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金色の瞳の剣姫は今日も世界を奔走する  作者: 世良きょう
第9章 善なる神の憂い
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第44話 背信者は何方だー善なる神の憂い編

淀み黒ずむ空気の中、真逆の眩い白い法衣の集団が颯爽と現れる。

マントの留め具に女神の象徴が用いられている事から、彼らが教会に属するアマデウス僧兵団である事を示していた。

幾ら周囲を見渡して確認をしてもザイラさんの姿はない。

呼び出されたのではなく、憲兵よりも早く駆けつけてくるのが疑惑の主とは何と言う偶然なのか。

帽子の魔族は教会付近の通りを(たむろ)しており、フェリクスさんの言葉から国から睨まれており、その疑惑は教会に向いているのは確かだ。

されど長く世界に根付き女神様を崇め、多くの信徒と共に祈りを捧げてきた教会に対してフェリクスさんの言葉のみで断言する事は難しい。


「おいおい・・・人数は少ないが此処での現れるのはあからさますぎじゃないか」


ヒューゴーの瞳が戸惑いながらも僧兵団を追っていく。


「これも、小芝居かもしれないと?」


騒ぎを聞きつけ、巡回している憲兵より早く帽子の魔族から私達や民の救出に現れる。

ヒューゴーは魔族の遭遇も襲撃も関連付けて考えているのだろう。

それを否定できないが、国からの疑惑がその程度で晴れるとは思えない。


「直前の事やアイツの話をまとめて考えりゃ、その可能性も否定できないだろ?」


余りにも作為的はないかとヒューゴーは眉間に皺を刻む。


「・・・そうだとしても助太刀は無用な様だし、此処は御言葉に甘えて見物させてもらいましょう」


僧兵達は団長らしき兜を被った人物の命令に陣を組むと、先ずは大盾を持つ者が路地を塞ぎ、帽子の魔族達を一斉に囲んでいく。

魔族も分が悪いと判断したのか、乱れ撃つが魔法は大盾に防がれ闘争は叶わず。

それを合図に後方から団長をはじめとしたメイスやモーニングスターを手にする僧兵が魔族達を制圧していく。

ただし、帽子の魔族達も愚かではない、命を奪われずとも倒れゆく同胞を捨てて影を渡りで難を逃れる者もいた。

術者がそれに感づき追跡、団長らしき人物は兜を脱いで留まると魔族達を睨んだ後、穏やかな海風が吹く三叉路を見回し小さく溜息をつく。


「治癒師は汚染者の浄化と治療をせよ。手が空いた者は何でも構わない、奴らの拘束の手伝いを頼む」


厳しい口調の指示を飛ばしながら、他の僧兵と共に腰帯など自身の身に着けている物で拘束していった。

杖を手にした治癒師達は頷き、急かす声に焦りながら穢れの影響を受けた人々に駆け寄る。

神聖術で穢れを祓いながら白魔法で怪我まで、それは丁寧に施していた。

ヒューゴーにそっと視線を向ける、何か思案している様だが険しい表情を浮かべては首を捻っている。


「くくくっ・・・今ここに罪深き姿を暴いてやろう」


低く嘲る声に振り向くと、団長は捕縛した魔族の帽子を掴み、顔を覗き込んだ。

帽子の下の素顔を凝視すると、次の瞬間には眉を吊り上げ眼を見開く。

その反応は何を意味するのか、慌ただしく駆け回る治癒師達に紛れる団長のらしき人物の行動をどう判断するべきだろうか。


「あの偉そうな奴、帽子の連中の事を知ってはいるみたいだな・・・でっ、突っ込んでみるか?」


ヒューゴーは眉間に皺を寄せて考える素振りを見せると、私の方へ振り向くなり手首を捻り団長を親指で指した。慎重にかつ地道に行くより一番詳しそうな者に訊ねる。

それは間違ってはいないが、ここで魔族が都に侵入していると口にすれば民の間で混乱が起きるはず。

故に、教会も必要以上に知らしめるような事は避けるだろう。


「一介の冒険者に話すとは思えないわ。だから、憲兵が来てからでも遅くないは無いと思う」


そもそも魔族との疑惑が公に知らされているかも不明だ。

ともかく先走るより、まだ探りを入れる状況にあると思う。


「成程、双方のやりとりを見て様子見か。面倒臭せぇな、俺は勝手にさせてもらうぜ」


ヒューゴーの目は怪訝そうに細まり組んでいた腕を解くと、杖を握りながら所在無さげにうろつく治癒師らしき少年に向けて手を振る。

忙しい時に相手にされるものかと冷めた目でそれを眺めていると思わぬことが起きた。

相手も此方に気付いて目を丸くすると、嬉しそうに杖を振り返す。

実に気軽に応じてくれたが、知り合いなのだろうか?


「あれ?アンタら、よく無事だったっスね。あっ!団長は飯の時間に遅れそうなんでイライラしてるだけだから気にしないで」


人懐こい表情を浮かべながら駆けてくる治癒師は他の者と違い、教会の紋の留め具もマントも身に着けておらず法衣を着崩しており、砂色の髪も寝癖だらけで整えられておらず入隊したばかりの様子。

ヒューゴーはぎこちない笑みを浮かべては静かに頷く、如何やら友人でも知り合いと言う訳でもなさそうだ。

私達の体を大袈裟な身振り手振りをしながら怪我は無いかと確かめると、辺りへも視線を配り、へらりと気も口元も緩める。


「そりゃあ、大変だな。それよか怪しい帽子を被った奴等、あの賊は何者なんだ?」


「ん-、どうすっかな。まあ、治癒師も足りてるし良いか・・・」


一応は躊躇して見せるも、治癒師は団長の顔色を窺った後に視線を傾けると頭を掻く。

あからさまな怠慢な発言から僅かに暇を置くと、直後に空気を震わせるような鐘の音が都に響き渡った。


「こりゃあ、硬いパンと具無しスープで決まりっスね」


治癒師は鐘を見上げると腹部を手で押さえると、がくりと肩を落とす。


「そりゃあ残念だったな。ってか如何なんだ?」


ヒューゴーは脱線しかけた話を軌道修正すると、治癒師は辟易とした表情を浮かべる。

口を滑らせないように釘を刺されているのか、あまり気が進まない様子だった。

暫し口を紡ぎ沈黙するも、自棄になったのか溜息と共にぽつぽつと口を開く。


「あー、あいつ等っスか・・・もっぱや目の上のたん瘤ってか、はた迷惑な奴らっス」


もしや、禁じられると余計に喋りたくなる性質なのだろうか。

治癒師は周囲の視線に怯える様に肩を丸めると、口元に手を当てながら声を潜める。


「迷惑?」


私は無理に聞き出すつもりはなかったが、ここは訊かずにいられなかった。


「あー、ちなみに俺はテッドっス。これ以上は、いちゃもんつけられる要因としか判んねぇし。教会に通う信者が気なしに減っていると言うか・・・」


話す内に(たが)が外れたのか酔いしれる様に語り出すテッドに、何故かしたり顔を浮かべるヒューゴー。

テッドの話を適当に聞き流していると、急に周囲が騒がしくなった。


「アメリア、ヒューゴー!待たせて悪かった・・・ね?」


港へ続く中央の上り坂をザイラさんは駆け上げってくるも、目の前のアマデウス僧兵団を目にするなり戸惑いから足を止める。

その背後から現れる紺と臙脂のカーライル王国の軍服を纏う数名の憲兵。

テッドを除く治癒師は救助者を介抱する手を止め、団長は魔族への尋問を中止すると憲兵が現れた通りへと目を向けた。。


「ああ、役目を奪ってしまい申し訳ない。まさか王都で禁術を使用する者と遭遇するとは思わなかったのでな・・・」


僧兵団の団長は状況が掴めない様子の憲兵団に苦笑すると、努めて穏やかな口調で語り掛ける。


「ほう、そんなとんでもない。メイウェザー団長、民の救助にご協力を頂き感謝しております」


憲兵団の中から、一人の男性が前へ歩み出たかと思うと(へつら)いながらメイウェザー団長の顔色を窺う。

恐らくは相手は憲兵隊の隊長と思われるが、その表情は何処か険しく、私達から見ても双方の関係は友好的とは言えない。


「うっわー、怖っ!最近の教会と国の連中、何時もあーなんっスよ。そもそも俺らに突然・・・ヒッ!」


この空気が張り詰めた状況下でもお構いなしにテッドの饒舌は止まらない。

おかげで国と教会の不仲を知る事ができたが、私達は部外者にも拘らずに黙っていても喋り続けるので気にかけていた所でメイウェザー団長から叱責が飛んできた。


「テッド・・・そこの冒険者の治療を終えたのなら口を慎め」


凄まれて短い悲鳴を上げ、恐怖に顔を引き攣らせた所で漸くテッドの口が閉じる。

メイウェザー団長が大きな溜息をついた所で、憲兵団は何も言わずに制圧された帽子の魔族の移送に取り掛かる。


「流石、憲兵団と言う感じだけど・・・」


町や人の被害もそうだが、メイウェザー団長から禁術に言及されているにも関わらず、他の罪人と同様に黙々と縄をかけていく。


「まあ、禁術関連は影で流れてくるなんて良く有るからな」


ヒューゴーは何処か懐かしむように苦々しい表情を浮かべると私の視線に気づき慌てて目を逸らす。

この感じは若気の至りと言う感じだろうか。

種族からして生活様式ゆえに、根無し草な彼らはきっと口にしないだけで様々な物を見ているんだろうな。

視線を戻すと、憲兵側は帽子の魔族の拘束を中断して部下と団長で小声で何か相談している姿が目に留まった。

部下の人の顔色は青白く、酷く焦っている様子から帽子の下を見てしまったのかもしれない。

団長は顔を険しくさせると部下を突き放し、持ち場へ戻らせると肩を竦めて見せた。


「教会も下の者の躾がなってなくて困る事ばかりですな・・・ところで、罪人は此方が引き受けるが宜しいか?」


メイウェザー団長は憲兵の団長の行動を見て訝しそうに眉を顰めていたが、その小馬鹿にしたような物言への対応は至って冷静だった。


「裁きを下すのは国の務めだ、端からそちら側に引き渡すつもりだった。ただ、此方の事は君達とは関係あるまい・・・」


「これは出過ぎた真似をしてしまい申し訳ない。私はマイク・ボウマン、同じ役職で紛らわしいのでボウマンとお呼びください」


ボウマン隊長は眉尻を下げると苦笑する。

メイウェザー団長はそこから視線を逸らすと、憲兵たちの様子を見て小さく溜息をついた。


「では、ボウマン隊長。忠告し直そう、奴らの侵入を許したと言う事は禁術及び道具に注視すべきだ。特に近々、祝福の儀により各国から人が集うが故に何かが遭っては遅い」


メイウェザー団長は眉を顰め、その心中を現す様に強く釘を刺す。慢心をしてはいけないと。

祝福の儀(ブレッシング)は、世界中から一定の年齢に達した子供達が集まる最大の儀式である。

女神様により選別され、各精霊王から自身の魔核に宿す精霊を得る事により魔法を得ると言う世界最大の儀式。

教会と各国の祭殿と協力で執り行う、それ故にこの魔族の潜入は大きな懸念と教会は考えている様に見える。然し、国側からはやはり教会への悪感情が見え隠れしているように思えた。

両者は互いに口を結び、息苦しい沈黙が都の玄関口に流れる。

そんな中、困惑するザイラさんが此方に助けを求める様に視線を彷徨わせている事に気付いた。


「こっち!」


「早く来い!」


私達が身振りを交えて必死にザイラさんに手招きをしていると、ボウマン隊長が漸く口を開く。


「・・・御忠告に感謝痛み入る、それこそ手出し無用ですよ。それに我々は何があろうと女神ウァルミナスの敬虔(けいけん)な信徒、祝福の儀は何があろうと必ずや執り行うと上から聞き及んでいますよ」


ボウマン隊長の瞳は鋭く、静かな口調に疑念が入り混じっているように見えた。

これにはメイウェザー団長も不快そうに顔を強張らせる。


「それは如何いう意味だ?」


まるで背信者疑惑をにおわせる露骨な皮肉を不遜にも吐き捨てるボウマン隊長。

やはり国は教会への疑念を持っている、それも信仰への疑惑を抱くなんて。

団長同士が睨み合いながら擦違う寸前、罪人の列から悲鳴のような叫び声が聞こえた。


「ヒッ!止めろ何をっ・・・」


鈍い音と共に石畳が赤く染まる。

罪人たちを移送する憲兵の一人が頭を抱え(うずくま)っており、それを庇うようにザイラさんがメイスを握るテッドの腕を捻り上げていた。

本日も当作品を最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。


祝福の儀をまじかに控えた王都に渦巻く疑惑と魔族。

その原因と狙いとは?

それでは次回までゆっくりと御待ち下さい。


************

次回も無事に投稿できれば5月18日20時に更新致します。

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