありませんね。それにチートはないので、その意味であれば無力ですね』
「無能だとは思わぬがな。だが勇者を任命するには、あまりにも理不尽が過ぎる。過酷な使命をフェルム。其方に課すには荷が重い」
そうして王は、大きくため息をつきます。
そうですか、勇者ですか。面白そうですね。
『では、その『勇者』を念いましょう。何をすれば?』
「いや、ならん。あからさまに一般人……人か? 人ではないのだな、何と呼べばよい?」
『その呼称に対応するなら、そうですね。汎用機でしょうね』
「なるほど、その汎用機の其方には、無理はさせられぬ。魔王は、我らが何とかする」
やはり優しい。
そして私の使命は、機人のネットワークからも断絶された私が、ここにいる理由。
『では、仮勇者で行きましょうか。私がその、魔王。恐らく魔王軍ですか、対話しましょう』
「……だが、いいのか? こちらの都合だ。例え、正規の勇者であっても、丁重に持て成す事に変わりはなかったが、だが本当によいのか?」
笑いましょう。
表情筋などなくても、姉機ブロンデは微笑みました。
王の顔に、朱が走ったのが分かった。
『ええ。承ります。私は汎用機ではありません――』
専用機。特殊機。
呼び方を考えることすら、楽しいですね。
『私は、新世代ですから。新生機ですね』
ブロンデ姉様。
私はうまく微笑めているでしょうか。




