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酒を飲むと女子高生になる俺、35歳にして高校生活をやり直す  作者: ワグ
第三章:宿泊学習、何も起きないはずがない!
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第50話 ラフティング、始まる前からもう限界です!【挿絵あり】

 ラフティングを選んでしまったことを後悔しながら、俺たちは先生の案内で更衣室へ向かっていた。


「楽しみだねー!麻由ちゃん!」


「う、うん!そうだね!」


「わたくし、川下りは初めてですので、少し緊張しておりますわ!」


 遥と麗奈は朝からずっと楽しそうだが、俺はそれどころではない。


 何しろ、昨日から酒を飲み続けているのである。今朝も追加したばかりだし、胃の調子だって万全とは言い難い。


 そんな状態で川下りなんて、本当に大丈夫なのだろうか。


「それでは皆さん、こちらでウェットスーツに着替えてください!」


 更衣室には、黒を基調とした上下に分かれたウェットスーツが用意されていた。


「わあ!これがウェットスーツなんだ!」


「思っていたより、しっかりした生地ですのね!」


 遥と麗奈が興味深そうに眺める中、俺も自分のサイズのものを受け取った。


 ……うん?何だか、ずいぶん細くないか?


 これ、本当に身体が入るのか?


 そんな不安を抱きながら着替え始めたのだが、予想以上に苦戦することになった。


「……うっ、よいしょ……!」


 何だこれ!?全然着られないじゃないか!


 いや、正確には伸びるのだが、身体にぴったり密着するように作られているせいで、妙に力が必要なのである。


 どうにか上下とも着終わった頃には、すっかり疲れてしまっていた。


「はあ……やっと着られた……」


 腕を曲げたり伸ばしたりしてみるが、どうにも落ち着かない。全身をぎゅっと締め付けられているような感覚がある。


「麻由ちゃーん!着られた?」


「あっ、うん!何とか!」


 振り返ると、遥もウェットスーツ姿になっていた。


「いやー、これ着るの大変だね!」


「本当だよ!何か窮屈だし……」


「あの、麻由さん……」


 隣にいた麗奈が、少し恥ずかしそうに声をかけてきた。


「この服装、少々恥ずかしくありませんこと?」


「……ああ」


 改めて自分の姿を見下ろすと、その理由がよく分かった。


 ウェットスーツは身体にぴったり密着しているため、普段の制服や体操服とは違い、身体の輪郭がはっきり分かるのである。


 別に肌が露出しているわけではない。それなのに、妙に恥ずかしい。


「……確かに、身体のラインがくっきり分かっちゃうね」


「そ、そうですわよね!」


「私もちょっと恥ずかしいかも!」


 遥まで照れくさそうに笑った。


挿絵(By みてみん)


 周囲の女子生徒たちも似たような反応で、お互いの格好を確認しては恥ずかしそうにしている。


 俺も鏡を見てみたが、そこには普段とずいぶん雰囲気の違う、スポーティーな黒髪の少女が映っていた。


「まあ!麻由さん、とてもお似合いですわ!」


「えっ!?そ、そうかな?」


「はい!スポーツがお得意な方のように見えます!」


 ……見た目だけならな。


 実際には、昨日の大浴場でのぼせたうえに、今朝から胃の心配ばかりしている人間である。


 そんなことを考えながら、俺たちは更衣室を出た。


 ☆☆


 広場には、すでに着替えを終えた男子生徒たちが集まっていた。


 俺たちが姿を見せると、何人かがこちらを振り返った。


「……おおっ」


「……何か、いつもと雰囲気違うな」


 ……ん?


 何だ、その反応。


 男子たちは一瞬こちらに見入ったあと、慌てて視線を逸らした。しかし、少しするとまたちらちらと見てくる。


「……ちょっと、見られてない?」


 遥が小声で呟いた。


「……うん。何か、すごく見られてる気がする」


「ま、まあ……!」


 麗奈は頬を赤くし、落ち着かなさそうにしている。ほかの女子たちも同様で、何となく身を寄せ合っていた。


 ……いやいや、そんなに珍しいか?


 確かに普段とは違う格好だけどさ。


 ……そんな需要あんのか?


 ウェットスーツだぞ?川で着るための装備だぞ?


 俺が男子たちの反応に呆れていると、広場に明るい女性の声が響いた。


「はーい!皆さん、お待たせしました!」


 建物から現れたのは、黒を基調としたウェットスーツを着た、長い髪の綺麗な女性だった。


「……おおっ!」


「……めっちゃ綺麗な人じゃん」


 男子たちから、先ほどより大きな声が漏れる。


 ……おいおい、今度はそっちかよ!


 しかし、俺はそれどころではなかった。


 ……館長!?


 そこにいたのは、昨夜の広場で俺の秘密を見抜いた、あの女性スタッフだったのである。


「皆さん、おはようございます!本日のラフティングを担当します。よろしくお願いしますね!」


 館長はにこやかに挨拶した。


「私はインストラクターの資格を持っていますので、安全についてはしっかり説明させてもらいます。皆さんも、説明をよく聞いてくださいね」


 ……へえ。あの館長、インストラクターの資格まで持ってるのか。


「ねえねえ、麻由ちゃん!すっごく綺麗な人だね!」


「ふふっ。本当にお美しい方ですわ!」


 遥と麗奈が嬉しそうに話しかけてきた。


「それに、とても優しそうですわね。あのようなお姉様がご担当なら、安心して参加できそうですわ!」


「そうそう!怖い人じゃなくてよかったね!」


「……あ、あはは……」


 俺は曖昧に笑った。


 ……いや、優しい人なのは間違いない。


 昨夜だって、泣き出した俺にハンカチを貸してくれたし、秘密を守るとも約束してくれた。


 ただ、一つだけ気になることがある。


 ……あの館長も、酒が入ってるんだよな。


 昨夜、俺の目の前でビールを飲んで女性の姿になったのだから、今もその効果が続いているのだろう。


 ……大丈夫なのか?


 資格があるのは分かったけど、酒が入った状態で川下りの指導をするのは、さすがに心配なんだけど!?


 そんなことを考えていると、不意に館長と目が合った。


「…………!」


 館長は一瞬だけ目を丸くしたあと、ふっと優しく微笑んだ。


 俺もぎこちなく会釈すると、館長は小さく頷き、何事もなかったように生徒たちへ向き直った。


 ……うん。やっぱり、この人は神経が太い。


 ☆☆


「それでは皆さん、ライフジャケットとヘルメットを装着してください!」


 館長の案内で装備を受け取り、スタッフにサイズや装着状態を確認してもらった。


「おおっ!何か本格的になってきた!」


「いよいよ川下りという感じがいたしますわね!」


 遥と麗奈は相変わらず楽しそうである。


 一方、俺はライフジャケットを着た瞬間、別の感想が浮かんでいた。


 ……さらに窮屈になったんですけど。


 ウェットスーツだけでも締め付けられている感じがするのに、その上からライフジャケットまで着るのである。


 もちろん、安全のために必要なのは分かっている。


 分かっているんだけど、何だか全身を装備で固められている気分だった。


 その後、ヘルメットも装着し、俺たちは施設の駐車場に停まっていたバスへ案内された。


「これから川の出発地点まで移動します!」


 ……えっ?まだ移動するの?


 てっきり施設のすぐ近くに川があるのかと思っていた。


 俺たちはバスに乗り込み、山道を進み始めた。


 ところが、十分ほど経った頃には、早くも自分の考えが甘かったことを思い知らされていた。


「わあー!景色すごいね!」


「本当ですわ!山がとても近くに見えます!」


 窓の外には綺麗な山々が広がっている。


 ……うん。景色は確かに綺麗だ。


 問題は、その道である。


 右へ曲がったかと思えば左へ曲がり、少し進むとまた急なカーブが現れる。


 そのたびにバスが揺れ、俺の胃の中まで一緒に揺さぶられているような気がした。


「……うっ」


 ……ちょっと待て。


 まだ川に着いてないんですけど。


「麻由ちゃん?大丈夫?」


「あ、あはは……ちょっと、バスに酔ったかも……」


「えっ!?まだ着いてないよ!?」


 ……知ってるよ!それが一番困ってるんだよ!


 俺は何とか笑顔を作ったものの、次のカーブであっさり崩れてしまった。


 ……もうやばいんですけど!


 ラフティングって、川に着いてから始まるんだよな!?


 俺、まだボートどころか川すら見てないんだけど!?


 そんなとき、ふと前方に座っている館長の姿が目に入った。


 ……ん?


 何だか、様子がおかしくないか?


 館長は座席の背もたれに片手を添え、妙に静かに座っていた。先ほどまでの穏やかな笑顔も消え、少し顔色が悪いように見える。


 俺がじっと見ていると、館長がゆっくり振り返った。


「…………」


「…………」


 目が合った瞬間、館長は何とも言えない表情で微笑んだ。


 ……いや、その笑顔、無理してません?


 俺が思わず胃のあたりを押さえると、館長もほとんど同じタイミングで、お腹に手を添えた。


 ……おい。


 もしかして、あんたもか!?


 館長は困ったように眉を下げ、小さく肩をすくめた。


 ……やっぱりかよ!


 同じ体質の人に出会えたのは嬉しかったし、秘密を理解してくれる相手がいるのも心強かった。


 でも、こんなところまで同類である必要はないだろ!


「麻由ちゃーん!もうすぐ着くって!」


「ふふっ。いよいよですわね!」


 遥と麗奈の弾んだ声を聞きながら、俺はもう一度館長と目を合わせた。


 館長もこちらを見て、力なく微笑んでいる。


 ……頼むから。


 インストラクターと参加者が二人揃って、川に着く前にダウンするなんてことだけはやめてくれよ!?


 そんな俺たちの願いを知ってか知らずか、バスはさらに曲がりくねった山道へと進んでいった。


 ……ラフティングって、こんなに過酷な競技だったっけ!?




 まだ始まってもないけど……。

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