『マイルール・レジスタンス』
朝8時45分。スマホのアラームが鳴る。
3回目だ。つまり、今日は3度目の“限界”ってこと。
「……やっぱムリ。あと15分」
布団の中に潜り込んで、毛布をぎゅっと抱きしめる。
窓の外は晴れ。風は強そう。天気予報は“ややだる日”。
登校ギリギリまで粘って起きる——これが私の朝のマイルールその1。
***
私の名前は朝比奈みのり。高校2年生。
成績は下から数えた方が早いけど、保健体育はちょっと得意。
あとはまあ、元気だけが取り柄……って言いたいけど、実際は「無理しない主義」で生きてます。
「お前、朝からテンション低っ」
クラスメイトの拓真が声をかけてくる。
はい、うるさい。テンションは朝の気温と反比例するの、知らないの?
「……7時台から元気な人間は信用しないことにしてるの」
「何その偏見。寝てる間に悪夢でも見たか?」
「逆。夢の中でずっとぐーたらしてた。完璧な休日。現実が負けた」
そう言うと、拓真は笑った。
「……じゃあ、現実もぐーたらしとけば?」
「したいよ。でも、しすぎると将来ニート直行じゃん。だから、今のうちに“楽するための苦労”してんの」
「お前……言ってること深いようで浅いな」
「失敬な。私は“明日の私のために今日もなんとか頑張る”んです!」
どや顔で言ってやった。
***
放課後。部活はない日。
こういう時は、まず寄り道しない。最寄り駅までの坂道をマイペースで歩いて帰る。
そして帰宅後は、お風呂、アイス、スマホ、寝落ち。これがマイルールその2〜4。
だけど今日は——例外。
「みのりー!カラオケいこー!」
莉子に呼び止められた。クラスでもテンション高めのギャル担当。彼女には勝てない。
「え、今日って平日……だよね?」
「うん!そうだよ?逆に“平日だからこそ”でしょ!」
「逆にとは?」
「疲れてる日こそ声出したらスッキリするじゃん!理屈は知らんけど!」
……言ってること、ちょっとだけ分かるのが悔しい。
「まあ……いいか。今日“だけ”ね?」
こうして、カラオケボックスに入室した私たちは、2時間、半端ないぱっぱらっぱっぱらっと暴れ倒した。
私が選んだ曲は、自分で書いたオリジナルの歌詞——。
「眠くなったら寝る お昼過ぎに起きる
遊びたくて遊ぶ お腹減ったらご飯を食べる」
莉子が目をまんまるにして言った。
「なにその歌!ズルい!天才かよ!」
「だろ?」
***
家に帰ると、妹の優菜(中学生)がリビングに転がっていた。
スマホ片手にため息。テスト週間らしい。
「どうせやっても意味ないんだよね〜」
「それ、めっちゃ分かるけど、やんなきゃさらに意味なくなるよ」
「姉ちゃんは?」
「私は、“やりたくないことやらないためにやりたくないことやってる”だけ」
「それ矛盾してない?」
「してる。でもそれが“マイルール”ってもんよ」
優菜は苦笑いしながら言った。
「姉ちゃん、ゆるそうに見えて、意外と頑張ってるよね」
「えっ。うれしいけど、それを声に出すのやめて。照れる」
***
夜10時。スマホのメモアプリを開く。
私は最近、歌詞を書くのが日課だ。
誰に見せるでもない。歌手になりたいわけでもない。
でも、「今日も無事だった」を言葉にすると、ちょっと自分を褒めたくなる。
「怠惰じゃないや これ多分そうだ
なんやでやることやっています!WHAT?&BUT
誰に知られなくたって別にいいから
私には私のマイルール」
書き終えて、画面を見てにやける。
「よし、今日も“まぁ頑張った”でしょ!」
そう呟いて、スマホを置いて、アイスを食べて、布団にもぐる。
そして思う。
明日も「頑張らなくていいように」頑張るために、今日もよく寝よう。
***
朝比奈みのりの「マイルール」は、完璧な計画でも、鋼の意志でもない。
だけど彼女は毎日、「楽するために頑張る」という矛盾を抱えながら、ちゃんと前に進んでいる。
世界がどう思おうと関係ない。
このささやかな「自分時間」を守りながら、今日も彼女は言う。
「けっきょく、私ってば……とっても偉いじゃないか!(Fight!)」
そして、布団の中から叫ぶ。
「半端ないぱっぱらっぱっぱらっ!限界突破らっぱっぱらっぱらっ!」
原曲 ナナヲアカリ 明日の私に幸あれ




