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100年先の約束


どこから春が巡り来るのか、私は知らなかった。

ただ毎年、いつの間にか季節は巡り、私は大人になっていた。

見上げた先に燕が飛んでいた。

気のない顔をして、私はその飛翔をただ眺めるだけだった。


幼い頃、私は翼が欲しかった。

空を自由に飛び回り、悲しみや痛みから逃れられると信じていた。

でも願う度に、心は深い淵の中に沈んでいった。

「さよなら、100年先でまた会いましょう」――そんな約束を胸に秘めて。


心配しないでと自分に言い聞かせながらも、いつの間にか花は落ちていた。

誰かが私に嘘をついたのだろうか。

どんなに土砂降りの雨でも構わず飛んでいく燕たちの力が、なぜか羨ましかった。


恋に落ちた。

誰かと。

でも、恋は儚く砕け、やがて離れ離れになった。

口の中は血が滲み、空に唾を吐いた。

痛みが心を裂いた。

「瞬け、羽を広げ、気儘に飛べ、どこまでもゆけ」――それだけが私の願いだった。


時は流れ、私は冬の終わりにしぐるる町へ足を踏み入れた。

そこかしこで人の袖が触れ合い、ぬくもりがあった。

だが見上げた先には何も居なかった。

「ああ、居なかった」――その言葉が胸に重くのしかかる。


「したり顔で、触らないで」

誰かの無神経な言葉が背中を殴りつけた。

それは的外れな痛みだった。

人が宣う地獄の先にこそ、私は春を見る。

そう信じていたから。


誰かを愛したくて、でもその愛はいつしか痛みに変わり、雨や霰のように降り注いだ。

繋がれていた縄を握りしめ、私はそれを噛みちぎった。

「貫け、狙い定め、蓋し虎へ、どこまでもゆけ」

自分自身を解き放つ力を求め、私は走り続けた。


100年先のあなたに、もう一度会いたい。

消え失せるなよ、私の記憶の中で。

「さよーなら、またいつか」――それが私のささやかな希望だった。


今、私はまた恋に落ちた。

そしてまた砕けて、離れ離れになるだろう。

口の中は血が滲み、空に唾を吐く。

でも、今は羽を広げて気儘に飛べる。

どこまでも、どこまでも。


生まれた日から私は私でいたのだ。

知らなかっただろうけれど。


春が巡り来て、またどこかで巡り会うその日まで。


原曲 米津玄師 さよーならまたいつか


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