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酒を飲むと女子高生になる俺、35歳にして高校生活をやり直す  作者: ワグ
第三章:宿泊学習、何も起きないはずがない!
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第51話 川下りのはずが、ラブコメイベントの連続です!?【挿絵あり】

 ようやくバスが停車したとき、俺は心の底から安堵していた。


「はーい!皆さん、到着しました!足元に気をつけて降りてくださいね!」


「わあー!川だ!」


「まあ!とても綺麗なところですわね!」


 遥と麗奈は早速、目の前に広がる景色に歓声を上げていた。


 山々に囲まれた川は透き通っていて、陽の光を反射しながらきらきらと輝いている。


 ……胃の調子さえよければ、俺だって素直に感動できたんだけどな。


「麻由ちゃん、大丈夫?まだ顔色悪いよ?」


「う、うん……外の空気を吸ったら、少し楽になったかも……」


 二人に心配をかけまいと笑ってみせたが、正直なところ、まだ胃のあたりが落ち着かない。


 そんな俺のもとへ、館長が近づいてきた。


「すみません、少し体調を確認してもよろしいですか?先ほどバスの中で気分が悪そうでしたので」


「あっ、はい!」


 館長は俺を少し離れた場所へ案内すると、周囲に聞こえない声で話しかけてきた。


「……麻由ちゃん、やっぱり気分が悪いみたいだね」


「……そちらこそ、大丈夫なんですか?」


「実はね、昨日あのあと、ちょっと飲みすぎちゃってさ。そのうえ今朝もこの姿を保つために飲んだから、いつもよりきついんだよね」


「……ああ、なるほど……」


 ……いや、なるほどじゃないだろ。


 この人、俺とまったく同じことをしているじゃないか。


 館長は苦笑すると、小さな袋を取り出した。


「こうなることも想定して、念のために用意しておいたんだ」


 中に入っていたのは、酔い止めとウコン入りの小さなドリンクだった。


「えっ!?これ、もらっていいんですか?」


「もちろん。ただ、すぐに効くとは限らないし、気分的に楽になる程度かもしれないけどね」


 ……ありがたい!


「ありがとうございます!本当に助かります!」


「ふふっ。お互い、今日は大変そうだからね。無理だけはしないように」


「……はい!」


 俺は素直に頷き、遥たちのもとへ戻った。



 ☆☆



「それでは皆さん!いよいよラフティングを始めます!」


 川岸に集まった俺たちは、安全説明を受けたあと、ボートへ乗り込むことになった。


 川岸には何台もの大型ボートが並んでおり、それぞれに十人ほどの生徒が乗れるようになっていた。


 俺たちは案内に従い、館長が担当するボートへと向かった。


「わあー!思っていたより大きいね!」


「これなら皆さんで一緒に楽しめそうですわ!」


 遥と麗奈は楽しそうに話しながら、先に乗り込んでいく。


 俺もそのあとに続こうとしたところで、思わぬ人物と目が合ってしまった。


「あっ……花川さん」


「……あ」


 そこにいたのは、山田だった。


 昨日の夜、俺に告白してきた男子生徒である。


 ちなみに、昨日の時点では名前すら知らなかったのだが、部屋に戻ったあと、遥のおかげでようやく山田という名前だと判明したのである。


 ……いやあ、名前を知っておいてよかった。


 とはいえ、昨日の今日で同じボートに乗ることになるとは思わなかった。告白のこともあって、どうにも気まずい。


「よ、よろしくね……花川さん」


「う、うん……よろしく……」


 しかも、乗り込む順番の関係で、俺は山田のすぐ隣に座ることになってしまった。


 ……神様。何か俺、悪いことしましたか?


「皆さん、準備はいいですかー?」


「はーい!」


 元気な返事とともに、ボートはゆっくり岸を離れた。


 最初は穏やかな流れだった。周囲には緑豊かな山々が広がり、水面には青空が映り込んでいる。


「わあー!気持ちいい!」


「本当に素晴らしい景色ですわね!」


 遥と麗奈はすっかり夢中になっていた。


 俺も少しずつ気分が落ち着き、ようやく景色を楽しむ余裕が生まれてきた。


 ……おお。意外と大丈夫じゃないか。


「この先、少し流れが速くなりますよー!しっかりつかまってくださいね!」


 館長の声が響いた。


 前方を見ると、川幅が狭くなり、水面に白い波が立っている。


 ……ん?少し?


 あれが?


 次の瞬間、ボートが大きく上下に揺れた。


「うわああっ!?」


 思わず身体が傾き、俺は隣にいた山田の腕にしがみついてしまった。


「わっ!花川さん!?」


「ご、ごめん!」


「だ、大丈夫!しっかりつかまって!」


 山田が慌てて俺を支えてくれる。


 しかし、どうやらこれは始まりにすぎなかったらしい。


「次の波、来ますよー!」


「えっ!?ちょっ、待っ……!」


 ボートが再び大きく跳ね、冷たい水しぶきが顔にかかった。


「きゃははっ!すごーい!」


「まあ!冷たいですわ!」


 遥と麗奈は大はしゃぎである。


 一方、俺は揺れるたびに胃の中が妙な動きをしていて、それどころではなかった。


挿絵(By みてみん)


「花川さん、ちょっと顔色悪そうだけど……大丈夫?」


「う、うん……何とか……」


「無理しないでね」


「ありがとう……」


 ……いい奴だな、山田。


 そう思った矢先、またしてもボートが揺れた。


「うわっ!?」


 身体のバランスを崩し、山田の方へ倒れ込んでしまった。


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて身体を起こすと、山田は顔を真っ赤にして固まっていた。


 どうやら今の拍子に、俺の胸元が山田の腕に押し当たってしまったらしい。


 ……いやいやいや!事故だからな!?


「わ、わああっ!ご、ごめん!花川さん!」


「えっ!?う、ううん!気にしてないから!」


 なぜか山田の方が必死に謝ってきた。


 ぶつかったのは俺の方からだったが、気まずさをごまかすように前を向いた。


 しかし、川の流れはこちらの事情など一切考慮してくれない。


「次は少し大きな波が来ますよー!」


 ……また!?


 俺が必死にボートの縁をつかんだ、その瞬間。


「うわっ!?」


 不意の揺れに身体が傾き、俺はまたしても山田の方へ倒れ込んだ。


「花川さん!?」


 山田が反射的にこちらを向く。


 そして、ほんの一瞬。


 俺の唇が山田の頬に触れてしまった。


「…………」


「…………」


 ……え?


 ……今、何が起きた?


 山田は目を見開いたまま、完全に固まっている。


 ……いやいやいやいや!


 何だ、このピタゴラ式ラブコメは!?


 揺れるたびにイベントが発生するって、どういう仕組みだよ!


「ご、ごめん!山田君!今のは事故だから!」


「う、うん!わ、分かってる!」


 山田は真っ赤な顔で頷いた。


 ……頼むから、これ以上は勘弁してくれ。


 こっちだって、恥ずかしさで消えてしまいたいんだよ!



 ☆☆



 その後、ボートは少し流れの穏やかな場所へ入った。


「ふう……すごかったねー!」


「ええ!とても刺激的でしたわ!」


 遥と麗奈は満足そうに笑っている。


 俺はようやく揺れが落ち着いたことに安堵していた。


 そんなとき、隣に座る山田が、周囲には聞こえないくらいの小さな声で話しかけてきた。


「あの……花川さん」


「えっ?」


「昨日のことなんだけど……」


「……うん?」


「昨日、断られてからもずっと考えてたんだ。花川さんを困らせたくはないんだけど……」


 山田は一度言葉を切り、真剣な表情で続けた。


「……やっぱり、まだ諦めきれないんだ。もう少しだけ、僕にもチャンスをもらえないかな……?」


「…………えっ?」


 ……おいおい。


 今!?このタイミングで!?


「もちろん、すぐに返事がほしいわけじゃなくて……」


 山田がそこまで言いかけたときだった。


「皆さーん!もうすぐ次の急流ですよー!」


 館長の声が響いた。


 ……え?


 また?


 前方には、先ほどよりも勢いよく波立つ川が広がっていた。


 ……あ。これ、無理だ。


「花川さん?」


「……ごめん、山田君……」


「えっ?」


「……ちょっと、今……それどころじゃ……」


 胃の奥から、嫌な感覚が込み上げてきた。


 俺は慌てて口元を押さえた。


「花川さん!?大丈夫!?」


「……うっ……!」


 次の瞬間、ボートが大きく揺れた。


「……お、おろろろ……!」


「は、花川さん!?」


 ……終わった。


 よりによって、俺に告白してくれた山田の目の前で。


 しかも、慌てて顔を背けようとしたものの間に合わず、山田のウェットスーツまで汚してしまったのである。


「ご、ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!」


 情けなさと申し訳なさで、目に涙が浮かんでくる。


「だ、大丈夫だよ!花川さん!」


 ところが、山田は怒るどころか、優しく声をかけてくれた。


「気にしないで!体調悪かったんでしょ?」


「で、でも……服が……!」


「ウェットスーツだし、水で流せば大丈夫だよ!それより、花川さんの方が心配だよ!」


 ……山田。


 お前、どこまでいい奴なんだよ……。


「麻由ちゃん!?どうしたの!?」


「まあ!麻由さん!大丈夫ですの!?」


 異変に気づいた遥と麗奈も、心配そうに声をかけてきた。


「ご、ごめん……ちょっと、気持ち悪くなっちゃって……」


「インストラクターさーん!麻由ちゃんが気分悪くなっちゃった!」


 遥が慌てて呼びかけると、館長がすぐにこちらを振り返った。


「大丈夫ですか!?」


「……は、はい……」


「この先は流れが緩やかになりますから、もう少しだけ頑張れますか?無理そうならすぐに教えてくださいね」


「……分かりました……」


 心配そうな館長に頷きながら、俺はそっと息を吐いた。


 不思議なことに、一度吐いてしまったせいか、さっきまでの気持ち悪さが少し和らいでいる。


「……あの、何だか少し楽になりました……」


「本当?よかったー!」


「ですが、まだ油断は禁物ですわ!」


 遥と麗奈がほっとしたように笑った。山田も安心した表情を浮かべている。


 ……ああ。みんな、本当に優しいな。


 それにしても、昨日告白してきた相手に、今日もう一度告白され、その直後に盛大に吐いてしまうなんて、いったいどんな青春だよ。


 しかも、山田は嫌な顔ひとつせず、最後まで俺のことを心配してくれた。


 ……本当に、いい奴なんだよなあ。


 だからこそ、何だか余計に申し訳なくなってしまう。


 俺は小さくため息をつきながら、ゆっくりと流れる川を眺めた。

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