7 NFT市場の狂気と監視者の餌
西暦2021年4月。
仮想通貨市場の熱狂は続いていたが、大規模ハッキング騒動の影響で、人々は冷静さを取り戻しつつあった。そんな中、俺、三上 悟は、監視者のメッセージに従い、次の戦場に全資産を移す準備を進めていた。
『次なるバブルは、NFT市場。』
NFT(非代替性トークン)。デジタルアートやゲーム内アイテムの所有権をブロックチェーン上で証明する技術。一度目の人生では、俺はこれを「理解不能なバブル」として横目で見ていただけだった。しかし、未来の記憶は、これがどれほどの狂気を生み、数週間で数百万、数千万を稼ぎ出すのかを知っていた。
「資産1,250万円。これを種銭にして、次は3,000万円、いや、5,000万円を狙う」
俺は監視者からの「メッセージ」に書かれていた特定の時期と、具体的なプロジェクト名を調べた。記憶を辿っても、そのプロジェクトは確かに成功したが、監視者が提示した「時期」は、俺の記憶よりも半年も早い。
「やはり未来は改変されている。監視者は俺のチートを無効化するのではなく、より効率よく金を稼ぐためのチートを上書きしているんだ」
この結論に至ったとき、俺の不安は一転、冷酷な決意へと変わった。監視者は協力者だ。だが、それは俺を「ミッションをクリアさせる」ための道具と見なしているからだ。
俺は監視者のメッセージに書かれていた通り、そのプラットフォーム系通貨に少額を再投資し、そこで発行されるNFTプロジェクトの情報を追った。
そして、運命の2021年5月。
監視者のメッセージ通りの日付に、そのNFTプロジェクトは始まった。
それは、特定の動物をモチーフにした、一万点限定のデジタルイラストだった。発売直後、そのコミュニティは爆発的な熱狂に包まれた。有名人の参入が火をつけ、価格はわずか数日で跳ね上がる。
俺は躊躇しなかった。未来の記憶と、監視者への信頼が、俺の背中を押した。
「全額だ。このバブルに、全財産を賭ける!」
監視者のメッセージが示した通り、俺は低価格で数十個のNFTを「ミント」(発行)することに成功。わずか数日後、その価値は驚くべき高騰を見せた。
『三上、売却のタイミングは今。その時を過ぎれば、一時的な暴落が来る。』
PC画面の隅に、簡潔なメッセージが表示される。
俺は迷わず、全NFTを市場に放出した。
取引完了の通知が鳴り止んだとき、俺の通帳の残高は、これまでの全ての努力を嘲笑うかのように、とんでもない数字を表示していた。
「54,120,550円」
一ヶ月足らずで、資産は四倍以上に膨れ上がった。
歓喜よりも、恐怖が勝った。これは俺の実力ではない。これは、監視者という「黒幕」が、俺に与えた餌だ。
「半分だ……一億円の半分を超えた」
俺は全身の震えを抑えきれなかった。
突然、PCの画面全体が、白いノイズに包まれた。そして、ノイズの中から、まるで嘲笑うかのような、女性の顔のCGが浮かび上がる。
『素晴らしい、悟くん。これであと半分。あなたを「死に戻り」の絶望から救うため、私たちも必死なんですよ。』
冷たい電子音声が、明確な「女性の声」で響いた。
「お前は……誰だ?なぜ、俺を助ける?」
『それは、ミッションクリアの後に教えましょう。ただ、一つ警告があります。次が最後の稼ぎです。2023年、あなたをターゲットにした大きな金融スキャンダルが起こります。あなたの記憶には、そのスキャンダルは存在しない。』
「……俺の記憶にない?」
『ええ。私たちが作った未来ですから。逃げ道は一つ。最後のミッションは、「安定資産」への大胆な移行です。そして、その最終ターゲットは……』
女性の顔が消え、最後に文字だけが残った。
『不動産。ただし、指定の地域で。』
監視者は、俺の記憶にない改変された未来の危機を突きつけ、同時に最後の指示を与えてきた。一億円へのラストスパートは、俺が最も苦手とする「現実の資産」への投資だった。
目標金額100,000,000円
現在資産54,120,550円NFT市場での爆発的な成功により、資産が半分を超えた!
残りの時間1,338日2021年5月時点
稼ぐべき金額45,879,450円目標まで、残り約4588万円!




