後日談 前編
月曜日の朝。
僕はそわそわと落ち着かない気持ちで、通学路を歩いていた。
今日は楓さんと付き合い始めてから、初めての登校日だ。
楓さんとは昨日のうちに一緒に登校をする約束をしており、僕は今、その待ち合わせ場所に向かっているところだ。
楓さんと一緒に登校することができるのは、とても嬉しい。
だけど、それは僕と楓さんが付き合っていることを、周りが知ることにもなる。
楓さんは学校では知らない人がいないくらいの有名人だし、集まる注目も大きなものになるだろう。
その後どのような反応が返ってくるのか、まったく想像がつかない。
願わくば、ポジティブな反応が返ってくることを祈るばかりだ。
待ち合わせ場所に着くと、そこにはすでに楓さんと透の姿があった。
楓さんは僕に気づくと、笑顔で手を振ってくる。
僕も軽く手を振りながら、駆け足で楓さんのところまで走っていく。
「ごめん。待たせたかな?」
「ううん、そこまで待ってないよ。私も今来たとこ」
こういうやり取りをする日がくるなんて。
恋人っぽい会話に、少しくすぐったい気持ちになる。
僕は次に透の方に視線を向ける。
「おはよう、透」
「おう、おはよう。どうやら上手くいったようだな。おめでとう」
透は僕たち二人を見てそう言った。
「透には一緒に服を見てもらったり世話になったね。今度お礼をするよ」
「別に礼なんていらないぞ。また何かあったら遠慮なく言ってくれ」
本当に心までかっこいい男だな。
僕もこういう男になりたいものである。
「それじゃ、学校に行こうか?」
僕が二人にそう言うと、楓さんが手を差し出してくる。
楓さんを見ると、期待のこもった顔でこちらを見ている。
「いいかな?」
「……うん」
透がいる手前、少し恥ずかしいが、僕はしっかりと楓さんの手を握った。
楓さんは嬉しそうに僕の手を握り返してきた。
三人で登校中。
予想通り、僕たちは他の生徒から注目を集めていた。
みんな遠巻きに僕たちを見ている。
誰も近寄ってこないのは、僕の隣を歩く透が原因だろう。
透は僕と楓さんの会話には入ってこないで、無言で僕の隣を歩いている。
たったそれだけで、周りには威圧感を放っているように見えるようで、今のところ誰も近寄ってはこない。
実を言うと、透とは今日待ち合わせの約束をしていない。
最近は透と行動することが多いから、それに対してとくに疑問には思わなかったのだけれど。
「もしかして、このために来てくれたの?」
僕がそう言うと、透はニヤリと笑い「今日だけだぞ」と言った。
透の気遣いに感謝しかない。
他の人の視線にも慣れてきたころ。
「おはよぉー、かえでー」
僕たちの後方から、欠伸まじりの声が聞こえてきた。
そちらに視線を向けると、眠そうな顔をした女子生徒が、こちらに走ってくるのが見えた。
話したことは一度もないけれど、僕でも知っている女子生徒だ。
楓さんの親友で、名前は確か中村美桜さんといったか。
中村さんは僕と楓さんを交互に見ると、笑みを浮かべる。
「かえでー。さっそく朝からイチャイチャしてるの? 朝から元気だねぇ」
楓さんは中村さんの言葉にくすくす笑う。
「おはよう、美桜。美桜は相変わらず朝は元気がないね?」
「うん。朝はどうしても苦手」
仲の良さが伝わってくる会話をする二人。
しばらく二人の会話を聞いていると、中村さんがこちらを見た。
「小鳥遊くん、これからは楓のことをよろしくねー。少し面倒くさい子だけど、悪い子じゃないからさ」
「は、はい。わかりました」
中村さんは僕の返事に満足げに頷くと、楓さんの隣に並ぶ。
中村さんの言葉が照れくさかったのだろう。楓さんが中村さんを軽くこづいている。
中村さんはそれを完全に無視して、真反対にいる透に声をかける。
「なになにー。邪魔が入らないように、壁になってあげてんの? 私も手伝うよー」
「悪いな。助かる」
「いいよ。いいよ」
こうして僕と楓さんは二人に守られる形で、学校に登校することになった。
学校に着いた僕らは、それぞれの教室の前で別れる。
今までは透たちがいたけど、ここから先は自分の力でどうにかしなくちゃいけない。
後から透が来てくれることにはなっているけれど、頼りっぱなしというのも良くないだろう。
僕は少し緊張しながら教室の扉を開けた。
僕が教室に入ると、たくさんの視線が僕に集中した。
怯みそうになるのを堪えて、自分の席まで歩く。
僕の席の前にはすでに北くんが座っており、少しホッとする。
「おはよう、北くん」
「ああ、おはよう小鳥遊くん。どうやら告白は成功したようだな。今学校は君たちの話題でもちきりだぞ」
「ははは……」
スマホゲームをしながらそう言う北くんに、僕は苦笑しながら自分の席につく。
するとそれを見計らっていたように、数人の女子が興味津々といった様子で僕の席まで来た。
この一週間で、何回か話したことがある女子たちだ。
そのうちの一人が興奮気味にこう言った。
「ねえねえ! 小鳥遊くん! さっき羽月さんと手を繋いでいたけど、羽月さんと付き合ってるの?」
やはりと言うべきなのか。予想通りの質問に、僕は笑顔を浮かべて頷く。
「うん、そうだよ」
僕がそう答えると、女子たちはキャー! と歓声を上げる。
すると他の人たちも、少しずつ僕の席の周りに集まり始める。
「羽月さんとはどこで出会ったの!?」
「いや、それよりいつから付き合い始めたんだ!?」
「あっ! 私、二人がデートしてるところ見た!」
「えっ! どこで!?」
みんなの勢いは凄まじく、僕はその勢いに圧倒されてしまう。
すると北くんが呆れ顔でこう言った。
「みんな、小鳥遊くんが困っているだろ? 一人ずつ順番に質問しなよ」
北くんの声は、騒がしいこの場においても不思議とよく通り、みんなの勢いが少しずつ収まっていく。
「ありがとう」
僕は北くんに小さな事でお礼をする。
北くんは小さく微笑むと、スマホの方に視線を戻した。
その後はみんなも冷静さを取り戻し、僕は一人一人の質問に答えることができた。




