初デート 後編
「いらっしゃいませ!」
羽月さんの後に続いて店に入ると、元気な声で店員が出迎えてくれた。
「何名様でいらっしゃいますか?」
「二名です」
店員と簡単なやり取りをして、席へと案内される。
メニューを受け取りながら、店内をぐるっと見渡す。
騒がしい客は一人もいなくて、みんな静かに食事をしている。
店の中も明るく清潔感があって居心地がいい。
いい店だなと思った。
「なにを注文しようか?」
羽月さんとメニューを見ながら、何を注文するのか考える。
オムライスやハンバーグ、サンドイッチなどの定番のメニューが一通りそろっており、バリエーションも豊かだ。
どれにするか悩んだすえ、僕はパスタを、羽月さんはオムライスを注文した。
料理が運ばれてくるまでの時間を、羽月さんと雑談をしながら過ごす。
「その服、お兄ちゃんと一緒に買いに行ったんでしょ? とても似合っているよ」
先程言われたことを、羽月さんから改めて言われる。
「ありがとう。どれがいいのか悩みながら選んだんだ」
僕がそう言うと、羽月さんはくちびるを尖らせる。
「いいなー。私も小鳥遊くんの服を選びたかった」
「いやー、それは……」
デートをする相手に、服を選んでもらうのはありなのだろうか? 正直僕にはわからない。
「また機会があったら、頼もうかな」
「約束だよ?」
羽月さんの言葉に頷くと、羽月さんは嬉しそうに微笑んだ。
「お待たせいたしました」
そんなことをやっているうちに、店員が料理を運んできた。
僕たちの関心が料理に向いて、話はそこで一旦おしまいとなる。
「おいしかったね」
「うん、前からここのカフェ気になっていたんだけど、来てよかったよ!」
僕と羽月さんは満足感に浸りながら、食後のお茶を楽しんでいた。
料理はとても美味しく、僕たちは会話もせずに黙々と料理を食べていた。
羽月さんはここの料理を気に入ったようで、オムライスを食べた後に、ケーキまで注文していた。
少しは葛藤があったようだけど、欲求には勝てなかったようで、今は幸せそうな顔でケーキを食べている。
お茶を飲みながら、今週あった学校の出来事をお互いに話す。
「小鳥遊くんは今週どうだった? クラスのみんなから話しかけられていたようだけど、少しは慣れた?」
「まあ、少しはマシな返しができるようになったかな。最初はなんて返したらいいのかわからなかったから、言葉に詰まっていたんだけどね」
そう考えると、透や羽月さんとすぐに仲良くなれたのは、すごい事なのかもしれない。
たぶん二人の人柄がそうさせたのだろう。
「ふふ、うまい返しばかりしようなんて考えていたら、会話が続かないよ。自然体が一番だよ」
「羽月さんはそうかもしれないけどさ。僕の場合、少しは意識しないと」
「私は小鳥遊くんとのおしゃべり楽しいけどね」
羽月さんからそう言われて、僕は言葉をつまらせる。
やはりこの人はずるい。平気でこのようなことを言えるのだから。
僕は「ありがとう」と言って、羽月さんから視線を外した。
僕たちの間に沈黙が流れる。
しばらくして羽月さんの方を見ると、少しニマニマした顔で僕のことを見ていた。
「もしかして、僕のことをからかっている?」
「ふふ、バレちゃったか」
「まったく……」
僕はすねた態度をとりながらも、この会話を楽しいと感じていた。
しばらくおしゃべりを楽しんだ後に、カフェを後にして街へと繰り出す。
今回、カフェを出たあとの予定はとくに決められていない。
近くのショッピングモールに行くことは決まっているけれど、その後は完全にその時の気分で行動しようということになっている。
まだお互い、相手のことについて知らないことも多いし、その方がいいだろうとなったのだ。
初デートでこの試みはちょっとした博打かもしれないと思ったが、結果的にこのやりかたは正解だった。
「ねえ、見て見て! あの服、かわいい」
「完全にコスプレ衣装だね。なんでこんなところにあるんだろう?」
「お店の人の趣味なのかもしれないね。売り物じゃないようだし」
「個性が強い店だね……」
ショッピングモールにある服屋で、コスプレ衣装を発見して驚き。
「ここでお兄ちゃんと知り合ったの?」
「そうだよ。透から声をかけられてね。一緒にレースゲームをしたんだ」
「お兄ちゃん負けず嫌いだからなー。大変だったでしょう?」
「まあ、その後バッティングセンターまで連れて行かれたよ」
「まったく……」
ゲームセンターで透との出会いを羽月さんに話したり。
「あ、この映画観てみたいと思っていたんだ」
「どういう映画?」
「コメディ映画かな? すごく笑えるんだって」
「いいね。今度観に行こうよ」
「うん!」
映画のパンフレットを見ながら、次の遊びの予定を話したり。
時間の許す限り、羽月さんと街の中を遊び歩いた。
楓視点
小鳥遊くんと遊ぶのは楽しい。だけどそのぶん時間が経つのも早く感じる。
空を見ると、少しずつ暗くなってきている。
そろそろ帰らなくちゃいけない時間だ。
「今日はここらへんで帰ろうか? 家まで送っていくよ」
「うん……」
小鳥遊くんの言葉に頷く。
小鳥遊くんと並んで、私の家があるほうに歩いていく。
デートの最後に告白すると決めていたのだけど。
いざその時が来てしまうと、心臓の鼓動が早くなって、なんて言えばいいのかわからなくなってしまう。
たぶん私の顔も赤くなっているのだろう。
なんとか挙動不審にならないようにするので精一杯だ。
そんなことをしていると、景色が街のものから、見慣れた住宅地のものへと変わっていく。
少しずつ家に近づいている。
内心慌てていると、隣を歩いている小鳥遊くんが口を開く。
「羽月さん……」
「うん? なに?」
私がそう聞くと、小鳥遊くんは黙り込む。
髪の毛をさわったり、口を開いたり閉じたりと落ち着かない様子だ。
どうしたのだろうと疑問に思っていると、小鳥遊くんはこちらを真っ直ぐに見つめる。
「は、羽月さんのことが好きです……。僕と付き合って、ください」
小鳥遊くんが震えた声で言った。
「……え?」
小鳥遊くんの言葉が信じられず、私は思わず聞き返してしまう。
まさかこのタイミングで小鳥遊くんから告白されるとは思わなかったからだ。
小鳥遊くんを見ると、緊張からなのか顔が赤くなっている。
小鳥遊くんは私から目を逸らさずに、落ち着かない様子で私の返事を待っている。
不器用だけど、一生懸命。私が好きになった人の姿がそこにあった。
私の中から嬉しさがこみ上げてくる。
私は小鳥遊くんにしっかりと向き合うと、「よろしくお願いします」と返事を返した。
小鳥遊くんは目を丸くすると、「本当に?」と聞き返してくる。
私は小鳥遊くんの反応に少し笑ってしまう。
「本当だよ。これからよろしくね!」
小鳥遊くんは私の言葉に、何回も頷く。
「涼くんって呼んでもいい?」
「も、もちろん。僕も楓さんって呼んでもいい?」
「もちろん!」
たったこれだけのやりとりがとても楽しか感じる。
私たちはお互いの顔を見て、くすりと笑った。
涼視点
楓さんの家が近づいてきた。
僕たちは今、恋人らしく手を繋いで歩いている。
隣を見ると、楓さんが機嫌良く歩いている。
まさか本当に楓さんと付き合える日が来るなんて思わなかった。
勇気を出して告白して良かったなと思う。
「ねえ、小鳥遊くん」
「うん? なに?」
楓さんがこちらを見上げてくる。
「これから先も楽しい日々が続いていくといいね?」
「そうだね。そうなるように頑張るよ」
「うん!」
これから先も僕の日常は変化していくのだろう。
楽しいことだけじゃなくて、辛いこともあると思う。
だけど楓さんのためならば頑張ることができると、楓さんの笑顔を見て、僕はそう思った。
これで本編の方は終わりとなります。
この後についてですが。二話程度の後日談を投稿する予定です。




