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酒を飲むと女子高生になる俺、35歳にして高校生活をやり直す  作者: ワグ
第三章:宿泊学習、何も起きないはずがない!
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第43話 迷子のお嬢様と、少し近づいた心の距離【挿絵あり】

 昼食のカレー作りが終わり、少し休憩を挟んだあとのこと。


「それでは、午後の活動を始めます!」


 屋外の広場に集まった俺たちに、永井先生が声をかけた。


「午後は予定どおり、班対抗のクイズラリーです!施設の歴史や周辺の自然に関する問題を解きながら、各地点を回ってもらいます。班のみんなで協力してくださいね!」


 各班には地図と解答用紙が配られ、正解数とゴールまでの時間によって順位が決まるという。


 学校でも説明を受けていたが、実際に地図を渡されると、何だか少しわくわくしてくる。


「麻由さん!頑張りましょうね!」


 隣にいた麗奈が、やる気に満ちた表情で声をかけてきた。


「うん!みんなで頑張ろう!」


「はい!わたくし、こういった活動は大好きですの!」


 麗奈は嬉しそうに微笑むと、配られた地図を広げた。


「まずは最初の問題がある場所を確認いたしましょう!」


「白川さん、気合い入ってるね!」


 遥が感心したように声を上げる。


「ふふっ。せっかくの班対抗ですもの。できることなら、一位を目指したいですわ!」


「おおっ!いいね!」


 遥も楽しそうに笑った。


 ただ、二人のやり取りを見ていて、俺は少しだけ気になることがあった。


 遥は麗奈に対して、どこか遠慮があるのだ。


 俺には気軽に話しかけてくるし、柴田とも午前中の調理を通して随分打ち解けた。それなのに、麗奈と話すときだけは、微妙に距離を置いているように見える。


 別に仲が悪いわけではない。ただ、どこか一線を引いているというか。


 ……まあ、麗奈は理事長の娘だしな。


 俺は普通に接しているが、同級生からすれば、やはり気を遣う相手なのかもしれない。


「それでは皆さん、参りましょう!」


 麗奈が先頭に立ち、俺たちは出発した。



 ☆☆



「ええと……最初の問題は、こちらですわね!」


 麗奈が地図を確認しながら歩いていく。


 俺と遥がその後ろに続き、柴田は周囲の植物を興味深そうに眺めていた。


 佐々木は少し間を空けて、だるそうな足取りでついてきている。


 しばらく進むと、木製の看板が見えてきた。


「あっ!あれじゃない?」


 遥が指さした先には、『第一問』と書かれた札が立っていた。


「見つけましたわ!」


 麗奈が嬉しそうに近づき、問題文を読み上げる。


「『この宿泊施設が開設されたのは、今からおよそ何年前でしょう?』……ですって!」


 選択肢は三つあり、三十年前、五十年前、七十年前となっていた。


「うーん……五十年くらい?」


「私もそれくらいだと思うけど……」


 遥と俺が首を傾げていると、麗奈がぱっと顔を上げた。


「七十年前ですわ!」


「えっ、分かるの?」


「ええ!以前、お父様からお聞きしたことがありますの。こちらの施設は、白玲学園が利用を始めるよりも前からあったそうですわ!」


「へえ、そうなんだ!」


「ですから、七十年前が正解だと思いますわ!」


 確かに、麗奈はこの施設について少し知っているらしい。


「じゃあ、七十年前にしようか」


「はい!」


 俺が解答用紙に記入すると、麗奈は満足そうに微笑んだ。


「幸先がよろしいですわね!」


「うん!この調子で行こう!」


 遥も元気よく頷いた。


 しかし、問題はそのあとだった。


「次はこちらですわ!」


 麗奈が地図を広げ、迷いのない足取りで歩き始めた。


 俺たちもその後ろをついていく。


 ところが、五分ほど歩いたところで、妙なことに気づいた。


「……あれ?」


 見覚えのある建物が目に入った。


 さっき通ったはずの、屋外炊事場である。


「……麗奈ちゃん?」


「はい?」


「ここ、さっき通らなかった?」


「まあ?」


 麗奈が不思議そうに辺りを見回した。


「……そういえば、見覚えがありますわね」


「いや、見覚えがあるどころか……」


 俺が言いかけたところで、遥が声を上げた。


「あっ!あそこ、さっきの第一問の看板じゃない!?」


 ……本当だ。


 見事に元の場所へ戻ってきていた。


「…………」


「…………」


 俺と遥が顔を見合わせる。


 麗奈はしばらく地図を眺めたあと、申し訳なさそうに眉を下げた。


「……どうやら、道を間違えてしまったようですわ」


「そうみたいだね……」


「ご、ごめんなさい!わたくし、地図を読むのがあまり得意ではなくて……」


「いや、まあ、そんな気はしてたけど……」


 そういえば、麗奈と初めて出会ったときも、道に迷っていたんだった。


 あのときは、白玲学園へ行きたいという麗奈を案内したのがきっかけで知り合ったんだよな……。


「……白川、地図、逆」


 後ろから佐々木の声がした。


「……えっ?」


「……そっち、南」


「まあっ!?」


 麗奈が慌てて地図を回転させる。


「……本当ですわ!」


「……アンタわざと難易度上げてる?」


 佐々木はそう言いながらため息をついた。


「ふふっ……あははっ!」


 突然、遥が笑い始めた。


「ご、ごめん!私も地図が逆って事知ってたんだけど、白川さん、すっごく自信満々だったから!」


「も、もう!遥さんったら!」


 麗奈が頬を赤くする。


「わたくしだって、間違えることくらいありますわ!」


「うんうん!分かってるって!」


「もう……!」


 麗奈は恥ずかしそうに頬を膨らませた。


 その様子が何だか可愛らしくて、俺も思わず笑ってしまった。


 ☆☆


 その後、俺たちは改めて地図を確認し、次の問題へ向かった。


 今度は俺と遥も道を確認することにしたので、さすがに迷うことはなかった。


「第二問ですわ!」


 麗奈が嬉しそうに看板を見つける。


 そこには、この地域に生息する植物についての問題が書かれていた。


「『この周辺の山林でよく見られる落葉広葉樹は、次のうちどれでしょう?』……ですって」


 選択肢はブナ、スギ、マツの三つだった。


「……あ、あの……」


 そのとき、柴田が小さく手を上げた。


「ん?どうしたの、柴田さん?」


「……た、多分……ブナ、だと思います……」


「おっ!分かるの?」


「……は、はい……スギとマツは針葉樹なので……」


「なるほど!」


 遥が感心したように頷く。


「柴田さん、詳しいね!」


「……い、いえ……植物が、好きなだけで……」


「ふふっ。萌さんは植物にとてもお詳しいんですのよ!」


 麗奈が嬉しそうに微笑んだ。


「茶道部でも、お花についていろいろ教えてくださるんですの!」


「……そ、そんな……」


 柴田は恥ずかしそうに俯いた。


 午前中のカレー作りでもそうだったが、柴田は自分の得意なことになると、少しずつ積極的になれるようだ。


 俺たちは柴田の答えを採用し、次の地点へ進んだ。その後も、施設の歴史や周辺の自然に関する問題が続いた。


 麗奈は知識を生かして答えを考え、柴田は植物や自然に関する問題で活躍する。


 俺と遥も意見を出し合い、分からない問題はみんなで相談した。


 佐々木は相変わらず少し後ろを歩いていたが、時々ぼそっと正解らしいことを口にする。


「……それ、三番」


「えっ、何で分かるの?」


「……説明、さっき館長が言ってた」


 ……ちゃんと聞いてたのか。


 あんなにだるそうだったのに。


 そんなふうに班で協力しているうちに、気づけば残りの問題も少なくなっていた。


「皆さん!あと少しですわ!」


 麗奈が地図を握りしめ、元気よく声を上げる。


「最後まで頑張りましょうね!」


「おー!」


 遥が拳を上げた。


 麗奈も嬉しそうに拳を上げようとして、途中で少し恥ずかしそうに手を下ろす。


「……こ、こうですの?」


「そうそう!ほら、白川さんも!」


「で、では……おー、ですわ!」


 ……語尾までお嬢様なのか。


 俺は思わず笑ってしまった。


 そのときだった。


「……ねえ、麻由ちゃん」


 遥が小さな声で話しかけてきた。


「ん?」


「……白川さんってさ、どんなことでも一生懸命に頑張るよね」


「うん。そうだね」


 俺は少し前を歩く麗奈へ目を向けた。


 逆さの地図を片手に、柴田と何やら楽しそうに話している。


 さっき道を間違えたばかりだというのに、まったく懲りていないらしい。


「……勉強もできるし、運動もそこそこ得意だし。それなのに、こういう行事でも手を抜かないんだよね」


「麗奈ちゃんらしいよね」


「うん……」


 遥は少し考えるように黙った。


 それから、ぽつりと呟く。


「……それにさ、誰に対しても変に気を遣わないっていうか……」


「……うん?」


「ほら、白川さんって理事長の娘じゃん?」


「ああ、うん」


「だから、私も最初はちょっと話しかけづらかったんだよね」


 ……やっぱり、そうだったのか。


「何ていうか、失礼なこと言っちゃいけないとか、変なことしたらまずいかなとか……そんなことばっかり考えちゃって」


「……そっか」


「でも、白川さんのほうは全然そんなこと気にしてないんだよね」


 遥は前を歩く麗奈を見つめた。


「私にも普通に話しかけてくれるし、柴田さんにも優しいし。誰に対しても同じように接してくれるんだなって」


「うん。麗奈ちゃんはそういう子だよ」


 俺が頷くと、遥は少し困ったように笑った。


「……それなのに、私だけ勝手に一歩距離を置いてるの、何だか馬鹿みたいだなって」


「そんなことないと思うよ」


「えっ?」


「だって、遥ちゃんだって麗奈ちゃんのことをよく知らなかったんでしょ?だったら、最初は遠慮しちゃうのも仕方ないよ」


「……うん」


「でも、今は少し分かってきたんじゃない?」


 遥は少し驚いたように俺を見た。


 それから、ふっと笑う。


「……そうだね」


 その表情は、どこかすっきりしているように見えた。


「よしっ!」


 突然、遥が両手を握りしめた。


「私、もうちょっと白川さんと仲良くなってみようかな!」


「うん!いいと思う!」


「へへっ!」


 遥は嬉しそうに笑うと、前を歩く麗奈へ駆け寄っていった。


「白川さーん!」


「まあ!どうされましたの?」


「ねえ、白川さん!次の問題も一緒に頑張ろうね!」


「もちろんですわ!」


 麗奈がぱっと笑顔になる。


「わたくし、一人ではまた道を間違えてしまいそうですもの!」


「あははっ!それ、自分で言っちゃうんだ!」


 二人が楽しそうに笑い合う。


 さっきまでの微妙な距離感が、少しだけ縮まったように見えた。


 ☆☆


 最後の問題は、施設の裏手にある小さな広場に設置されており、施設の周辺にある山の名前を答えるものだった。


 幸い、近くに案内板があったため、全員で確認して答えを記入する。


「これで全部だね!」


「はい!あとはゴールへ戻るだけですわ!」


 麗奈が地図を広げる。


 その瞬間、俺と遥は同時に声を上げた。


「あっ、麗奈ちゃん!地図はこっち向き!」


「白川さん!そっち逆!」


「……まあっ!?」


 麗奈が目を丸くする。


 そして、少し頬を赤くしたあと、くすっと笑った。


「ふふっ。お二人とも、ありがとうございますわ!」


「もう!白川さんったら!」


 遥が楽しそうに笑う。


「でも、そういうところ、ちょっと親しみやすいかも!」


「まあ?そうですの?」


「うん!何でも完璧なのかと思ってたけど、意外とそうでもないんだなって!」


「そ、それは……褒められているのでしょうか?」


「もちろん!」


 ……いや、微妙なところだと思うぞ。


 しかし、麗奈は嬉しそうだった。


「ふふっ。では、これからもよろしくお願いいたしますわね、遥さん!」


「うん!よろしくね、白川さん!」


 二人が顔を見合わせて笑う。


挿絵(By みてみん)


 どうやら、少しずつ打ち解けてきたらしい。


 俺としても、友達同士が仲良くなるのは嬉しいことである。


「……ねえ」


 そのとき、後ろから佐々木の声がした。


「ん?どうしたの、佐々木さん?」


「……そろそろ戻らない?」


「あっ!」


 そうだった。


 まだゴールしていなかったんだ。


「ご、ごめん!じゃあ、行こうか!」


「はい!今度こそ迷わず戻りますわ!」


 麗奈が元気よく宣言し、俺たちは賑やかに話しながら、ゴールのある施設へと戻っていった。


 ☆☆


「お疲れ様でしたー!」


 施設の玄関前に戻ると、先生やスタッフの人たちが出迎えてくれた。


「皆さん、解答用紙はこちらへお願いします」


 女性スタッフの一人が、にこやかに声をかけてくる。


「はい!」


 俺は班の解答用紙を渡した。


「ありがとうございます。こちら、お茶をどうぞ」


 人数分のお茶を受け取り、みんなに配る。


「ふうー!結構歩いたね!」


「そうですわね。でも、とても楽しかったですわ!」


 遥と麗奈が楽しそうに話している。


 柴田も満足そうに微笑んでいた。


 すると、隣にいた佐々木が、ふと顔を上げた。


「…………」


 その視線は、お茶を配っていた女性スタッフに向けられていた。


「……佐々木さん?」


「…………」


 佐々木はしばらく、その女性をじっと見つめていた。


「どうかしたの?」


「……多分だけど」


「ん?」





「……お酒入ってる」






「…………っ!?」


 ヒュッ、と喉が鳴った。


 ……えっ!?


 な、何で!?まさか、バレた!?


「……何か、一瞬お酒臭かった」


「…………!」


 俺は反射的に口を押さえ、息を止めた。


 ……まずいまずいまずい!


 まさか、佐々木にまで気づかれるとは!俺は慌てて口を押さえ、息を止めた。


「……転校生」


「…………!」


「……何してんの?」


 佐々木が怪訝そうにこちらを見る。


「……息、止めてる?」


「…………!」


「……意味分かんない」


 ……いやいや!こっちは必死なんだよ!


 しかし、佐々木は俺に構うことなく、再び女性スタッフへ視線を戻した。


「……あの人、仕事中なのに」


 ……ん?


 あの人?


 俺は恐る恐る口から手を離した。


「……佐々木さん、今のお酒の話って……」


「……あの人のことだけど」


「…………」




 ……そっちかよ!




 思わず大きく息を吐くと、佐々木がじとっとした目を向けてきた。


「……何でそんなに焦ってんの?」


「い、いや!別に!」


「……ふーん」


 ……その反応、やめてくれませんかね!?


 佐々木はそれ以上追及せず、手元のお茶を飲み始めた。


 

 俺も何事もなかったような顔をして、お茶を一口飲んだ。


 ……危なかった。


 まさか、佐々木が匂いだけで気づくとは。しかも、ほんの一瞬だったと言っていたよな?


 ……犬か、お前は。


 俺は横目で佐々木を見た。


 本人は何も気にしていない様子で、ぼんやりとお茶を飲んでいる。


 ……待てよ。


 この子、もしかして俺のことも……?


 一応、朝はしっかり口臭ケアをしてきたはずだけど……。


「……何?」


「な、何でもない!」


「……変な奴」


 ……頼む。


 その鼻だけは、俺のほうに向けないでくれ!


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