6 未来の改変と決断
目標金額100,000,000円
現在資産12,500,000円監視者の助言で危機を回避。
残りの時間1,434日2021年3月上旬時点
稼ぐべき金額87,500,000円目標まで、残り8750万円!
西暦2021年1月。
仮想通貨市場は静かに熱を帯び始めていた。
俺が全資産を投じた二つの銘柄のうち、基軸通貨はすでに緩やかな上昇を見せていたが、真の爆発を控えたプラットフォーム系の通貨は、まだ静かだ。
俺の未来の記憶では、このプラットフォーム系通貨は2021年春頃から急騰し始め、夏には数十倍の価格を付けている。この波を掴めば、資産は一気に3,000万円を超え、目標達成が現実味を帯びるはずだった。
だが、あの「監視者」からの警告が、俺の脳裏から離れない。
『2021年春、あなたが狙っているプラットフォーム系通貨に、大規模なハッキング騒動が起こります。あなたの記憶より、一ヶ月早く、そしてより大規模に。』
未来の記憶を信じるか。それとも、正体不明の「監視者」の警告を信じるか。
監視者は、俺の行動を完全に把握している。そして、俺のミッション達成をサポートすると言いながら、最も重要な局面で、俺のチート能力を否定するような情報を突きつけてきた。
「もし、監視者が嘘をついていたら……」
もしハッキングが起こらず、俺が警告を信じて早めに売却すれば、その後の大暴騰の利益を全て失うことになる。一億円への道のりは、また遠ざかる。
「だが、もし監視者が真実を告げていて、俺が自分の記憶を優先すれば……資産の半分以上を失うことになる」
その損害は、残りの期間で取り戻せる保証はない。死に戻りが、再び確定する。
数週間、俺は眠れなかった。PCの前で、チャートとニュースを監視し続ける。世界はまだ静かだ。誰にも、この後の大混乱は予測できていない。
運命のデッドラインを、俺は2021年2月末と定めた。
俺の記憶では、この時点ではまだ平穏だ。しかし、監視者の言う通りなら、3月には暴落が始まる。
2021年2月27日。
プラットフォーム系通貨の価格は、緩やかに上昇を続けている。俺の資産は投入時の約1.2倍。
時刻は午後11時。俺はパソコンの画面を凝視していた。
「賭けだ。俺の命を懸けた、最大の賭けだ」
信じられるのは、過去の失敗の教訓、そして目の前の現実だけだ。
突然、画面が点滅した。
そして、ブラウザの隅に、小さく文字が浮かび上がる。
『今です。』
監視者だ。電子的な声ではなく、文字による、たった一言の催促。
俺の心臓が警鐘を鳴らす。このタイミングで、監視者が直接介入してきた。これは、暴落が間近に迫っている証拠かもしれない。自分の未来の記憶は、この「監視者」の介入によって、既に改変されているのかもしれない。
俺は唇を噛み締め、震える手でマウスを動かした。
選択した行動は、「全額売却」。
恐怖が、未来の記憶に打ち勝った。死に戻りの絶望を経験した俺には、再び全財産を失うリスクは冒せなかった。
売却完了。
時刻は午後11時35分。俺は椅子に深くもたれかかり、疲弊した目で画面を見つめていた。
売却直後、俺の資産は12,500,000円。目標達成までの距離は、少し縮まったが、逃したであろう大暴騰の利益を考えると、悔しさが込み上げる。
――次の瞬間。
俺が売却したプラットフォーム系通貨の価格グラフが、突然、垂直に落下した。
「な……!?」
交換所の緊急通知が表示される。『大規模な不正アクセスが発生。緊急メンテナンスに入ります。』
暴落。暴落だ!
俺の記憶よりも一ヶ月も早く、そして、遥かに大規模なハッキングが、今、起こった。
もし売却していなければ、俺の資産は一瞬にして半値以下になっていただろう。
「監視者……本当に、助けられたのか」
俺は全身から力が抜け、安堵と恐怖がないまぜになった感覚に襲われた。未来は変わった。俺のチートは絶対ではない。このミッションには、俺の知らないルールと、強力なサポーター(あるいは支配者)が存在している。
PCの画面が消える直前、もう一度だけ、文字が浮かび上がった。
『ミッションへの協力、ありがとうございます。次なるバブルは、NFT市場。時期は――』




