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『パッパラッパッパー』

Sing along! パッパラッパッパー!」


 突き刺さるようなスポットライト。

 弾ける歓声。

 揺れるステージと会場。

 彼女の声は、確かに魔法だった。


 


 僕は、その日、人生で初めてライブという場所に立っていた。

 観客として、だけれど。

 だけど、そんなことは関係ない。

 気がつけば、手は自然と空へ伸びていた。

 体が勝手に動いていた。

 ステージの上の、あの“光”に導かれるように。


 


 ──彼女は、神様なんじゃないか。

 そんなことを、本気で思った。


 



 


 僕は、何もかもがつまらなかった。

 学校も、家も、自分自身さえも。

 目立つことは苦手だったし、やりたいこともなかった。

 ただ平凡な毎日の中に、埋もれるように生きていた。


 


 そんな僕に、あのチケットをくれたのは姉だった。


「この子、すごいんだよ。“チャーミング・ウィング”っていうアーティスト。人気らしいよ」


 名前すら聞いたことがなかった。

 でも、断る理由もなく、僕は流されるようにライブへ向かった。


 



 


 そして今、僕は気づいていた。

 ──彼女は“魔法”だ。


 


 彼女は歌い、笑い、踊る。

 翼なんてない。

 でも、彼女の背中には確かに“光”が揺れていた。


「無敵で素敵な衝撃! 刺激的な少女とは、私のことです!」


 冗談みたいに堂々と言うその声に、誰もが笑った。

 だけど、本当にその通りだった。

 彼女が一歩踏み出すだけで、会場が自然と波打つ。

 叫び声も拍手も、全部、彼女の手のひらの上だった。


 


 そして──僕もその一人だった。


 


「僕らこのパーティがあれば、そう! 何にでもなれるのさ!」


 観客の一人として叫ぶ彼女の声に、僕は気づいた。

 ずっと諦めていた自分自身が、少しだけ熱くなっていることに。


 



 


 ライブが終わっても、心の中の音楽は消えなかった。

 帰り道、ぬるい自販機のアイスティーを飲みながら、僕はぼんやり考えていた。

 なんだったんだ、あの時間は。

 ただのライブだったはずなのに。


 


 ──また行きたい。


 


 そう思った。

 僕の中に、新しい感情が生まれていた。


 



 


 次の週末、僕は一人で再び会場へ向かった。

 今回は姉ではなく、自分の意志で。

 そのときにはもう、彼女の名前を覚えていた。

 “チャーミング・ウィング”。


 街の片隅の小さなライブハウス。

 けれど、僕にとっては“世界の中心”だった。

 彼女はそこにいた。

 僕の目の前に。

 まるで約束されていたように。


 


「おかえり!」


 彼女は言った。

 誰に言ったのかなんて関係ない。

 僕に向けた言葉だと勝手に信じた。


 


 再び始まる魔法の時間。

 Sing along.

 Swing along.

 Place to be──。


 僕は、ここで生きていると、心から思えた。


 



 


 それから、何度も通った。

 僕は少しだけ変わっていった。

 学校でも笑うようになった。

 姉に言われて気づいた。


「なんか最近、前より楽しそうだね」


 ああ、そうか。

 魔法は確かに、僕の中に根を下ろしている。

 チャーミング・ウィング。

 あの光が、僕の心に少しずつ色をつけていた。


 



 


 季節は過ぎた。

 そして、その日は突然来た。


 


「……解散します」


 ライブハウスで、彼女はそう言った。


「理由は秘密。でも、大丈夫。また会えるから!」


 笑ってそう言う彼女の目は、どこか泣きそうだった。

 観客たちも泣いていた。

 僕も──涙を堪えるのに必死だった。


 


 最後の曲。

 僕は手を伸ばした。

 君の魔法を、もう一度だけ掴みたくて。


「照らしていてよ。最後まで!」


 それが、僕たちの合言葉だった。


 


 終わった。

 光は消えた。


 



 


 僕は元の、何もない少年に戻った。

 でも──もう、空っぽじゃなかった。


 


 魔法は消えたわけじゃない。

 君がくれた光は、今も胸に残っている。


 あの日までの僕とは違う。

 何もできないと思っていた。

 でも、そうじゃなかった。


 僕は“歌える”んだ。

 君が教えてくれたんだ。


 



 


 大学生になった僕は、今、小さなライブハウスで歌っている。

 自分の声は下手だ。

 君みたいな魔法は持っていない。

 だけど──


「Sing along!」


 この声は、誰かに届くと信じている。


 


 ──ステージの隅、君がいた気がした。

 あの日と同じ、チャーミングな光。

 僕は目を閉じて、心の中で呟く。


「おかえり」


 今度は、僕が言う番だ。


 


 パッパラッパッパー──

 この歌は終わらない。

原曲 fhána 愛のシュプリーム!

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