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酒を飲むと女子高生になる俺、35歳にして高校生活をやり直す  作者: ワグ
第三章:宿泊学習、何も起きないはずがない!
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第40話 楽しい宿泊学習、俺だけ別の意味で命懸けです【挿絵あり】

 宿泊学習当日の朝。


 俺はリビングのテーブルに並んだ三本の空き缶を眺め、ため息をついた。


 いつもなら二本で済ませるビールを、今日は三本飲んでしまったのである。


 何しろ、今回の宿泊学習は一泊二日だ。普段の学校生活なら夕方まで麻由の姿でいられればいい。しかし今回は夜も翌朝も、ずっとこの姿を保たなければならない。


 途中で元の男の姿に戻ったら、どうなるか。


 ……考えたくもない。


「だけど……今日も可愛いなあ……」


 鏡には、長い黒髪の少女が映っていた。問題は、その少女が朝から結構酔っ払っていることである。


 頬は赤いし、頭もふわふわしている。自分でも無茶だとは分かっていたが、結局、宿泊学習を乗り切る得策は思いつかなかった。


 仕方なく、酒の効果を切らさないという作戦を選んだのだ。


 リュックには予備の飲み物も入っている。それから、胃の調子を整えるための飲み物も用意した。


 竹内と飲んだ帰り、タクシーで吐いてしまった苦い記憶がある。今度はバスで同じ失敗をするわけにはいかない。


「……よし、行こう」


 俺は長袖長ズボンの体操服に着替え、リュックを背負った。


 ☆☆


 学校へ向かう道すがら、俺は二週間前の班決めを思い出していた。


 あの日、永井先生から五人一組で班を作るよう言われた俺は、真っ先に麗奈と遥のところへ向かった。


「麻由ちゃん!一緒の班になろうね!」


「うん、もちろん!」


「わたくしもご一緒してよろしいですの?」


「当たり前だよ、麗奈ちゃん!」


 三人まではあっさり決まった。ところが、残り二人となるとなかなか難しい。


「誰か誘おうよ!」


 遥が教室を見回したとき、麗奈が窓際の席に目を向けた。


「あら、萌さんもまだ決まっていないようですわね」


 そこには、黒緑眼鏡をかけた女の子が一人で本を読んでいた。彼女は確か、柴田萌(しばたもえ)。周囲が班決めで騒いでいるのに、背中を丸めてひっそりとしている。


「……ああ、確か柴田さんだよね?」


「ええ。同じ茶道部なんですの。お誘いしてみますわ!」


 麗奈は迷わずその席へ歩いていった。


「萌さん!」


「ひゃっ!?」


 柴田が肩を跳ねさせ、本から顔を上げた。


「あ、し、白川さん……?」


「よろしければ、わたくしたちと同じ班になりませんこと?」


「……えっ?わ、私が……?」


「もちろんですわ!」


 柴田は本を抱きしめ、困ったように視線を泳がせた。


「で、でも……その……私、あまり……」


「よかったら一緒にどうかな、柴田さん?」


「私も歓迎だよ!」


 俺と遥が声をかけると、柴田はますます小さくなった。


「……あ、あの……よろしく、お願いします……」


「まあ!ありがとうございます!」


 麗奈は嬉しそうだったが、柴田はどう見ても断りきれなかった感じである。


 こうして四人になったものの、最後の一人が決まらなかった。


「あら、佐々木さんがまだだったわね」


 出席簿を見ていた永井先生が顔を上げた。


「花川さんたちの班、空いてるわよね?佐々木さんに入ってもらいましょう。今日はお休みだから、先生から伝えておくわ」


「えっ、あ、はい……」


 ……決定しちゃったよ。


 佐々木カレン。ピンクメッシュの長いウェーブヘアが印象的な、欠席の多いクラスメイトだ。教室で何度か見かけたが、まともに話したことはない。


 どんな子なのかも分からないまま、俺たちの五人班が完成したのだった。


 ☆☆


「麻由ちゃーん!おはよう!」


 校門へ着くと、遥が元気よく手を振ってきた。


「おはよう、遥ちゃん!」


「いよいよだね!楽しみ!」


「うん!そうだね!」


 俺も笑顔で答える。……実際には不安でいっぱいだけどな。


 校門前には大型バスが並び、長袖長ズボンの体操服を着た一年生たちが集まっていた。


「麻由さん!遥さん!」


 ハニーブラウンの髪をハーフアップにまとめた麗奈がやってきた。


「ごきげんよう!わたくし、昨夜は楽しみでなかなか眠れませんでしたの!」


「おはよう、麗奈ちゃん!」


「白川さんもそんなことあるんだ!」


「もちろんですわ!」


 麗奈が笑うと、遥もつられて笑った。ただ、遥の言葉にはまだ少し遠慮がある。


 麗奈は誰にでも気さくに話しかけるのだが、理事長令嬢という立場のせいで、相手のほうが身構えてしまうのだ。


 今回の宿泊学習で、遥とも気兼ねなく冗談を言い合えるようになるといいな。


「あっ、萌さん!」


 麗奈が声をかけた先には、リュックの肩紐を握りしめた黒緑眼鏡の柴田萌がいた。


「おはようございます、萌さん!」


「お、おはようございます……」


 柴田は小さく頭を下げた。どうやら、今日も緊張しているらしい。


 ☆☆


「はーい!一年二組、集合して!」


 永井先生の声に、生徒たちが集まっていく。


「出発前に、抜き打ちの手荷物検査をしまーす!」


「…………へ?」


 俺の笑顔が固まった。


 手荷物検査?今、手荷物検査って言った?


「宿泊学習に必要のないものを持ってきていないか、確認するからね!」


「えーっ!聞いてないですよ!」


「だから抜き打ちなのよ!」


 ……ここはテーマパークの入場ゲートか何かか!?


 さっそく男子の鞄から携帯ゲーム機が見つかった。


「宿泊学習中はゲーム禁止って言ったわよね?」


「バスの中だけでも……」


「駄目です!帰るときまで先生が預かります!」


「ええーっ!」


 男子はがっくりと肩を落とした。


 ……容赦ねえ。


 しかし、俺には笑っている余裕がない。リュックには予備のビールを持ってきているのだ。


 とはいえ、検査される可能性は考えていた。蓋付きのエナジードリンクの缶に飲み物を入れ替えてある。外見だけなら普通の缶と変わらない。


 ……落ち着け。大丈夫なはずだ。


「次、花川さん!」


「は、はいっ!」


 先生がリュックのファスナーを開けた。


「…………」


 そして、ぴたりと動きを止める。


「……花川さん?」


「は、はい!」


「……これ、何?」


 リュックの中には、エナジードリンクの缶がぎっしり詰まっていた。


「……えっと、飲み物です!」


「それは見れば分かるわよ!どうしてこんなにあるの!?」


「あ、あはは……水分補給用に……」


「水分補給!?」


 先生は呆然と俺を見つめた。


「飲み物は持ってきていいって言ったけど、こんなに飲んだら身体壊すわよ!?」


 ……ごもっともです。


「エナジードリンクにはカフェインが入ってるのよ。大量に飲んだら危険なんだからね!」


「は、はい……」


「水やお茶もちゃんと飲むこと!具合が悪くなったらすぐ先生に言うのよ?」


「分かりました!」


 先生はため息をつき、リュックを閉じた。


「まったく……次の人!」


 ……助かった。


 俺はリュックを抱え、そそくさと列を離れた。


「麻由ちゃん!エナジードリンク、あんなに持ってきたの!?」


 遥が目を丸くしている。


「あ、あはは……ちょっとね」


「ちょっとって量じゃなかったよ!?」


「ふふっ。麻由さん、とても楽しみにしていらしたんですのね!」


 麗奈はなぜか嬉しそうだった。


 ……いや、麗奈ちゃん。そういうわけじゃないんだ。


「……あ、あの……」


 柴田がおずおずと声をかけてきた。


「……お顔が……少し、赤いですけど……大丈夫、ですか……?」


「えっ!?あ、うん!ちょっと暑くて!」


「……そ、そうですか……」


 柴田は心配そうに頷いた。


 ……この子、意外とよく見てるな。


 それにしても、まだ四人しかいない。


「そういえば、佐々木さんは?」


「まだ来てないみたいだね」


 遥が辺りを見回す。


「もうすぐ出発ですのに、心配ですわね」


 そのときだった。


「……あー、だる……」


 背後から、気の抜けた声が聞こえた。


 振り返ると、ピンクメッシュの長いウェーブヘアの女子が歩いてきていた。全員と同じ体操服姿なのに、妙に近寄りがたい雰囲気がある。


 佐々木カレンだ。


「……あー、いた。おまたせー」


「お待ちしておりましたわ、カレンさん!」


「おはよう、佐々木さん!」


「……ん。おはよ、白川、坂井」


 佐々木は柴田にも軽く顎を向けた。


「……柴田もよろしく」


「……よ、よろしくお願いします……」


 そして最後に、俺を見る。


「……あんたが噂の転校生?」


「あ、うん!花川麻由です。よろしくね、佐々木さん!」


「……ふーん。よろしく、転校生」


 ……名前で呼んでくれないのかよ。


 佐々木はそれだけ言うと、スマホを取り出した。


 七原も見た目は不良っぽいが、話してみると面倒見がいいし、意外と真面目だ。それに比べて佐々木は、本当に周囲に興味がなさそうだった。


「ふふっ。これで五人揃いましたわね!」


 麗奈は嬉しそうに微笑んでいる。


 ……なかなか個性的な班だな。


 でも、これも何かの縁だ。宿泊学習が終わる頃には、五人で気軽に笑い合えるようになっていたら嬉しい。柴田や佐々木とも、できれば仲良くなりたい。


 ……まあ、その前に。俺自身が無事に乗り切らなきゃいけないんだけどな。


 すると佐々木が、俺のリュックへ目を向けた。


「……ねえ、転校生」


「えっ?何?」


「さっき先生に怒られてたじゃん。エナドリ、そんなに好きなの?」


 見られてた。

 

「あ、あはは……まあ、ちょっと……」


「……ふーん。変わってんね」


 佐々木は欠伸をして、スマホをしまった。


「……さっさとバス乗ろ。だるい」


 ……この子。


 七原より、よっぽど本物の不良っぽいぞ。


 こうして、何とも微妙な五人組の宿泊学習が始まった。


挿絵(By みてみん)

いつも本作をお読みいただき、ありがとうございます!


これまで朝7時10分と夜19時10分の1日2話更新を続けてきましたが、今後は毎日19時10分の1日1話更新に変更させていただきます。


更新ペースは少しゆっくりになりますが、これからも楽しく読んでいただけるよう、執筆を続けていきたいと思います。


引き続き、花川麻由たちの物語をよろしくお願いいたします!


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